それは右肩上がりに拡大し続ける同社の自動車事業のなかで、SUBARUの原点と云える技術者達、そしてそうした「現場」を支える生真面目な社員達の足並みが乱れてしまうこと。それにより同社の屋台骨が揺らいでしまう危惧にあった。
そこで同社の核心と云えるものづくりの現場である製造工場に。そして車両が販売好調で推移するなか、増え続ける顧客に対して真摯に応えてきた販売店にも心を寄せるなど、SUBARUの屋台骨であるいわば「現場」とのコミュニケーション連携、「現場」で働く社員達の環境改善に心血を注いできた。
しかし結果は、マーケットから求められるに乗じて、事業が急速に拡大していくという流れのなかで、吉永氏がもっとも大事にしたいと考えていた筈の「現場」に、経営規模拡大のしわ寄せが及んでしまったと、同氏も当日の会見で語っていた。
また吉永氏は、自らがCEO職を引き継ぐことに対して、「今日の役員会議でも話しましたが、ツートップのようになるつもりはありません。中村さんに権限をどんどん渡して、邪魔にならないようにしたいと思います」と語っており、また先の完成検査問題については、「企業体質を改善していく問題からも逃げずに、身近らで責任を持ちたいと思います」と述べている。
つまり吉永氏は、いずれSUBARUが完成検査などの「現場」に於ける様々な課題を克復し、現在の事業規模に対して、経営そのものが身の丈に合う様に成長していく方向性を見届けるまでの間、当面、側面から中村新社長を支え続ける考えのようだ。
さらにSUBARUには、もうひとつの課題がある。その鍵となるものはトヨタとの協業体制である。
現在、SUBARUとトヨタのアライアンスは、技術面で、目に見える協業を成果を獲得するまでには至っておらず、100年に一度の大変革期に直面している自動車業界のうねりのなか、SUBARUがトヨタとのアライアンスのなかで、どのように先導的な役割を演じていけるかが未だ不透明なのである。
しかし、その方向性の一端は、おそらく今夏発表されるであろう新中期経営計画で明らかになる。
かつてはエンジニアの発言権が強く、営業部門は蚊帳の外。独自技術を背景に尖ったクルマを作り続けてきたSUBARUを、利益を産むことのできるマーケット路線に乗せることに成功した吉永体制。
そんなSUBARUが、中村新社長体制に移行していくなか、同社の秘めたる可能性を、どのように伸ばしていくことが出来るのか。
今日、新たな船出を迎え、吉永氏のサポートが実を結び、SUBARUが自動車事業を含めた上で「真のグローバル企業」になっていけるかの分水点に立っていると言えそうだ。(MOTOR CARS )