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2021年2月8日【事業資源】

ソフトバンクG、純利益が日本企業過去最高の3兆円

山田清志

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ソフトバンク孫正義会長兼社長

 

ソフトバンクグループ(SBG)が2月8日に発表した2020年度第3四半期累計(4~12月)は、純利益が前年同期比と比べ6.4倍の3兆551億円だった。4~12月期としては、トヨタ自動車が記録した2兆131億円(17年度)を上回り、日本企業で過去最高となる。通信子会社ソフトバンクが堅調だったことに加え、傘下の投資ファンド「ビジョン・ファンド」の投資先企業の価値が上がり、巨額の含み益をもたらした。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

SBG20年度第3四半期決算 ビジョンファンド

 

19年度第4四半期は過去最大の赤字会社

 

「私はこの決算の数字は1つの会計的なものの見方で、役に立つが大した意味はないということをかねてより言ってきた。3兆円は園なりの数字だが、さして喜ぶようなものではない。私としてはまだまだといったところだ。この程度で満足するつもりはさらさらない。40年近く会社を経営して、この程度であるということは非常に恥ずかしいというのが正直な気持ちだ」

 

孫正義会長兼社長は決算説明会の冒頭にこう語り、「純利益よりも大切なのはNAVだ」と強調した。NAVとは、保有株式価値から順有利子負債を引いたもので、投資会社としての成績を示す目安とされる。昨年の9月末は27兆円だったが、現在は約25兆円だ。

 

SBGの業績については、とにかく乱高下が激しい。2019年度は純損益が9615億円の赤字で、15年ぶりに最終赤字に陥った。特に第4四半期(1~3月)は、純損益が1兆4381億円の赤字となり、日本企業の四半期赤字額では、東日本大震災時の東京電力ホールディングス(11年1~3月期1兆3872億円)を超えて過去最大だった。

 

「ほんの1年前、当時のビジョン・ファンドはまったく機能していないファンドだと言われた。ディスカウント要因になり、価値を創造していないと株主に批判されたが、私は価値を信じていた。その部分がやっと収穫期に入り始めた」と孫会長兼社長。

 

2020度はこれまでに米料理宅配大手「ドアダッシュ」をはじめ、8社が株式を上場。投資先の米配車大手「ウーバー・テクノロジーズ」も株価が好調で、1.5兆円の含み益が出た。SBGの株価も8日の終値で9485円と、2000年のITバブル以来の高値をつけた。時価総額も20兆円を超え、コロナ禍が直撃した20年3月と比べ3倍以上になった。

 

SBG20年度第3四半期決算 金の卵

 

AI投資拡大で年間10~20社のIPOを目指す

 

「ソフトバンクグループが何の会社なのか聞かれることが多いので、改めて説明したい。ソフトバンクは通信の事業会社として継続していく。一方、ソフトバンクグループは投資会社としての色彩を強めていく。しかし、一般の人が思う既成の概念の投資会社とは違う」と孫会長兼社長は話し、こう付け加える。

 

「ソフトバンクグループは製造業でもある。何の製造業かというと、金の卵を産む製造業だ。何だそれはというと、例えるならソフトバンクグループは情報革命に特化して、情報をためて金の卵を産んでいくガチョウ。これまでにヤフー、スプリントなどいろいろな企業を生んだ」

 

ここで言う「金の卵」とは、100億円以上でエグジット(投資回収)した、あるいは上場した企業のこと。2020年度の金の卵は、「エヌビディア」に約4.2兆円で売却した「アーム」を含めて11社に上る。アームは2016年に約3.3兆円で買収しているので、1兆円近い金額の投資回収をしたことになる。しかも、売却分の3分の2はエヌビディア株であるため、SBGはさらに含み益を得ている。

 

「金の卵に例えると、お金の亡者に思われるが、そこが最大のゴールではなく、たかだか3兆円の利益が出て有頂天になるつもりはない。まだ道半ばだ」と孫会長兼社長。

 

今後はよりAI投資に集中し、約200社のグループ企業と投資会社の中でシナジーを生み出していく「ターボチャージ戦略」を進め、金の卵を産むペースを早めていく方針だ。年間に10~20社のIPO(株式公開)を行っていくという。ただ、SBGの投資先は中国企業が少なくなく、アリババの傘下企業のように中国当局の鶴の一声で経営が急変するリスクは拭えない。それだけに孫会長兼社長の目論見通りに金の卵を産んでいけるかどうか要注目だ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。