東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻 成田史生教授と、東北特殊鋼は、大きな逆磁歪効果(※1)を示し、振動発電機能を有するクラッド鋼板(※2)を共同開発したことを、2月13日に発表した。
※1)逆磁歪効果:力を加えることによって材料内部の磁化の強さが変化する現象
※2)クラッド鋼板: 性質の異なる異種の金属を圧着した鋼板
新開発のクラッド鋼板は、冷間圧延鋼板(SPCC相当)とFeCo系磁歪材料(※3)の冷間圧延板を熱拡散接合させたもので、このクラッド構造により、FeCo磁歪材料単独の場合よりも、数倍から20倍以上の振動発電出力が得られると云う。
また、電磁力学場の数値シミュレーションにより、増幅機構解明にも成功。
この開発により、身のまわりの生活振動や、工場設備などの微小な振動を利用するIoTセンサー用電源や、強靱で衝撃に強い材質を活かした、鉄道車両・自動車などの走行振動や風力・水力などを利用する大型のエネルギーハーベスティングへの応用、省電力が課題のEV(電気自動車)などへの利用が期待できると云う。
この新開発のクラッド鋼板は、従来から振動発電素子として知られる圧電素子(※4)と比べ、微小な振動(加速度 0.1 G、振幅 20 µm、周波数 50 Hz)では25倍以上の出力を確認、IoTなどの無線センサー用電源としては、十分な電力が得られ、また破損しにくいという特徴があると云う。
加えて、冷間圧延鋼板をニッケル板におきかえたクラッド構造にすると、より大きな出力(圧電素子の50倍以上)が得られ、超磁歪材料 Galfenol(※5)に匹敵する発電性能を有する可能性もあり、現在、調査が進められている。
さらに、圧電材料や超磁歪材料の板を用いた振動発電器において、発電効率を大きくするためによく用いられる、板面方向の伸縮を大きくする平行梁構造(※6)のような複雑な構造を必要とせず、クラッド鋼板の単純な曲げ振動により発電できることも特徴の一つだとしている。
※3)FeCo 系磁歪材料:鉄(Fe)とコバルト(Co)を主成分とした、磁場によって寸法が変化する材料
※4)圧電素子:加えられた力を電圧に変換する、あるいは電圧を力に変換する素子で、セラミックスが主流
※5)超磁歪材料(Galfenol):通常の磁歪材料に比べ、磁場による形状の変化量が 100 倍程度大きな材料
※6)平行梁構造:2枚の板を平行に並べ、その両端を異種材に接合した構造
東北大学と東北特殊鋼は、以前からFeCo系磁歪材料の共同開発(※7)を行っており、東北特殊鋼では、2016年から自社の鋼材工場の設備の振動を利用したFeCo系磁歪材料による振動発電器を電源とするIoTセンサーシステム(モーター監視)を試験的に運用。
今回開発したクラッド鋼板による振動発電器を利用することにより、これまで振動が非常に微小なため、センサーノードが機能しなかった箇所へのシステム拡大を実現したと云う。
また、将来の大型化を想定した試験として、クラッド鋼板の小片による振動発電器を、自動車を模した台車に取り付けて走行させる実験(写真)では、数mW(数10V)以上の出力を確認。
実際の自動車では W(ワット)級あるいは路面状態によってはそれ以上の発電量が期待できると考えられるとコメントしている。
なお、この開発成果は2月12日に米国物理学協会速報誌「Applied Physics Letters」のオンライン版で公開された。
※7) 共同開発:科学技術振興機構(JST)の平成 24 年度発足のプロジェクトにおける弘前大学、東北大学、及び東北特殊鋼の3者共同開発
[問い合わせ先]
– 東北大学大学院工学研究科
材料システム工学専攻
成田史生(教授)
TEL/FAX: 022-795-7342
E-mail: narita@material.tohoku.ac.jp
– 東北特殊鋼株式会社
研究開発部 開発営業チーム:
E-mail: toiawase@tohokusteel.com