東京工業大学は3月5日、東京工業大学 物質理工学院 材料系の中島章教授、伊東拓朗大学院生(修士課程1年)らが、神奈川県立産業技術総合研究所(研究開発部 抗菌・抗ウイルス研究グループ)、奈良県立医科大学(微生物感染症学講座 中野竜一准教授 矢野寿一教授)との共同研究で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染する能力を失わせて死滅させる効果を示す複合酸化物を開発したと発表した。
現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)が世界中に広がっており、人類の大きな脅威となっている。そのため、ウイルス感染の予防や拡大抑制は喫緊の課題となっており、抗ウイルス材料の必要性や需要が高まっている。有機系の抗ウイルス材料に比べ、無機系の抗ウイルス材料は研究の歴史は浅いが、比較的広い温度範囲で様々なウイルスに対して効果を発揮するものが多いことや、ウイルスが耐性を獲得しにくいこと等の理由から、近年徐々に研究が増加している。
従来の無機系抗ウイルス材料には、銅(Cu)などの金属系、酸化チタン(TiO2)などの光触媒系、その他(酸化カルシウム(CaO)など)があるが、酸化による抗ウイルス活性の低下や色の変化(金属系)、光の必要性(光触媒系)、土壌のアルカリ化(CaO)等の問題点があり、これらの問題点を克服して高い活性を有する抗ウイルス材料が望まれていた。
東京工業大学によると、中島教授らの研究グループは、比較的安価な希土類であるセリウム(Ce)と、抗菌活性が知られているモリブデン(Mo)に着目し、これらの複合酸化物であるγ-Ce2Mo3O13(CMO)を水熱合成法により作製した。その結果、CMOがSARS-CoV-2に対して極めて高い不活化効果を示す(図1、図2参照)ことを見出した。同様の高い抗ウイルス活性は、新型コロナウイルスのような構造を持つ、他のエンベロープ型ウイルスに対しても確認されており、この成果は様々なウイルスに対して適用できる可能性があるとしている。
図1. 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の生存量の変化
縦軸はウイルスの生存量の対数表示。測定はISO規定のフィルム密着法。ガラス上のウイルス量は変化しないが、LMOにCeを10%添加したLCMOはウイルス濃度が6時間で約1.5ケタ(約1/30に)低下する。 CMO粉末では4時間でウイルス濃度は4ケタ以上(1/10000以下に)低下することが分かる。この活性はMoO3よりも高く、Ceと組み合わせることの効果が分かる。
図2. 図1の実験での4時間の時点での(a)ガラスと、(b)CMOの違い
宿主細胞が正常に生きていると青色に染色されるが、ウイルスが存在すると宿主細胞が死滅し染色されないため、透明なプラークが形成される。ガラス上ではウイルスが存在し、大量のプラークが存在するが、CMOにはプラークがまったくなく、ウイルスが検出限界まで不活化していることが分かる。
ワクチンが開発されて普及するまでの間、経済活動や社会活動を継続するためには、感染の予防や拡大抑制に関する技術が、治療法の確立やワクチンの開発と同じくらい重要である。この研究成果は、ワクチン頼みのウイルス対策からのゲームチェンジに新たな道を開くだけでなく、近年日本で頻発する大規模自然災害等の被災地での衛生環境確保の面においても有効な技術となる可能性がある。
東京工業大学は、LMOはすでに試作が始まっているが、今回開発したCMOも速やかに試作を開始し、早急な実用化を目指すとしている。
■研究における各研究機関の役割
– 東京工業大学:研究立案、材料合成、物性評価
– 神奈川県立産業技術総合研究所:QβとΦ6に対する抗ウイルス活性評価、 タンパク質変性試験
– 奈良県立医科大学:新型コロナウイルスに対する抗ウイルス活性評価