理化学研究所(理研)と高度情報科学技術研究機構(RIST)は2月9日、2014年度から開発・整備を進めてきたスーパーコンピュータ「富岳(※1)」を、広く学術・産業分野向けに提供するため、3月9日から共用を開始すると発表した。
また、共用開始当日、記念式典および記念イベント「HPCIフォーラム」を開催する。
「富岳」は、文部科学省が推進する革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の中核システムとして、開発・整備が進められてきたスーパーコンピュータ。理研は、2014年度から富士通と共同で「富岳」の開発に着手し、昨年5月には全ての筐体搬入を終了。以降、共用開始に向けた開発と利用環境整備などを進めている。
その間「富岳」は、スーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500(※2)」「HPCG(※3)」「HPL-AI(※4)」「Graph500(※5)」の4部門において、昨年6月と11月の2期連続で世界第1位を獲得(注1/2)。また、今年4月には「スーパーコンピュータ『富岳』成果創出加速プログラム」や「新型コロナウイルス対策利用」等の試行利用(注3)を開始。これら試行的な利用において、「大規模数値流体シミュレーションに関する研究(注4)」と「史上最大規模の気象計算(注5)」がゴ-ドン・ベル賞(※6)のファイナリストとしても選出されている。
また、登録施設利用促進機関(※7)であるRISTは、「富岳」の早期の利用立ち上げ、利用準備を目的とした「試行的利用課題」を、昨年7月に公募開始し、これまでに110件の課題を採択。共用開始以降は、「成果創出加速プログラム」の継続と共に、幅広い研究者等向けの本格利用を開始する。
RISTでは現在、今年度の一般利用・産業利用課題に応募があった一般公募81件について選定しているが、今後は、有償利用も含めた随時利用課題の募集も予定していると云う。
フィージビリティスタディ(2012年から2014年に実施)等、その準備期間も含めて約10年に及んだ「富岳」開発プロジェクトは、3月9日の共用開始を以て完了を迎える。
※1)スーパーコンピュータ「富岳」:「京」の後継機。社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAI(人工知能)の加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータ。15万8976個の中央演算装置(CPU)を搭載し、1秒間に約44京2010兆回の計算が可能。
※2)TOP500:LINPACKの実行性能を指標として世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。LINPACKは行列計算による連立一次方程式の解法プログラムであり、高いスコアは計算能力と信頼性を総合的に示していると一般的に言われている。
※3)HPCG:産業利用など実際のアプリケーションでよく使われる、疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である共役勾配法を用いたベンチマーク。
※4)HPL-AI:LINPACKベンチマークを改良し低精度演算で解くことを認めた、新しいベンチマーク。近年、GPUや人工知能向けの専用チップで低精度演算(10進で5桁、もしくは10桁)の演算器を搭載し、高性能化した計算機が多数現れていること背景に、ジャック・ドンガラ博士を中心として2019年11月に提唱された。
※5)Graph500:実社会における複雑な現象は、大規模なグラフ(頂点と枝によりデータ間の関連性を示したもの)として表現される場合が多い。こうした多種多様な応用を持つグラフ解析の性能を競うベンチマーク。
※6)ゴ-ドン・ベル賞:その年において、高性能並列計算を科学技術分野へ適用することに関してイノベーションの功績が最も顕著な研究に与えられる賞。
※7)登録施設利用促進機関:「特定先端大型研究施設の共用の促進」に関する法律に基づき、「富岳」の研究課題の選定、利用支援、研究成果の公開など、利用促進業務を行う機関。
注1:(理研)「スーパーコンピュータ「富岳」TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500において世界第1位を獲得(2020年6月23日発表)」:https://www.riken.jp/pr/news/2020/20200623_1/
注2:(理研)「スーパーコンピュータ「富岳」TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500にて2期連続世界第1位を獲得(2020年11月17日発表)」:https://www.riken.jp/pr/news/2020/20201117_4/
注3:(理研)「新型コロナウイルス対策を目的としたスーパーコンピュータ「富岳」の優先的な試行的利用について(2020年11月17日発表)」:https://www.riken.jp/pr/news/2020/20200407_1/
注4:(理研)「スーパーコンピュータ『富岳』による大規模数値流体シミュレーションに関する研究がゴードン・ベル賞の最終候補に選出(2020年11月12日発表)」:https://www.riken.jp/pr/news/2020/20201112_1/
注5:(理研)「スーパーコンピュータ「富岳」を利用した史上最大規模の気象計算を実現(2020年11月20日)」:https://www.riken.jp/pr/news/2020/20201120_2/
■理研 計算科学研究センター(R-CCS):https://www.r-ccs.riken.jp/jp/
■高度情報科学技術研究機構(RIST):http://www.rist.or.jp/
■High Performance Computing Infrastructure(HPCI):https://www.hpci-office.jp/