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2024年10月30日【MaaS】

トヨタ、NTTと自動運転基盤の共同構築へ

松下次男

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交通事故ゼロ社会を28年頃社会実装、30年以降に普及・拡大へ

 

トヨタ自動車と日本電信電話(NTT)は10月31日共同記者会見を開き、交通事故ゼロ社会の実現や自動運転の高度化に活用する「モビリティAI(人工知能)基盤」を共同で構築すると発表した。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

記者会見したトヨタの佐藤恒治社長とNTTの島田明社長は同基盤づくりの狙いについてクルマ単体の自律型の技術進化だけでは限界があるとし、ヒト・モビリティ・インフラが「三位一体」で絶えず繋がるインフラ協調型の取り組みが必要と強調。

 

 

このため、通信分野に強みを持つNTTと共同で取り組むことで、交通事故の無い安全安心かつサステナブルなモビリティ社会の実現を目指す取り組みに大儀があると表明した。

 

基盤づくりの取り組みは同日からスタート。2030年までに両社で約5000億円規模の投資をし、2028年頃からパートナーと三位一体でインフラ協調による社会実装を開始する計画だ。これを踏まえて、2030年以降に普及拡大を目指す。

 

また、モビリティAI基盤づくりに当たってはモビリティ分野での標準化を目指す考えで、幅広く産官学のパートナーへ活用、参加を呼び掛ける方針だ。

 

モビリティAI基盤は切れ目のない通信基盤と大量のデータを賢く処理するAI基盤、計算基盤を組み合わせて、構築する。

 

 

自動運転基盤は標準化を視野に産官学へ仲間づくりを呼びかけ

 

具体的には、AIで膨大なデータを分析/処理するための計算資源となる分散型計算基盤(データセンター)、市街地や地方・郊外などの様々な交通環境・状況に適した切れ目ない通信によりヒト・モビリティ・インフラを協調させる仕組みのインテリジェント通信基盤、分散型計算基盤とインテリジェント通信基盤を土台にしてヒト・モビリティ・インフラからの多様なデータを学習・推論するAI基盤の3要素で構成する。

 

また、島田社長は分散型計算基盤をつなぐ通信にNTTの次世代通信技術「IOWNI(アイオン)」を活用すると表明した。

 

こうしたモビリティAI基盤が実現すれば、市街地・交差点での出会いがしら事故防止や安全・安心な移動サービス、高速道路でのスムーズな合流が可能となり、交通事故ゼロに向けた社会実現に一歩近づく。

 

佐藤社長は近年、技術進化で交通事故総数は減少してきたものの、下げ止まり感もあり、この先、さらに下げるには「リスク予測が必要」と述べ、次世代技術を活用した今回のモビリティAI基盤づくりの意義をアピールした。

 

トヨタとNTTは2020年3月に資本業務提携を発表しており、これまでにも技術や産業の発展を通じた社会貢献など幅広い意味で社会課題の解決に向けた取り組みで協業を深めていた。

 

こうした中で、モビリティや通信技術を「取り巻く環境が変化してきた」(佐藤社長)ことから、今回のモビリティ分野におけるAI・通信の共同取り組み合意へと一気に進んだ。

 

 

共同記者会見の主な質疑応答は次の通り

 

――モビリティAI基盤を構築する意義は。
「ヒト・モビリティ・インフラの三位一体を協調したモビリティ社会を作っていくということは非常に重要な知見と思っています。これまでも安全、安心という観点から自律型、モビリティ単体での技術進化の取り組みが行われてきましが、今後より高度に安全、安心なモビリティ環境を作っていくためにはモビリティと通信が一体となった社会基盤を作っていくことが重要となります。そういう観点から両社で取り組みことに大儀があると考えています」

 

――交通事故ゼロに向けた課題は。
「技術の進化に伴って事故の総数は減っているものの、減少率の下げ止まり感も出ており、これから先、さらに下げていくためにはリスクの先読み、予測が必要となります。そういう点で、両社が共同で技術開発していくことに意義があると思っています。モビリティ社会の一丁目一番地は安全、安心な社会を作るというのが一番の大儀となります」

 

――自動化に対するトヨタの考えは。
「我々が考える自動運転は手段であり、安全、安心なモビリティ社会を作ることが原点です。そういう点から、三位一体のモビリティ社会を作る中の一つに自動運転があり、人を中心に安全、安心なモビリティ社会を作るというのが我々のブレの無い考えです」

 

――モビリティAI基盤を作るうえで、標準化を目指すとありますが、それは国内に限定したものですか、それともグローバル展開を目指すのでしょうか。
「標準化は、トヨタ、NTTの2社だけでできるものではありません。パートナーの意見を聞きながら、まずは国内で基盤づくり、標準化を目指すことになるでしょう。そのうえで、トヨタ、NTTともグローバル展開している企業でもあり、次のステップとしてグローバル展開ができればよいと考えています」

 

――今回の基盤づくりは、トヨタが進めているウーブンシティの取り組みと重なるところがあるのでしょうか。
「ウーブンシティの取り組みでは、NTTともパートナー企業として連携しており、ヒト中心の街づくり、モビリティのテストコースというミッションの中で、具体的な案件が出てくれば、当然、社会実証として持ち込むことになるでしょう」

 

――仲間づくりはどのように進めるのでしょう。NTTはアイオンでグローバルフォーラムを作っていますが。
「アイオンのグローバルフォーラムはグローバルのパートナーづくりであり、今回のケースとは性格がやや異なります。今回の基盤づくりに当たっては、まず国内を中心にパートナーへの参加を呼び掛けることになるでしょう」

 

――モビリティAI基盤づくりはどのような仕組みで進めていくのでしょうか。
「仕組みについては、まだ具体的なところにまで進んでいません。まずは両社のエキスパートを集めて、プロジェクトチームで進めていくことになるでしょう。当面、走りながら具体的な仕組みを考えることになるかと思います」

 

――パートナーの呼びかけは、他の自動車メーカーも対象になるのでしょうか。
「我々は標準化を目指しており、国内の自動車メーカーはもちろんのこと、グローバル―で幅広く自動車メーカーにも活用してほしいと考えています」

 

――同基盤の標準化を目指すうえで、ITSジャパンとも関りが出てくるのでしょうか。
「ITSインフラの一つに、今回の通信基盤や情報処理の計算基盤等が含まれており、可能性は出てくるでしょう。海外団体との交流機会に合わせて、こうした技術を紹介していくことも考えられます」

 

――AI基盤には生成AIなども活用することになるのでしょうか。
「AIも一つのAIで対応するとなると、膨大なデータ量が必要になります。このため、解決したい課題に合わせ、パーパスにAIモデルを対応させていくことが重要と考えています。

 

このため、解決したい問題にあわせて、いろんなAIをつなげ、適応させること重要であり、それにより低消費で、効率的な取り組みが可能になると考えています。良質なデータを、少ないパラメーターで適応させるようなアーキテクチャーの取り組みといえるでしょう」

 

――同基盤が構築されると、ユーザーへコスト費用を転嫁することになるのでしょうか。
「最終的には、どこかの段階でコスト分を回収することが必要になります。ただし、同基盤が実現されれば、車両側システムのコストも変わってきます。自律制御型で、すべてを車両側で制御しなくても、ビークル・ツー・ネットワークでカバーできるようになります。

 

これにより開発投資が変わる可能性があり、こうしたことから総合的にどこで負担するかの見極めが必要になるでしょう。いずれにして、同基盤は長期的視点で取り組むインフラであり、費用は広く、薄く回収していくことになると考えられ、ある日、突然、負担が増えるということにはならないと思います。少しずつ回収し、それを次の投資に回すというサイクルになると思います」

 

――トヨタが来年から車両に採用する予定の車載ソフトウエアのOSであるアリーンとはつながるのでしょうか。
「今回のモビリティAI基盤はインフラであり、アリーンはその上に乗っかり、車両の各ソフトウエアを動かす、アップデートするOSの役割を果たすもので、それぞれレイヤーのかたちの用途、使われ方になっていくと思います」

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。