ソニーGの社長交代会見
ソニーグループは2月2日、十時裕樹副社長兼最高財務責任者(CFO)が4月1日付で社長兼最高執行責任者(COO)に昇格するトップ人事を発表した。吉田憲一郎会長兼社長は代表権のある会長兼最高経営責任者(CEO)に就く。十時新社長は2001年に一度ソニー本体から飛び出して、ソニー銀行の創業を主導し、代表取締役に就任したこともある。吉田会長とは子会社のソネット時代に苦楽をともにした戦友で「管鮑の交わり」とも言える間柄だ。(経済ジャーナリスト 山田清志)
ソニーGの吉田憲一郎会長兼CEO
CFOとして成長投資をサポート
「グループ全体の価値向上のためには、キャピタルアロケーション、事業間連系、そして事業ポートフォリオマネジメントの3つをしっかり実行していく必要がある。これらの実践に向けて経営体制を強化すべきと考えた。
各事業のオペレーションに深い理解を持つ十時の社長昇格とともに、COO就任を指名委員会および取締役会の提案し、本日承認いただいた。彼はCFOも継続する。CFOも事業の深い理解が必要で、COOの職務とも密接に関わりがあると考えた」
吉田会長は冒頭の挨拶で、社長交代の経緯についてこう説明し、「彼はCFOとしてグループ経営計画を策定し、成長投資をサポートしてきた。私も事業環境を俯瞰した彼から、多くの気づきと学びを得てきた」と付け加えた。
吉田会長は2022年7月に初めて今回のトップ人事について指名委員会に話し、その後、何度も議論を重ねてきたという。その議論の席で、吉田会長が十時新社長の強みとしてあげたのが、成長に対する強い意志だった。
「2018年4月以降、CFOとして5年間にわたり、グループの成長戦略を財務面から牽引してくれた。最大の貢献は成長投資へのサポートである」と吉田会長。
例えば、コンテンツIPでは、アニメ配信のクランチロールなどの買収をはじめ、音楽出版会社のEMIミュージックパブリシングの買収を、条件交渉を含めてリードしてくれた。
また、CMOSイメージセンサーの需要や競争環境、開発ロードマップについて、事業部側と綿密に議論を重ね、リスクをマネージしながら、投資をサポート。さらに、現在の中期経営計画における2兆円の戦略投資枠の設定をリードしてくれたそうだ。
ソニーGの十時裕樹新社長
成長にこだわる経営を行う
このように財務面からサポートをした十時新社長は記者会見で、「成長にこだわる経営を行う。成長が停滞すると、いろいろな意味でネガティブスパイラルに陥ってしまう。
お客様に選ばれ、社員を元気にするポジティブスパイラルを作り上げていく。今の事業をそれぞれに強化させ、ソニーグループのパーパスのもとに、事業を進化、成長させるために全力で取り組む」と抱負を述べた。
十時新社長は1964年7月生まれの58歳で、山口県出身。早稲田大学商学部を卒業後、1987年にソニー(現・ソニーグループ)に入社。主に財務畑を歩み、2002年にソニーを退社して、自らソニー銀行の創業を主導し、代表取締役に就任。
2005年6月にソニーコミュニケーションネットワークの専務に就き、13年4月に社名を変更したソネットエンタテインメントの副社長CFOに昇格。同年12月にはソネットで上司だった吉田会長とともにソニーへ復帰。当時、ソニーの平井一夫前社長から復帰を要請された吉田会長がつけた条件の一つが「十時も一緒に」だったそうだ。
ソニー復帰後は業務執行役員SVPに就任して、事業戦略やコーポレートディベロップメント、トランスフォーメーションを担当。14年にソニーのグループ役員に就任するとともに、ソニーモバイルコミュニケーションの社長兼CEOに就任して、スマートフォン事業を担当した。
2017年にソニーの執行役CSO、18年に代表執行役専務CFOを経て、20年6月に代表執行役副社長CFOに就任した。信条は「経営の要諦は勇気と忍耐にあり」で、自分自身に常々言い聞かせているという。そんな十時新社長は、ソニーグループをこれからどのような会社にしようとしているのか。
「ソニーのパーパス(存在意義)は、『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』であり、感動バリューチェーンを広げていく姿勢を打ち出している。これを吉田がしっかりと定義してくれた。
私は、そのパーパスを定着させること、具体的なものにしていく。これが、これからのソニーグループが目指す会社の姿である。感動をつくり、届けることでビジネスをしている会社であり、これを太く、厚いものにしていく」
こう話す十時新社長だが、マクロの経済環境は金利の上昇、地政学リスク、エネルギー問題など不確実性が一層高まっている。米国では、高成長を続けてきたテック大手5社が22年10月~12月期決算でそろって最終減益となった。
また、ソニーも2003年のソニーショック、2012年3月期の赤字転落と、約10年周期でピンチを迎えており、十時新社長も気を引き締めて舵取りをしていく必要がありそうだ。