交通事故ゼロ社会を28年頃社会実装、30年以降に普及・拡大へ
トヨタ自動車と日本電信電話(NTT)は10月31日共同記者会見を開き、交通事故ゼロ社会の実現や自動運転の高度化に活用する「モビリティAI(人工知能)基盤」を共同で構築すると発表した。(佃モビリティ総研・松下次男)
記者会見したトヨタの佐藤恒治社長とNTTの島田明社長は同基盤づくりの狙いについてクルマ単体の自律型の技術進化だけでは限界があるとし、ヒト・モビリティ・インフラが「三位一体」で絶えず繋がるインフラ協調型の取り組みが必要と強調。
このため、通信分野に強みを持つNTTと共同で取り組むことで、交通事故の無い安全安心かつサステナブルなモビリティ社会の実現を目指す取り組みに大儀があると表明した。
基盤づくりの取り組みは同日からスタート。2030年までに両社で約5000億円規模の投資をし、2028年頃からパートナーと三位一体でインフラ協調による社会実装を開始する計画だ。これを踏まえて、2030年以降に普及拡大を目指す。
また、モビリティAI基盤づくりに当たってはモビリティ分野での標準化を目指す考えで、幅広く産官学のパートナーへ活用、参加を呼び掛ける方針だ。
モビリティAI基盤は切れ目のない通信基盤と大量のデータを賢く処理するAI基盤、計算基盤を組み合わせて、構築する。
自動運転基盤は標準化を視野に産官学へ仲間づくりを呼びかけ
具体的には、AIで膨大なデータを分析/処理するための計算資源となる分散型計算基盤(データセンター)、市街地や地方・郊外などの様々な交通環境・状況に適した切れ目ない通信によりヒト・モビリティ・インフラを協調させる仕組みのインテリジェント通信基盤、分散型計算基盤とインテリジェント通信基盤を土台にしてヒト・モビリティ・インフラからの多様なデータを学習・推論するAI基盤の3要素で構成する。
また、島田社長は分散型計算基盤をつなぐ通信にNTTの次世代通信技術「IOWNI(アイオン)」を活用すると表明した。
こうしたモビリティAI基盤が実現すれば、市街地・交差点での出会いがしら事故防止や安全・安心な移動サービス、高速道路でのスムーズな合流が可能となり、交通事故ゼロに向けた社会実現に一歩近づく。
佐藤社長は近年、技術進化で交通事故総数は減少してきたものの、下げ止まり感もあり、この先、さらに下げるには「リスク予測が必要」と述べ、次世代技術を活用した今回のモビリティAI基盤づくりの意義をアピールした。
トヨタとNTTは2020年3月に資本業務提携を発表しており、これまでにも技術や産業の発展を通じた社会貢献など幅広い意味で社会課題の解決に向けた取り組みで協業を深めていた。
こうした中で、モビリティや通信技術を「取り巻く環境が変化してきた」(佐藤社長)ことから、今回のモビリティ分野におけるAI・通信の共同取り組み合意へと一気に進んだ。
共同記者会見の主な質疑応答は次の通り
――モビリティAI基盤を構築する意義は。
「ヒト・モビリティ・インフラの三位一体を協調したモビリティ社会を作っていくということは非常に重要な知見と思っています。これまでも安全、安心という観点から自律型、モビリティ単体での技術進化の取り組みが行われてきましが、今後より高度に安全、安心なモビリティ環境を作っていくためにはモビリティと通信が一体となった社会基盤を作っていくことが重要となります。そういう観点から両社で取り組みことに大儀があると考えています」
――交通事故ゼロに向けた課題は。
「技術の進化に伴って事故の総数は減っているものの、減少率の下げ止まり感も出ており、これから先、さらに下げていくためにはリスクの先読み、予測が必要となります。そういう点で、両社が共同で技術開発していくことに意義があると思っています。モビリティ社会の一丁目一番地は安全、安心な社会を作るというのが一番の大儀となります」
――自動化に対するトヨタの考えは。
「我々が考える自動運転は手段であり、安全、安心なモビリティ社会を作ることが原点です。そういう点から、三位一体のモビリティ社会を作る中の一つに自動運転があり、人を中心に安全、安心なモビリティ社会を作るというのが我々のブレの無い考えです」
――モビリティAI基盤を作るうえで、標準化を目指すとありますが、それは国内に限定したものですか、それともグローバル展開を目指すのでしょうか。
「標準化は、トヨタ、NTTの2社だけでできるものではありません。パートナーの意見を聞きながら、まずは国内で基盤づくり、標準化を目指すことになるでしょう。そのうえで、トヨタ、NTTともグローバル展開している企業でもあり、次のステップとしてグローバル展開ができればよいと考えています」
――今回の基盤づくりは、トヨタが進めているウーブンシティの取り組みと重なるところがあるのでしょうか。
「ウーブンシティの取り組みでは、NTTともパートナー企業として連携しており、ヒト中心の街づくり、モビリティのテストコースというミッションの中で、具体的な案件が出てくれば、当然、社会実証として持ち込むことになるでしょう」
――仲間づくりはどのように進めるのでしょう。NTTはアイオンでグローバルフォーラムを作っていますが。
「アイオンのグローバルフォーラムはグローバルのパートナーづくりであり、今回のケースとは性格がやや異なります。今回の基盤づくりに当たっては、まず国内を中心にパートナーへの参加を呼び掛けることになるでしょう」
――モビリティAI基盤づくりはどのような仕組みで進めていくのでしょうか。
「仕組みについては、まだ具体的なところにまで進んでいません。まずは両社のエキスパートを集めて、プロジェクトチームで進めていくことになるでしょう。当面、走りながら具体的な仕組みを考えることになるかと思います」
――パートナーの呼びかけは、他の自動車メーカーも対象になるのでしょうか。
「我々は標準化を目指しており、国内の自動車メーカーはもちろんのこと、グローバル―で幅広く自動車メーカーにも活用してほしいと考えています」
――同基盤の標準化を目指すうえで、ITSジャパンとも関りが出てくるのでしょうか。
「ITSインフラの一つに、今回の通信基盤や情報処理の計算基盤等が含まれており、可能性は出てくるでしょう。海外団体との交流機会に合わせて、こうした技術を紹介していくことも考えられます」
――AI基盤には生成AIなども活用することになるのでしょうか。
「AIも一つのAIで対応するとなると、膨大なデータ量が必要になります。このため、解決したい課題に合わせ、パーパスにAIモデルを対応させていくことが重要と考えています。
このため、解決したい問題にあわせて、いろんなAIをつなげ、適応させること重要であり、それにより低消費で、効率的な取り組みが可能になると考えています。良質なデータを、少ないパラメーターで適応させるようなアーキテクチャーの取り組みといえるでしょう」
――同基盤が構築されると、ユーザーへコスト費用を転嫁することになるのでしょうか。
「最終的には、どこかの段階でコスト分を回収することが必要になります。ただし、同基盤が実現されれば、車両側システムのコストも変わってきます。自律制御型で、すべてを車両側で制御しなくても、ビークル・ツー・ネットワークでカバーできるようになります。
これにより開発投資が変わる可能性があり、こうしたことから総合的にどこで負担するかの見極めが必要になるでしょう。いずれにして、同基盤は長期的視点で取り組むインフラであり、費用は広く、薄く回収していくことになると考えられ、ある日、突然、負担が増えるということにはならないと思います。少しずつ回収し、それを次の投資に回すというサイクルになると思います」
――トヨタが来年から車両に採用する予定の車載ソフトウエアのOSであるアリーンとはつながるのでしょうか。
「今回のモビリティAI基盤はインフラであり、アリーンはその上に乗っかり、車両の各ソフトウエアを動かす、アップデートするOSの役割を果たすもので、それぞれレイヤーのかたちの用途、使われ方になっていくと思います」