自家用車を使ってパートタイムで旅客運送ができる日本版ライドシェア(自家用車活用事業)が始まって4か月が過ぎた。ライドシェアの調査を継続的に行っているММ総研が施行後3か月で実施した意向調査では、これまでにない厳しい結果が示されている。( 中島みなみ / 中島南事務所 )
日本版ライドシェアに対する期待は低い?
通信分野の市場調査を主力とするコンサルティング会社「ММ総研」(関口和一所長)は2024年7月29日、同年6月に実施した「日本版ライドシェアに関する調査」の結果を公表した。
日本版ライドシェアを「利用したい」という回答者は、47都道府県15~79歳の男女1000人にWebアンケート形式で行った調査で、18.3%に留まった。この結果について調査は「8割以上の人が『利用したくない』とする厳しい結果となった」と評している。ライドシェアの熱狂は冷めたのだろうか。
日本版ライドシェアとは、タクシーの旅客運送に必要な普通2種免許不要で、自家用車を使って有償運送を可能とする制度。デジタル行財政改革会議における主要テーマの一つとして議論され、運行管理をタクシー会社が引き受けることで、乗客の安全・安心を担保する形が、“日本版”の特徴だ。
同月にММ総研が行った「モビリティサービスに関する調査(5都府県3万1734人対象)では、ライドシェアの認知度は前年比で約20ポイント上昇する31.4%という結果をだった。今回の調査はモビリティサービスの中でもライドシェアに焦点を当てたことで、日本版ライドシェアに誤った認識が広がっている課題も浮上した。
日本版ライドシェアのメリットを複数回答する質問では《タクシーと比べて料金が抑えられる》という項目が20.5%と、最も多かったが、現在の運用では、アプリ上で料金を事前決済するだけで、運賃の計算はタクシーと同じだ。
ライドシェアの課題は実はこの点にある。実施前の議論では、ライドシェアを行うことで運賃が下がるという論調が確かにあった。その場合、誰がその引下げコストを負担するのか。それが交通の安全を阻害する要因とならないのか、という疑問に応える形で、最終的に日本版ライドシェアでは、運行管理をタクシー会社が引き受けることで担保した。そのため同一料金となったのだが、その点の理解が進まなかった。
ライドシェアのデメリットを聞いた設問では、ライドシェアの議論でも出てきた不安が払拭されないまま続いていることがわかる。複数回答で得られた上位の項目は以下の通りだ。
・犯罪などに巻き込まれる可能性がある……31.1%
・トラブル発生時の対応方針が不安……28.5%
・ドライバーの運転の安全管理体制が不安……29.9%
・接客などの質が不安……17.8%
・利用方法がわかりにくい……17.5%
当面は日本版ライドシェアで様子見か?
国内の利用者はライドシェアに何を望んでいるのか。日本版ライドシェアの今後の方向性についての質問では、「日本版のまま広げるべき」(33.6%)と「日本版でエリアや時間帯もこのまま」(26.7%)の現状に肯定的な意見が60.3%を占めた。
これに対して「有償型ライドシェアの全面解禁」は16.5%と低い。反対意見として「有償型ライドシェア自体を廃止」も19.1%だった。調査結果は、日本版ライドシェアについて理解を示している。
調査は、日本版ライドシェアを含む移動手段について、効果的と思う解決方法についても尋ねている。
《地方などの課題に効果的と思うもの》という複数選択で、日本版ライドシェアは3番目だった。ライドシェアサービスの全面解禁についての支持も低かった。
・タクシーやバス運転手の賃金や労働環境の向上……36.5%
・完全自動運転の無人タクシーやバス……25.9%
・日本版ライドシェア……23.8%
・タクシー運転免許の取得条件緩和……14.5%
・AIデマンド交通……13.2%
・外国人の開くシーやバス運転手への就労条件緩和……13.2%
・タクシー会社が運行主体にならない有償型ライドシェアサービスの全面解禁……11.7%
調査回答者は、身の回りの生活における公共交通を、けして便利だと考えているわけではない。人口の約半数を占める人口上位8都府県の回答者と比較して、ほか39県の回答者は20ポイント近く不便を感じている。それでも回答者の指向は、ライドシェアによるデジタル改革よりも、労働環境の改善や自動運転などの技術革新で解決することを望んでいるようだ。
調査はこう結んでいる。
「地方の移動課題は日本版ライドシェアだけで解決できるものではない。ドライバーなど交通従事者の労働環境改善などはもちろんのこと、地域全体を俯瞰的に見た中で、自動運転やAIオンデマンド交通、MaaS などといった最新の技術やサービスも最大限活用しなければならない。日本版ライドシェアもその中の 1つの柱に過ぎないという認識を共有する必要がある」
プラットフォーマーの参入が認められていない現状で、日本版ライドシェアの成長はタクシー事業者に委ねられた。ただ、例えば2025年の大阪・関西万博のような移動需要の効率的な対応に関する制度作りは、積み残された課題である。調査は「交通の『量』だけでなく『質』を高める議論」の必要性を説く。