日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は3月11日、オンラインで記者会見を開き、東日本大震災から10年を経て東北地方に根付き、成長する自動車産業を概観するとともに、2050年のカーボンニュートラルに向け「エネルギーグリーン化」を推進しなければ日本の自動車産業は衰退するとの危機感を訴えた。(佃モビリティ総研・松下次男)
会見はちょうど10年前に東日本大震災が発生した日に当たる節目の中で行われた。このため、豊田会長は当時を振り返りながら、東北地方に根付き、同地で拡大する自動車産業を感慨した。
震災当時の日本の自動車産業は超円高など6重苦と言われた中にあり、そこへ日本の半分近くが被災に合う東日本大震災が追い打ちをかけた。もはや「自動車産業は成熟産業」という見方さえあった
このような中で、東北地方の人たちは「自動車産業に期待し、復興のど真ん中に置いてくれた」と述べ、これに応える形で「自動車産業という実業を通じ、東北の皆様と一緒の未来をつくる」ことに取り組んだと述懐した。
日産自動車は福島でエンジン工場を、トヨタは東北を中部、九州に続く第3の生産拠点に位置づけ拡大してきた結果、新たなモノづくりも始まった。
その一つとして豊田会長は「地元企業の多くが自動車部品にチャレンジしてくれた」ことを掲げ、その成果として「8000人雇用拡大し、東北地方からの出荷額で8000億円増加した」と強調した。
先進技術も進んでおり、「東北生産の多くは電動車であり、その比率は8割を超えている」と述べた。
また、復興支援などを目的に豊田会長は毎年3月に東北地方を訪問しており、今年は昨春稼働開始した福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)などを視察した。
FH2Rは再生可能エネルギーを利用した世界最大級のグリーン水素製造装置を備えた実証実験施設であり、実用化されれば燃料電池車(FCV)の普及拡大を後押しするとして期待がかかっている。
これに対し、豊田会長はモビリティの観点からプロジェクトの支援を要請され、同施設を視察したという。そして水素社会実現のためには「水素を作る、運ぶ、利用するというすべてのプロセスをつなぐことが重要」と述べ、FH2Rの作るR&D(研究開発)に加え、運ぶ、使うという実装の観点から参画すると表明した。
支援については「FH2Rの水素製造能力は900トンであり、これはクルマにすると約1万台分。これは浪江町ではオーバーキャパシティだが、隣接の福島市や郡山市、いわき市などに適応できる。これら30万人都市というのは日本の自治体で最も多い都市の規模」と述べ、全国展開へ向けたキャパシティや有効性の検証に役立つとの見方を示した。
さらに「東北の人たちと一緒にカーボンニュートラル社会という未来を実現することが自動車産業の役割だと思っている。自動車をカーボンニュートラルのど真ん中に置いてほしい」と強調した。一方で、そのためには「エネルギー政策と産業政策をセットで実現することが重要だ」とも指摘した。
特に日本ではエネルギー消費に占める化石燃料の比率が75%と高く、電動化の進展に懸念を表明。カーボンニュートラルに向け「EV(電気自動車)化すればよいという単純な話ではない」とし、CO2(二酸化炭素)排出の観点から「全く同じ(トヨタの)ヤリスを日本とフランスで作っても、(エネルギー分野でCO2排出量の多い)日本製は使ってもらえない」と危機感を表した。
その結果は、「輸出が減少し、雇用にも響く」と述べ、再生可能エネルギーなどCO2排出量の低いエネルギーへの転換を並行して進めるよう求めた。
この時期の自工会会長会見では次年度の需要見通しを発表してきたが、コロナ禍で「予想が不可能」として昨年度に続き予測を見送った。ただし、豊田会長はサプライチェーンのためにも「基準を示す」ことが重要と述べ、可能な時期に公表したいとした。
半導体不足で自動車生産が滞った問題でも、コロナ禍で「基準を示せず、半導体業界が減産したのが要因の一つ。そこへ民生用の需要が拡大し、自動車も予想より早く回復に向かった」と述べ、コミュニケーションの重要性を指摘した。
東京モーターショーについても「そろそろ決定しなければならない時期」としながらも「見通しは立っていない」とした。