電源制御系のパワーエレクトロニクスメーカー新電元工業と東京電力グループは9月4日、電気自動車(EV)の放電機能を活用した機械式立体駐車場の稼働実証試験を完了させたことを公表した。
この実証試験は、都市部で広く利用されている機械式立体駐車場が、停電時に車両の出庫が困難になるという課題に対処するために行われたもの。
新電元工業が開発した10kW出力V2Xシステム実証機を用いて、EVから機械式立体駐車場への三相電力供給を実現し、停電時でも駐車場の稼働と車両の出庫が可能であることを実証した。
V2X(Vehicle-to-everything)とは、車両と様々な機器とがデータ通信や電力充放電によって連携する技術。今回のV2Xシステム実証機は、EVの搭載電池から電力を取り出し、公共産業機器を駆動する機能を有している。
実証では、三相動力の機械式立体駐車場およびEV車両と、当社が開発したV2Xシステム実証機(EV充放電器)とを接続連携し、EV放電電力による動力負荷駆動の試験を実施。
結果、最大負荷時に於いても約3kVAもの大電力をEV電池から供給し、機械式駐車場の駆動に成功した。
実証試験に用いた機械式立体駐車場はパレット型で、格納車両を上下左右に搬送できる機構のため同規模の設備の中で特に電力負荷が高いとされている。今回パレット型の機械式立体駐車場で実証試験を経たことにより、他方式の機械式立体駐車場でも十分に駆動可能な見込みが得られた。
加えて停電時でもV2X装置を起動できる「ブラックスタート」も、それぞれ稼働実証を行った。方式の一つは起動用電源を充放電コネクタから取得する方法であり、一部の対応車種で実施可能。
もう一つの方式として、充放電コネクタからの起動電源取得に対応していない車種の場合には、EVのシガーソケットから起動用の制御電力を取得する回路機能を搭載することでシステム起動を可能にしている。
いずれも実証により、停電で閉塞された機械式立体駐車場から人々の移動手段を緊急復旧させることが可能であることを示した。
EVは地域の太陽光発電からも充電できるため、身近なEVを公共設備の駆動に活用することが可能になれば、公共施設の主要機能が災害時でも迅速に回復し、暮らしを守る強力な助けとなる。
今実証に参加した両社では、「EV放電機能は、家庭用V2Hシステムとしても普及拡大しています。一方で本試験に用いたV2Xシステム実証機は、家庭用の単相交流6kWクラスに対し、産業用設備向けの三相10kWクラスの放電性能を備えていることが大きな特長です。
EV電池からの直流電力をダイレクトに三相交流に変換できますので、家電製品だけでなく公共電気設備の駆動にも適しており、電動モビリティの新しい活用ステージを切り拓くポテンシャルを有しています」と話している。
また停電時、マンションやビルの施設機能が回復すれば、多くの混乱を回避することが可能になるため新電元工業では、本研究成果を通じて、EVのポテンシャルを最大限に活用し、災害時のモビリティ運用を迅速に復旧できる強靱な都市インフラの構築に貢献することを目指すとしている。
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【用途比較】
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産業用V2Xシステム(実証機)
主な用途
三相交流10kWクラス
・機械式立体駐車場の稼働【本実証】
・高層施設の揚水ポンプの稼働
・高層施設のエレベータ稼働(荷物用途)
・業務用冷蔵庫の稼働
・業務用エアコンの稼働
・アリーナ照明/三相式LED天井照明
・一般家電製品(単相接続の不平衡負荷に対応)
など
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家庭用V2Hシステム(普及型)
主な用途
単相交流6kWクラス
・住宅電力の昼夜平準化による受電量削減
・再生可能エネルギーの住宅での利活用
・住宅停電時の再エネ蓄電と電力供給
など
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