写真は、実証実験開始のセレモニーの様子。向かって左から東芝執行役員・電池事業部バイスプレジデントの高岡聡彦衛士、CBMM社長リカルド・リマ氏、双日米州総支配人の山口幸一氏、東芝上席常務執行役員の佐田豊氏
日本の東芝と双日、及び稀少金属企業のCBMM( Companhia Brasileira de Metalurgia e Mineração / 伯・サンパウロ )の3社は、先の2018年6月にニオブチタン酸化物( NTO / Niobium Titanium Oxide )を負極材に用いた次世代リチウムイオン電池の共同開発契約を締結した後に試作電池の開発に成功。
これを踏まえ今年6月19日( 現地ブラジル時 )から、ミナスジェライス州にあるアラシャ鉱山で、当該蓄電池を搭載したEVバスの走行実証を開始した。実証車両はフォルクスワーゲン・トラック・アンド・バス( Volkswagen Truck & Bus / フォルクスワーゲン・カムリズ社< Volkswagen Caminhões e Ônibus > )のEVバスを使用した。
その車両に係る大きな特徴は、先の3社が開発した次世代リチウムイオン電池が搭載されているところにある。そんな蓄電池には、一般的に使用される黒鉛と比較して2倍の理論体積容量密度を持つニオブ( NTO )を負極材に使用。それらの技術投入により、僅か約10分間の超急速充電時間だけで搭載蓄電容量の100%充電が可能だという。
このニオブとは、金属元素のひとつであり、本来は鉄鋼添加剤として主に高張力鋼、ステンレス鋼などの高級鋼材の原料に用いられてきた。中でも自動車向け鋼材の軽量化・剛性化には不可欠とされてきた稀少金属( レアメタル )のひとつだ。
ブラジル・サンパウロに本社拠点を構えるCBMMは、このニオブ市場で世界一位の生産量と販売量を誇り、高い技術力と製品開発プログラムを有している。
今回、EVバスの走行実証に参加している双日は、このCBMMの株主の1社であり、またCBMMの日本市場向けの総代理店として、予てより安定的な原料供給体制(サプライチェーン)の構築や用途開拓を進めてきた。
その一方で、CBMMと双日が豊富に提供できるニオブ原料を用いて、東芝が主導してNTOを用いた次世代リチウムイオン電池「SCiBTM Nb」の技術開発を進めてきた経緯がある。
写真左から、車両を提供したフォルクスワーゲン・カムリズ社で社長兼CEOを務めるロベルト・コルテス氏、右はCBMMのリカルド・リマCEO
この実証プロジェクトの始動にあたってCBMMのリカルド・リマCEOは、「当社は日々、ニオブチタン酸化物のマーケット拡大と安定成長に取り組んでおり、そのために、同素材を様々な産業向けに提供していくべく新技術開発に鋭意、取り組んでいます。今実証にあたっては、ここまで育て上げた素材の進化を踏まえ、バッテリー市場の成長が大きく進むことを期待を寄せています」と述べた。
またフォルクスワーゲン・カムリズ社で社長兼CEOを務めるロベルト・コルテス氏は、「このプロジェクトは、次世代EV市場を新たに創造するための施策となります。数年前、私たちはラテンアメリカ地域で、最初のEVプロトタイプの提供を開始しました。今後、私たちは世界の動向を俯瞰し、パートナー企業と共に業界の変革を観察しつつ、テスト用プロトタイプ車両の生産と商用化に注力していきます」と話している。
ちなみにNTOを負極に用いたリチウムイオン電池搭載のEV走行自体も、今実証が世界初となるため、今後3社は当該実証を通じて、NTOを用いた次世代リチウムイオン電池の蓄電並びに放電特性、更に車両の運行データ収集に伴う絶対性能を今回、慎重に確認する構えだ。
なお次世代蓄電池自体の量産体制の確立に関しては、既に2024年5月にブラジル・日本両国政府関係者の立ち合いのもとサプライチェーン構築と事業化で合意していることから、車両走行の実証実験後は、2025年春を目処に次世代リチウムイオン電池の製品化とグローバル販売に向けた活動を開始。車両への搭載を含めた事業商業化に向けた措置などで様々な検討を重ねていくという。