NEXT MOBILITY

MENU

2018年12月20日【テクノロジー】

経産省と国交省、空飛ぶクルマ実現に向けたロードマップを発表

NEXT MOBILITY編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

経済産業省と国土交通省は先の12月20日、両省合同で日本で“空飛ぶクルマ”の実現に目指して官民の関係者が一堂に会する「空の移動革命に向けた官民協議会」の第4回会合を開催した。また過去4回に亘った実施を踏まえ、未来に向けた同計画のロードマップも取りまとめた。(坂上 賢治)

 

 

近年、都市の渋滞を避けた通勤、通学や通園。さらに離島や山間部に於ける新しい移動手段をどうしてくのか。また加えて都市渋滞が慢性化するなかで、災害時の救急搬送や迅速な物資輸送を未来に向けて、どのように整備していくのか。

 

こうした幾多の課題を前に昨今、およそ100年前から考えられてきた旧くて新しい解決策である“空飛ぶクルマ”の可能性が、日本国内のみならず世界各国で浮上。もちろん日本国内に於いても、様々な分野の関係団体や企業が具体的な「空飛ぶクルマ」の開発に取り組み、精力的な研究を重ねている。

 

 

なおこのような動きは、先の通り「科学」や「工業」の先進国である欧米のみならず、世界規模で様々な政府や地域に於いて胎動を見せて始めており、それらいずれも、その方向性と計画実施については未だ流動的でありながらも、特定の企業ベースでは、具体的な試作車の開発に取り掛かるなど、そろそろ国際間競争の前触れが見え始めている頃にあたる。

 

但し国家レベルで、現実的にこれを推し進めていくためには「民」の将来構想や技術開発の見通しをベースに「官」が、民間の取組みを適時適切に支援し、社会に受容されるルールづくりなどを整合的に進めていくことが求められる。

 

そこでこれを受けて、“空飛ぶクルマ”構想について積極的に動き出したのが経済産業省である。そして今夏、国土交通省と共に2018年8月より第1回の「空の移動革命に向けた官民協議会」を開催。そして12月20日(木曜日)に4回目の協議会実施を重ねるに至り、遂に官民一体となった“空飛ぶクルマ”構想に係る計画をとりまとめたのが本記事後半に記載したロードマップである。

 

 

こうした活動と成果物の提出は、世界規模に於いても現段階では極めて希かつ先鋭的な動きであり、この時期に行政・企業・民間が一体となり、世界に先駆けた取り組みとしてスタートラインに着くというのは画期的なことだと言える。いつもであれば、新たな取り組みについて遅れがちになる我が国としては希有な先例になった。

 

ただし現段階は、いわば今後の「青写真」の作成したに過ぎず、今後、本当に世界に先駆けた官民一体のプロジェクトとして本格的に胎動させ、実計画を突き進めていくことが出来るのか。そもそも法規制を含む新たな産業の枠組みが、素早く構築されるのか。

 

 

仮にこのプロジェクトが実現すれば、都心の空のみならず、ある部分では地域の格差を埋めることが出来る極めて強力な起爆剤のひとつとなるだけに、その可能性は無限かつ、世界を強力にリードしていくものに育っていく。

 

それゆえに今4回目の会合にあたっては、世耕弘成経済産業大臣、並びに石井啓一国土交通大臣が列席し、同プロジェクト実現を強力に推し進める旨を「日本の将来産業のロールモデルになりうる」と語って意欲を見せ、両省に於ける今プロジェクトの本気度を強く印象付けた。

 

 

そもそも政府と企業が一体となったこのような取り組みが、今後も持続していくのかは、予てより資本と精力を注ぎ込んでいる「民」の想いのみならず、「官」に於いて、未来に突き進む意欲が、今後も営々と続くかどうかで正否が決まるだけに、官側の今取り組みには期待が掛かるところだ。

 

なお、今回作成された“空飛ぶクルマ”の実現に向けたロードマップ自体は、現段階では具体性の高いものに仕上がっていると言って良い。

 

 

その内容は、事業者による利活用の目標として2019年から試験飛行や実証実験等を行い、2020年代半ば、特に2023年を目標に事業をスタートさせ、2030年代から実用化をさらに拡大させていく計画としている。

 

既に具体的な試験飛行の実験場については、想定地が複数ある心積もりであり、利活用の例としても「物資の移動」「地方での人の移動」「都市での人の移動」を挙げており、他にも「災害対応」「救急」「娯楽」等に活用されることを想定している。

 

また、これらの目標を達成するため、機体の安全性や技能証明の基準等の制度整備や、安全性・信頼性を確保し証明する技術や自動飛行・運航管理・電動推進に関する技術の開発について、今後の工程を示すものとなっている。

 

もろろんここには、2023年の事業開始に間に合うよう複数の離着陸場の整備を整えることも視野に入っている。なお日本の航空業界に於いて、既にパイロット不足が顕在化していることを前提としているから、当面はパイロットによる空飛ぶクルマの運行を行いながらも、自動運行の可能性について、いち早く目途を付けていく構え。

 

機体の価格についても、協議会メンバーから現行のヘリコプターよりも大幅にリーズナブルな価格を目指すべきという意見も挙がっていた。

 

 

計画では来る2030年代に高度な自動飛行が実現し、地方と都市を繋ぐなど本格的な利用が進む未来を想定している。

ちなみに現時点でも、日本はヘリコプター型の航空機については、既に3社の企業が存在しているという国際的に優位的な地位にある。そこでこれを活かし両省は電動ユニットを搭載した“空飛ぶクルマ”の実用化に迅速に漕ぎ着け、この分野で世界から先行した立場に立つ事を目指している。また、イメージ動画「さあ、空を走ろう。」を動画サイトで公開。動画には、空飛ぶクルマがもたらす未来の社会や生活が描かれている。

 

なお、これまで過去4回に亘って実施された「空の移動革命に向けた官民協議会」に係る共通した考え方は以下の通りとなっている。

 

現在、人や物の移動において、航空機は長距離の輸送に多く使われているが、もっと身近で手軽な移動手段として、空の利用にはまだまだ大きな可能性が広がっている。例えば今の段階では、ドローンによる離島・山間部での物流サービスが始まろうとしているところである。

 

しかし将来的に、短中距離を自動で飛行して、安全かつ安価に人や物を移動させられる機体やサービスが実現すれば、都市部での移動にかかる時間の短縮、離島や山間部での移動の利便性の向上、災害時の救急搬送や物資輸送の迅速化など、新しいサービスの展開や各地での課題の解決につながることが期待される。

 

このような空の移動を可能とするいわゆる“空飛ぶクルマ”の実現に向けて、世界的にも関心の高まりがみられ、取組が進められている。

 

そこで日本においても人や物の移動の迅速性と利便性を向上させる共に、新たな産業を育成し、世界の市場で稼げるようにするため、官民の関係者が一堂に会する「空の移動革命に向けた官民協議会」(以下、協議会)を設立し、今後、日本として取り組んでいくべき技術開発や制度整備等について協議する。

 

なおこの協議会に係る事務は、経済産業省製造産業局及び国土交通省航空局が行う。協議会の構成員は以下の通り。但し事務局が必要であると認めるときは、構成員を追加することや、その他の関係者の出席を求めることができる。

 

 

以下民間構成員

  • 鈴木 真二: 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授
  • 一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム 代表
  • 中野 冠: 慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授
  • 御法川 学: 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
  • 佐野 久: 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 理事 航空技術部門長
  • 尾暮 敏範: 一般社団法人全日本航空事業連合会 副会長 ヘリコプター部会長
  • 今清水 浩介: 一般社団法人日本航空宇宙工業会 専務理事
  • 手塚 究: 株式会社 AirX 代表取締役
  • 松岡 祐広: エアバス・ジャパン株式会社 ストラテジー&マーケティング バイスプレジデント
  • 長峯 豊之: ANA ホールディングス株式会社 代表取締役 副社長執行役員
  • 遠山 雅夫: Uber Japan 株式会社 執行役員 政府渉外担当
  • 中村 翼: CARTIVATOR 共同代表
  • 永山 慶一: 川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニー 理事 ヘリコプタプロジェクト 本部長
  • 太田 裕朗: 株式会社自律制御システム研究所 代表取締役社長
  • 福澤 知浩: 株式会社 SkyDrive 代表取締役
  • 戸塚 正一郎: 株式会社 SUBARU 常務執行役員 航空宇宙カンパニー プレジデント
  • 中井 佑: テトラ・アビエーション株式会社 CEO
  • 福井 宏治: 株式会社 Temma 代表取締役社長
  • 千葉 功太郎: Drone Fund 創業者 代表パートナー
  • 西畑 智博: 日本航空株式会社 執行役員 イノベーション推進本部長
  • 石黒 憲彦: 日本電気株式会社 取締役執行役員副社長
  • 河野 雅一: 株式会社プロドローン 代表取締役社長
  • 正村 卓也: ベルヘリコプター株式会社 営業部長
  • 小林 美和: Boeing Japan 株式会社 政府関係・渉外担当ディレクター
  • 牧浦 真司: ヤマトホールディングス株式会社 常務執行役員
  • 安藤 公二: 楽天株式会社 常務執行役員
 

 

 

以下政府構成員

  • 井上 宏司: 経済産業省 製造産業局長
  • 蝦名 邦晴: 国土交通省 航空局長
    (以下オブザーバ)
  • 豊嶋 基暢: 総務省 総合通信基盤局 電波部 基幹・衛星移動通信課長
  • 井本 登已彦: 消防庁 広域応援室 航空専門官
  • 守谷 謙一: 消防庁 救急企画室 理事官
  • 山田 輝希: 国土交通省 総合政策局 物流政策課長
  • 丹羽 克彦: 国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課長
  • 倉野 泰行: 国土交通省 都市局 都市政策課長
  • 笠井 雅広: 国土交通省 水管理・国土保全局 河川環境課 河川保全企画室長
  • 水野 宏治: 国土交通省 道路局 企画課 評価室長

 

■(経産省)空の移動革命に向けたロードマップ(PDF):http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181220007/20181220007_01.pdf
CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。