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2021年11月13日【ESG】

国内自動車各社、使用燃料の選択肢を広げる取り組みを拡大

坂上 賢治

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全ては来たる2050年のカーボンニュートラル実現を目指すため

 

トヨタ・マツダ・スバル・ヤマハ発動機・川崎重工業の5社は11月13日の午前、国内自動車レースの「スーパー耐久2021・第6戦」予選セッション開催直前の岡山国際サーキット(岡山県美作市)内で報道陣を募って記者会見を開き、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、内燃機関を活用した燃料の選択肢を拡張していくための挑戦を開始すると発表した。(坂上 賢治)

 

 

そのひとつは、トヨタ・マツダ・スバルの3社が揃ってカーボンニュートラル燃料を使い、スーパー耐久シリーズに参戦するというもの。

 

ふたつめに、ヤマハ発動機・川崎重工・スズキ・本田技研工業の二輪4社は、二輪車に搭載するための水素エンジン開発を前提に、共同研究の可能性について検討を始める。

 

そこでトヨタ・マツダ・スバル・ヤマハ発動機・川崎重工業・スズキの関係トップ並びに役員・技術者が揃う二部体制で同会見実施に臨んだ。なお同日開催のスーパー耐久2021年・第6戦(岡山)には、水素エンジン搭載車のカローラスポーツが、さらなる車両改良を施し今回も出走している。

 

 

マツダは次世代バイオディーゼル燃料の普及を目的に来季フル参戦へ

 

まず上記同会見概要を踏まえたレース挑戦の計画発表で、マツダが次世代バイオディーゼル燃料の普及を目的に、ディーゼルエンジン(SKYACTIV-D 1.5)を搭載した競技車両にユーグレナから提供された100%バイオ由来の次世代バイオディーゼル燃料(使用済み食用油や微細藻類油脂が原料)を使用して参戦。この秋から来季へのフルシーズン参戦の準備を進める。

 

 

もちろん今回、ディーゼルエンジン搭載の競技車両を走らせるマツダも、販売車両の開発・展開についてはトヨタと同じくカーボンニュートラルの実現を視野に、HEV(ハイブリッド)モデルやディーゼルエンジンモデル、BEV(バッテリー式電気自動車)モデルの他、PHEV(プラグインハイブリッド)モデルも相次いで投入する事によって、引き続きパワートレイン・ラインアップのさらなる拡充を目指して行く事に変わりはない。

 

なお来季シーズンのレース参戦に向けては、スバルもST-Qクラスでバイオマス由来(生物由来などの有機性資源から製造されるという意味)のカーボンニュートラル燃料(こちらの燃料タイプは現段階では明らかになっていない。おそらく燃料の市販化を前提に供給側との折衝を進めるものと見られる。ちなみに国内レースカテゴリではスーパーGTに於いて、廃棄物由来のエタノールベース・バイオ燃料の使用検討が始まっている)を使用する2.4リットル水平対向・自然吸気エンジンを搭載したBZRベースの車両を投入。

 

対してトヨタは、GR86をベースにしたボディにGRヤリスの3気筒ターボエンジン(会見では1.4リットルと明言/ターボ係数を掛ける事で対決姿勢・同一出力条件下でのエンジン開発を明確にしたものと見られる)を搭載した車両で、同じくカーボンニュートラル燃料を使用しST-Qクラスに参戦する予定だ。

 

 

水素エンジン車両による〝ORCルーキーレーシング〟による参戦は続く

 

トヨタが今季、デンソー(直噴インジェクター・点火プラグの開発を担当)などの外部企業と協業し、連続出場を果たしてきた(富士スーパーテック24時間レース、スーパー耐久レースinオートポリス、鈴鹿S耐)水素エンジン搭載車両によるレース参戦は、来季に於いても引き続き豊田章男トヨタ社長が率いる〝ORCルーキーレーシング〟が参戦を続けて行く。

 

トヨタの水素エンジン車によるレース参戦に関しては、上記過去3戦を通して毎回改善を重ね、今回までの約6ヶ月間で出力を約20%アップ、トルクを約30%向上させた。さらに「鈴鹿S耐」からの約2ヶ月では、出力・トルクを5~10%向上させ、同水準の出走クラスを走るガソリンエンジン車に迫る性能を実現している。

 

一方、燃費水準は維持(仮に富士スーパーテック24時間レース時と同じ出力に揃えた場合、約20%の燃費向上が可能)しつつ、水素の充填昇圧率を上昇させ、水素の充填時間を2分以内に短縮(水素ステーションノズル接続から抜くまでの作業時間)させている。

 

 

第6戦では福岡市から下水バイオガス由来のグリーン水素を使う

 

なお同日開催の耐久レース参戦にあたっては、今季は一貫して〝地産地消〟をテーマに掲げてきた水素エンジンカローラである事から、新たに岡山国際サーキットでは、岡山から近い福岡市から水素の供給を受ける事になっている。

 

ちなみに福岡市は、2015年から市民の生活排水から、下水バイオガス由来の水素を開発・製造(実用化は世界初/水素製造能力は3,300Nm3/日、トヨタミライの水素充填換算で約60台分・1台あたり55Nm3として換算)している。

 

そこで今回は、福岡市中部水処理センターで下水処理をする際に発生するバイオガスから作られるCO2を増やさないグリーン水素を用いて岡山の耐久レースに挑む。加えて、福岡市から岡山県美作市迄の水素輸送にあたっては、トヨタ輸送が担う大型・中型トラックでの運搬用車両の燃料としてユーグレナの次世代バイオ燃料を使用した。

 

 

トヨタ・マツダ・スバルが揃ってレース活動を開始する理由は、カーボンニュートラルの実現を目指す動力源の開発にあたって、過酷かつ素早い車両開発が求められるレース競技の現場がアジャイル開発を行うには最も適している事。

 

さらに活動自体が多くの人の目に触れる事から成果の伝播効果としても効率が高い事に着目した。トヨタ・マツダ・スバルの参画3社は、来季以降、技術開発のスピードを上げてカーボンニュートラル化のより迅速な実現に挑戦していく。

 

それは世界から求められる多彩なカーボンニュートラル要求に応えるため

 

同日実施の共同記者会見では、燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」選択肢をさらに広げていくために(1)カーボンニュートラル燃料を活用したレースへの参戦、(2)二輪車等での水素エンジン活用の検討、(3)水素エンジンでのレース参戦継続の3つの取り組みに挑む事が、先の3社の実施計画の骨子になるとした。

 

 

今回の内燃機関と組み合わせる燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」に関して、連携拡大を図っていく事で合意した関連5社(トヨタ・マツダ・スバル・ヤマハ発動機・川崎重工)は、今後もカーボンニュートラル実現を視野に電動化への取り組みを精力的に進めていく事はもちろん、国内外の自動車ユーザーに向けて、より多くの燃料・動力源の選択肢を提供することを併せて目指して行く。

 

上記の〝多くの選択肢を提供する事〟の理由についてはおそらく、米・欧・日本・中国・ASEAN・中東・アフリカなど、様々な地域・国家・政府の事情により、2020年代・2030年代・2040年代と個々時代で求められるカーボンニュートラルの要求が違ってくるためであろう。

 

 

炭素中立燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」の選択肢を提案する

 

例えば今日に於いて、自国の交通社会でBEV実現を望む地域には、それに沿ってBEVを提供する。その一方で、電力供給網の整備が緩やに進んで行く途上国に於いては、カーボンニュートラル燃料で走る動力車とそれに応えられる燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」仕組みを提案する事で、いち早くカーボンニュートラル社会を目指す各国・各地域経済の活力を削ぐ事なく、着実な炭素中立社会を後押しして行きたいという意志が見て取れる。

 

そうした背景により川崎重工は、2010年から次世代エネルギーとしての水素に着目。社会生活に必要なサプライチェーン全体(「つくる」「はこぶ」「つかう」)に亘る技術開発を進めてきた経緯がある。そうした事から現在、オーストラリアの褐炭から作った大量かつ安価な水素を日本へ「はこぶ」ための実証試験を開始している。

 

2021年度中には川崎重工が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」による水素の輸送を予定し、また「つかう」では、2018年に世界で初めて成功した市街地での水素100%を燃料とするガスタービン発電技術(環境負荷の低いコージェネレーションシステムの実現)を確立させた。

 

こうして培った水素燃焼技術をベースに、航空機用、船舶用、二輪車用といった陸・海・空のモビリティ向けの水素燃料エンジンの開発も今日に於いても精力的に進めている。

 

 

業界を超えた仲間づくりから世界規模のカーボンニュートラル実現へ

 

その川崎重工と同じく、日本並びに世界の二輪産業を牽引してきたヤマハ発動機は、二輪車やROV(四輪バギー)の他、例えばかつてのトヨタ2000GTの6気筒エンジンなど、自社外の動力源開発でも持ち前の技術力を発揮し続けており、現在でもエンジン開発で多彩な技術供給を行っている。

 

そこで2050年に向けた今日、ヤマハ発動機は、新規の設備導入の準備と社内での動力源開発体制を強化。実際、近年ではトヨタの水素エンジンカローラへの協力(エンジンの試作・燃焼検討・出力性能向上検討やレースでの適合・耐久試験のサポートに加え、一部エンジン部品の設計を担当)のみならず、トヨタ外に於いては、電動ユニットでもスーパースポーツカー向けの大出力モーターの製品開発にも熱心だ。

 

 

今後の日本国内の二輪産業では、先の川崎重工にこのヤマハ発動機。さらに本田技研工業とスズキが4社連合で、二輪車への搭載を視野に水素エンジンの共同研究など内燃機関を活用したカーボンニュートラル実現への可能性を探っていく。

 

もちろん4社が全ての分野で共同していくという事では無く、4社の協調と競争を分けるべく協調領域と協働研究の枠組みを明確にした上で推進していく。

 

今回、二輪4社が水素エンジンの共同開発に取り組む事を前言した背景について、先のヤマハ発動機による発言では、水素を元に作られるとされる今日のeフューエルは、既存の内燃エンジンで実装させるための対応技術は比較的容易に獲得できると考えている。一方で、その前段階の水素そのものを直に使用する水素エンジンの開発は、技術的なハードルが高いと考えている。

 

従ってeフューエル対応エンジンに取り組むに先立ち、より要求技術が難しい水素エンジンの開発に取り組む事は、2050年のカーボンニュートラルの実現を俯瞰した時、技術的に遠回りのように見えて、むしろ様々な知見を得るには、より良い選択肢になると見ていると述べた。

 

最後に上記国内自動車3社と二輪車4社は、「カーボンニュートラル実現に向けた選択肢を広げ、雇用や暮らしを守りながらより良い社会づくりに貢献していくべく、今後も互いの強みを持ち寄り、さらなる連携を深めていくと共に、業界を超えた仲間づくりを積極的に推進していきます」と結んでいる。

 

 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。