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2024年5月24日【事業資源】

TDB調査、自動車下請けの1割が価格転嫁出来ず

坂上 賢治

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自動車業界で適正な価格転嫁に向けた取り組みが加速しているなかで、帝国データバンク( TDB )は、保有する「(1)商流圏~売上高依存度推計データ」を元に、商用車専業を除く「(2)国内自動車メーカー8社」に対して部品などのモノやサービスを提供する周辺産業(商流圏)を「(3)サプライチェーン<SC>企業」と定義し、「(4)社数や価格転嫁の動向」等について、以上4テーマを掲げた上で調査・分析を行った。

 

(1)商流圏~売上高依存度推計データ
商流圏~売上高依存度推計データは、TDBが特許を取得した「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル(NIHACHI)」を用いて、任意の頂点企業に於ける商流上(サプライチェーン)の傘下企業や取引企業に於いて、各社の売上高が頂点企業にどの程度依存しているかを算出(特許取得済)したデータとしている。

 

それは頂点企業の直接取引先( 一次取引先、Tier1 )だけではなく、頂点企業と直接取引がないTier2( 二次取引先 )以降の間接取引でも売上高依存度を把握でき、頂点企業との取引額を推計できる点が特徴とした。

 

(2) 国内自動車メーカー8社
国内自動車メーカー8社は、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、スズキ、マツダ、SUBARU、三菱自動車工業、ダイハツ工業の8社となる。

 

(3) サプライチェーン<SC>企業
サプライチェーン<SC>企業とは、上記「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル」を用いて、任意の頂点企業に対して売上の1%以上を依存している企業を指す。

 

(4) 自動車産業の価格転嫁動向
自動車産業の価格転嫁動向は、TDBが実施した「価格転嫁に関する実態調査( 2024年2月 )」( 調査期間:2024年2月15日~29日、調査対象:全国2万7,443社で、有効回答企業数:1万1,267社 [ 回答率41.1% ] )のうち、自動車産業に属する企業で回答があった約1,500社( 有効回答企業数の約13% )を分析した。

 

なお、TDBによると同調査は企業の取引全般に関する価格転嫁について調査しており、特定の取引等に対して回答したものではない。

 

TDBによる調査結果のまとめは以下の通り
1. 自動車産業のサプライチェーン、全国に6万社 取引総額は42兆円規模
2. 自動車産業の1割、価格転嫁「全くできず」 価格転嫁ありは「2割未満」が最多
3. 「下請けいじめ」是正へ 自動車業界で進む価格転嫁の取り組み状況が注目される

 

 

自動車産業のサプライチェーン、全国に6万社 取引総額は42兆円規模

 

TDBによると、商用車専業を除いた国内自動車メーカー8 社を頂点としたサプライチェーン企業( 自動車産業 ) の総数は、2024年5月時点で国内に推計5万9193社あることが判明したという。

 

上記を踏まえたTDBによる自動車産業で発生する取引総額は、推計41兆9970億円。2023年度に於ける日本の名目GDP( 国内総 生産 )597.1 兆円のうち、約1割が下請企業を中心とした自動車産業で占められる計算になるとした。

 

最もサプライチェーン企業が多い自動車メーカーは「トヨタ自動車」で、全国3万9113 社に上 った。全国の自動車産業のうち、3社中2社がトヨタ自動車向けのサプライチェーンに組み込まれることになる。

 

取引階層( Tier )別にみると、トヨタ自動車と直接取引を行う「Tier1」が 2091社あり、Tier1と取引を行う「Tier2」は1万7989社、「Tier3」は1万5659社だった。

 

TDBによるトヨタ自動車のサプライチェーン企業で発生する総取引額は、推計で約20兆円。デンソーをはじめ、 売上高が大きいメガサプライヤーの取引額が全体を押し上げた。

 

次いでサプライチェーン企業が多いメーカーは「本田技研工業」で、全国1万8880社。 取引階層( Tier )別にみると、「Tier1」が2164社あり、「Tier2」は9904社、「Tier3」は6206社。本田技研工業のサプライチェーン企業で発生する総取引額は推計で約4.7兆円としている。

 

なお下請法違反や違反の恐れがある行為が発覚し、是正に向けた取り組みが進む「日産自動車」の サプライチェーン企業は、TDBによると全国に1万5905社と判明したとしている。取引階層(Tier)別にみると、「Tier1」 が 1697 社、「Tier2」は 8847 社、「Tier3」は 4614 社だとしている。

 

日産自動車のサプライチェーン企業で発生する総取引額は推計で約4.6兆円。自社のサプライチェーン企業が1万社を超えたのは「三菱自動車工業」( サプライチェーン企業 : 1万6社)を含め4社という。

 

各都道府県の自動車産業のうち、どの自動車メーカーのサプライチェーン企業が多いかをTDBが調査した結果は、「トヨタ自動車」が 47 都道府県中 39 県に上り、特に「愛知県」は県内自動車産業の内 約9割がトヨタ自動車向けであるとした。

 

トヨタ自動車以外でサプライチェーン企業が多いのは、「群馬県」( SUBARU )、「栃木県・埼玉県」( 本田技研工業 )、「岡山県・長崎県」( 三菱自動車工業 )、「広島県・島根県・山口県」( マツダ )の 8 県という。

 

自動車下請けの1割、価格転嫁全くできず、価格転嫁ありは2割未満が最多

 

今回TDBは、国内自動車メーカー8 社を頂点としたサプライチェー ン企業に於ける「価格転嫁」の動向について、2024年2月時点で回答があった約1500社を対象に分析を行った。

 

その結果、自動車産業に属するサプライチェーン企業 のうち、自社の主な商品・サービスに於いて、コスト上昇分を販売価格やサービス価格に「( 多少なりとも )転嫁できている」と回答した企業の割合は合計で80.7%に達した。

 

このうち最も多いのは「2割未満」( 23.2% )で、「5割以上 8 割未満」( 20.9% )、「2割以上5割未満」( 17.7% ) と続いた。「すべて価格転嫁できている」とした企業は3.9%に留まったとしている。

 

他方、「全く価格転嫁できていない/ 価格転嫁するつもりはない」と回答した企業は 11.9%。TDB調査に於ける価格転嫁の対象は、自動車向け以外も含まれるため、自動車産業全体の価格転嫁動向を全て示すものではないとしながらも、サプライチェーン企業でコスト上昇に見合った価格転嫁が進んでいない可能性があることを指摘している。

 

更にTDBは、「トヨタ自動車」「本田技研工業」「日産自動車」の大手3社に属するサプライチェー ン企業を対象に、Tier1~3以降までの階層別に価格転嫁の動向も分析した。

 

その結果、「すべて価格転嫁できている」企業の割合は、Tier1では日産自動車が最も高く4.7%にのぼり、トヨタ自動車が最も低かった。他方、Tier2以降ではトヨタ自動車が最も高く、Tier2では本田技研工業が、 Tier3以降では日産自動車が最も低いというまちまちの分析結果となっているようだ。

 

他方、「全く価格転嫁できていない/価格転嫁するつもりはない」企業の割合をみると、Tier別では3社共に「Tier3以降」に属する企業で割合が高く、それぞれ1割以上を占めた。そのなかでも「日産自動車」に属するサプライチェーン企業では、Tier3で「全く価格転嫁できていない/価 格転嫁するつもりはない」割合が 16.4%を占め、大手3社のうち最も高い水準であるとしてる。

 

「下請けいじめ」是正へ自動車業界で進む価格転嫁の取り組みに注目

 

いずれにしても複数の取引先が関わるサプライチェーンは、自動車産業に限らず多くの産業で「二次取引以降 の取引をすべて認知することは困難」という声も聞かれるなど複雑化しており、大手企業でも全容把握は難しいという。

 

自動車産業でも、これまでサプライチェーン全体での価格転嫁を推進し、発注側として積極的に声がけもしていたとみられるものの、三次・四次・五次と連なるサプライヤー企 業の取引内容までこうした「号令」の影響が及び難くかったことが調査を行ったTDBとしては、結果的にサプライチェーン末端の中小下請け企業で価格転嫁が進まない一因となった可能性があると指摘している。

 

そうしたなかで、日本自動車工業会( 自工会 )は5月23日、部品メーカーを束ねる日本自動車部品工業会と連携して、自動車産業のサプライチェーン全体で適正な取引を推進することを表明。

 

そのなかで原材料費やエネルギー費の上昇に対し適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すことや、自工会が策 定している「適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」にも、その方針を盛り込むなど、自動車産業の頂点となる自動車メーカーが一丸となって適正な取引環境を実現 する姿勢を明確に示した。

 

今後は、これまで把握が難しかったサプライチェーン末端の企業にも、 必要なコスト増分の価格転嫁を促す動きが高まるとみられる。自工会のこうした取り組みが、幅広い業界でサプライチェーン全体の価格転嫁を実現するモデルケースとなるか注目されると帝国デーバンクでは結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。