ソフトバンク孫正義会長兼社長
ソフトバンクグループ(SBG)が2月8日に発表した2020年度第3四半期累計(4~12月)は、純利益が前年同期比と比べ6.4倍の3兆551億円だった。4~12月期としては、トヨタ自動車が記録した2兆131億円(17年度)を上回り、日本企業で過去最高となる。通信子会社ソフトバンクが堅調だったことに加え、傘下の投資ファンド「ビジョン・ファンド」の投資先企業の価値が上がり、巨額の含み益をもたらした。(経済ジャーナリスト・山田清志)
SBG20年度第3四半期決算 ビジョンファンド
19年度第4四半期は過去最大の赤字会社
「私はこの決算の数字は1つの会計的なものの見方で、役に立つが大した意味はないということをかねてより言ってきた。3兆円は園なりの数字だが、さして喜ぶようなものではない。私としてはまだまだといったところだ。この程度で満足するつもりはさらさらない。40年近く会社を経営して、この程度であるということは非常に恥ずかしいというのが正直な気持ちだ」
孫正義会長兼社長は決算説明会の冒頭にこう語り、「純利益よりも大切なのはNAVだ」と強調した。NAVとは、保有株式価値から順有利子負債を引いたもので、投資会社としての成績を示す目安とされる。昨年の9月末は27兆円だったが、現在は約25兆円だ。
SBGの業績については、とにかく乱高下が激しい。2019年度は純損益が9615億円の赤字で、15年ぶりに最終赤字に陥った。特に第4四半期(1~3月)は、純損益が1兆4381億円の赤字となり、日本企業の四半期赤字額では、東日本大震災時の東京電力ホールディングス(11年1~3月期1兆3872億円)を超えて過去最大だった。
「ほんの1年前、当時のビジョン・ファンドはまったく機能していないファンドだと言われた。ディスカウント要因になり、価値を創造していないと株主に批判されたが、私は価値を信じていた。その部分がやっと収穫期に入り始めた」と孫会長兼社長。
2020度はこれまでに米料理宅配大手「ドアダッシュ」をはじめ、8社が株式を上場。投資先の米配車大手「ウーバー・テクノロジーズ」も株価が好調で、1.5兆円の含み益が出た。SBGの株価も8日の終値で9485円と、2000年のITバブル以来の高値をつけた。時価総額も20兆円を超え、コロナ禍が直撃した20年3月と比べ3倍以上になった。
SBG20年度第3四半期決算 金の卵
AI投資拡大で年間10~20社のIPOを目指す
「ソフトバンクグループが何の会社なのか聞かれることが多いので、改めて説明したい。ソフトバンクは通信の事業会社として継続していく。一方、ソフトバンクグループは投資会社としての色彩を強めていく。しかし、一般の人が思う既成の概念の投資会社とは違う」と孫会長兼社長は話し、こう付け加える。
「ソフトバンクグループは製造業でもある。何の製造業かというと、金の卵を産む製造業だ。何だそれはというと、例えるならソフトバンクグループは情報革命に特化して、情報をためて金の卵を産んでいくガチョウ。これまでにヤフー、スプリントなどいろいろな企業を生んだ」
ここで言う「金の卵」とは、100億円以上でエグジット(投資回収)した、あるいは上場した企業のこと。2020年度の金の卵は、「エヌビディア」に約4.2兆円で売却した「アーム」を含めて11社に上る。アームは2016年に約3.3兆円で買収しているので、1兆円近い金額の投資回収をしたことになる。しかも、売却分の3分の2はエヌビディア株であるため、SBGはさらに含み益を得ている。
「金の卵に例えると、お金の亡者に思われるが、そこが最大のゴールではなく、たかだか3兆円の利益が出て有頂天になるつもりはない。まだ道半ばだ」と孫会長兼社長。
今後はよりAI投資に集中し、約200社のグループ企業と投資会社の中でシナジーを生み出していく「ターボチャージ戦略」を進め、金の卵を産むペースを早めていく方針だ。年間に10~20社のIPO(株式公開)を行っていくという。ただ、SBGの投資先は中国企業が少なくなく、アリババの傘下企業のように中国当局の鶴の一声で経営が急変するリスクは拭えない。それだけに孫会長兼社長の目論見通りに金の卵を産んでいけるかどうか要注目だ。