NEXT MOBILITY

MENU

2024年9月4日【ESG】

東京電力と新電元工業、V2Xシステムの災害利用実証

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

電源制御系のパワーエレクトロニクスメーカー新電元工業と東京電力グループは9月4日、電気自動車(EV)の放電機能を活用した機械式立体駐車場の稼働実証試験を完了させたことを公表した。

 

この実証試験は、都市部で広く利用されている機械式立体駐車場が、停電時に車両の出庫が困難になるという課題に対処するために行われたもの。

 

新電元工業が開発した10kW出力V2Xシステム実証機を用いて、EVから機械式立体駐車場への三相電力供給を実現し、停電時でも駐車場の稼働と車両の出庫が可能であることを実証した。

 

V2X(Vehicle-to-everything)とは、車両と様々な機器とがデータ通信や電力充放電によって連携する技術。今回のV2Xシステム実証機は、EVの搭載電池から電力を取り出し、公共産業機器を駆動する機能を有している。

 

 

実証では、三相動力の機械式立体駐車場およびEV車両と、当社が開発したV2Xシステム実証機(EV充放電器)とを接続連携し、EV放電電力による動力負荷駆動の試験を実施。

 

結果、最大負荷時に於いても約3kVAもの大電力をEV電池から供給し、機械式駐車場の駆動に成功した。

 

実証試験に用いた機械式立体駐車場はパレット型で、格納車両を上下左右に搬送できる機構のため同規模の設備の中で特に電力負荷が高いとされている。今回パレット型の機械式立体駐車場で実証試験を経たことにより、他方式の機械式立体駐車場でも十分に駆動可能な見込みが得られた。

 

加えて停電時でもV2X装置を起動できる「ブラックスタート」も、それぞれ稼働実証を行った。方式の一つは起動用電源を充放電コネクタから取得する方法であり、一部の対応車種で実施可能。

 

もう一つの方式として、充放電コネクタからの起動電源取得に対応していない車種の場合には、EVのシガーソケットから起動用の制御電力を取得する回路機能を搭載することでシステム起動を可能にしている。

 

 

いずれも実証により、停電で閉塞された機械式立体駐車場から人々の移動手段を緊急復旧させることが可能であることを示した。

 

EVは地域の太陽光発電からも充電できるため、身近なEVを公共設備の駆動に活用することが可能になれば、公共施設の主要機能が災害時でも迅速に回復し、暮らしを守る強力な助けとなる。

 

今実証に参加した両社では、「EV放電機能は、家庭用V2Hシステムとしても普及拡大しています。一方で本試験に用いたV2Xシステム実証機は、家庭用の単相交流6kWクラスに対し、産業用設備向けの三相10kWクラスの放電性能を備えていることが大きな特長です。

 

EV電池からの直流電力をダイレクトに三相交流に変換できますので、家電製品だけでなく公共電気設備の駆動にも適しており、電動モビリティの新しい活用ステージを切り拓くポテンシャルを有しています」と話している。

 

また停電時、マンションやビルの施設機能が回復すれば、多くの混乱を回避することが可能になるため新電元工業では、本研究成果を通じて、EVのポテンシャルを最大限に活用し、災害時のモビリティ運用を迅速に復旧できる強靱な都市インフラの構築に貢献することを目指すとしている。

 

———————————-

【用途比較】

———————————-

産業用V2Xシステム(実証機)
主な用途

三相交流10kWクラス
・機械式立体駐車場の稼働【本実証】
・高層施設の揚水ポンプの稼働
・高層施設のエレベータ稼働(荷物用途)
・業務用冷蔵庫の稼働
・業務用エアコンの稼働
・アリーナ照明/三相式LED天井照明
・一般家電製品(単相接続の不平衡負荷に対応)
など

 

———————————-

 

家庭用V2Hシステム(普及型)
主な用途

単相交流6kWクラス
・住宅電力の昼夜平準化による受電量削減
・再生可能エネルギーの住宅での利活用
・住宅停電時の再エネ蓄電と電力供給
など

 

———————————-

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。