NEXT MOBILITY

MENU

2020年12月10日【ESG】

昭和電工、統合新会社の長期ビジョンを発表

NEXT MOBILITY編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
昭和電工・ロゴ

昭和電工は12月10日、この度、昭和電工マテリアルズとの統合(以下、「統合新会社」)により目指す“統合新会社の長期ビジョン(2021~2030)”(以下、「長期ビジョン」)を策定したことを発表した。

 

昭和電工は、2020年4月28日に同社を連結子会社とした後、昭和電工と昭和電工マテリアルズを早期に統合し、将来に向けた成長の基盤を確立するため、長期ビジョンの検討を進めてきた。

 

昭和電工および昭和電工マテリアルズは、統合新会社として、今後もグローバル競争の激化や市場構造の変化が予想される化学産業において顧客企業に新たな機能・価値を提供し続け、持続可能な社会の実現への貢献を目指すという。

 

 

1.統合新会社の長期ビジョン、長期シナジー

 

(1)存在意義(パーパス)と目指す姿
統合新会社としての存在意義(パーパス)として、「化学の力で社会を変える」ことを掲げていく。先端材料パートナーとして、時代が求める機能を創出し、グローバル社会の持続可能な発展に貢献するという意味合いが包含されている。

 

また、この存在意義(パーパス)の充足に向けた目指す姿として「世界で戦える会社」「持続可能なグローバル社会に貢献する会社」の2つを掲げている。

 

現在、世界全体で環境・社会問題解決に向けたSDGsへの対応が求められる中、素材メーカーのイノベーションに対する期待は益々大きくなっている。統合新会社では、昭和電工の川中の素材技術、昭和電工マテリアルズの川下のアプリケーション技術、両社の評価・解析技術、これらの融合で、顧客にワンストップソリューションと新たな機能を提供し、持続可能な社会全体へ貢献する。

 

(2)ポートフォリオマネジメント
今回の統合によって構築された事業ポートフォリオでビジョンの実現を目指す。コア成長事業、次世代事業、安定収益事業、基盤事業、この役割の異なる4つの事業群がそれぞれ役割を発揮し、持続的な成長を実現する。

 

特に、基盤事業の幅広い技術・素材が各事業群の競争力を強化し、また多様な事業で基盤事業の技術・素材を磨き続けることで、将来の新たな有望市場への事業拡大を展望している。

 

– コア成長事業:エレクトロニクス、モビリティ
成長市場で圧倒的な規模感とトップシェア製品を有し、今後の統合新会社の成長を担う事業
– 次世代事業:ライフサイエンス
有望市場で将来の成長に繋がる優位ポジションにあり、次世代の柱へと育成していく事業
– 安定収益事業: カーボン、石油化学、デバイスソリューション、産業ガス、基礎化学品、アルミ圧延品、アルミ缶、コーティング、電子機能材、エネルギー
競争環境の落ち着きつつある市場で高い競争力・シェアを有し、安定した利益で投資資金を捻出する事業
– 基盤事業: セラミックス、機能性化学品、アルミ機能部材
他の3つの事業群の競争力を支える無機・有機・アルミの幅広い技術・素材で、各事業のイノベーションを支える技術プラットフォーム事業

 

(3)コア成長事業/次世代事業
同社グループの今後の成長をけん引していくコア成長事業/次世代事業は、それぞれに異なる市場ステージ・当社ポジションにあり、それぞれの状況を踏まえて事業を展開する。特に以下の5事業を「成長事業」として、中長期的に当社グループの成長の中心となる事業と位置づけている。

 

– エレクトロニクス:半導体ウエハ工程事業、半導体パッケージ工程事業
– モビリティ:マルチマテリアル・大型一体成形モジュール事業、熱マネジメント(パワーモジュール)事業
– ライフサイエンス:再生医療事業

 

成長事業の2020年の合計売上規模は約2,300億円であり、両社の技術シナジーを含むイノベーションを通じて年平均成長率 10%を達成しながら、2030年にはこれを6,000億円規模にまで拡大させていく。またこの5事業におけるシナジーを含むイノベーション部分で、2025年に180億円、2030年に480億円の営業利益を追加的に創出する。

 

(4)統合による技術融合
昭和電工の川中素材の「作る化学」と、昭和電工マテリアルズの川下アプリケーションの「混ぜる化学」、両社の評価・シミュレーション、構造解析、
計算科学の「考える化学」、この3つの技術の融合によって市場に幅広い機能を提供し続けて事業を強化・創出するとともに、事業を通じて技術を継続的に強化し、この好循環によって自律的なポートフォリオの変革と持続的な高成長を実現を目指す。

 

上述の5つの成長事業を中心とした収益拡大に向けて、以下の事例に代表されるような、両社の製品・技術の融合によるシナジーの実現に取り組んでいく。

 

– 半導体ウエハ工程事業:
半導体の高性能化に伴い、半導体材料における技術革新が求められている。素材技術のブレークスルーは年々難しくなっている中で、両社の技術の組み合わせで技術のトレードオフを突破して顧客のニーズに応える。

– 半導体パッケージ工程事業:
5G対応や積層化などの潮流により、各部素材の機能高度化と新たなパッケージ構成・プロセスのイノベーションが同時に求められている。半導体メーカーからも高く評価されている「パッケージングソリューションセンタ」を活用し、評価技術に基づく素材組み合わせで顧客に新たな価値を提供するとともに、両社の技術で先行的な次世代品開発を進める。

– 熱マネジメント(パワーモジュール)事業:
車体の電子制御化等の進展に伴い、熱課題の複雑化とパワーモジュールメーカーによる部分アウトソーシングの進行が予想される。統合による熱マネジメント素材の製品ラインナップ拡充と、解析・モジュール評価技術を活かした素材組み合わせによって、顧客の技術課題とニーズに応える。また将来的にはSiCエピウエハ事業を保有することを活かした熱マネジメント素材パッケージの提案も検討している。

 

(5)SDGs への貢献
国際社会と同社グループの持続的発展のために、社員一人ひとりが何をしていくべきかを「私たちの行動規範」に定めて行動。また、SDGsの17の目標
にも沿った事業活動を進め、統合新会社としても多様な技術・事業を通じてSDGsに貢献し、ESGへの取組みをより一層強化する。

 

統合後の多様な技術・事業を通じた SDGs への貢献例
・次世代半導体材料等の提供を通じた電力・資源消費最適化
・プラスチックケミカルリサイクルによる資源有効利用・温暖化ガス削減
・水力発電によるCO2フリーのエネルギー創出への貢献
・電炉用黒鉛電極の供給による鉄資源の有効利用促進
・モビリティ軽量化・電動化を通じた地球温暖化ガス削減
・ライフサイエンス事業を通じたQOL向上 など

 

 

2.長期数値目標

 

長期数値目標の考え方
経営理念は、価値創造の主役である従業員、株主様、お客様、取引先など、すべてのステークホルダーの皆様にご満足いただくことを目指し、企業価値の向上を図るこ
とです。

 

グループ経営理念を「私たちは、社会的に有用かつ安全でお客様の期待に応える製品・サービスの提供により企業価値を高め、株主にご満足いただくと共に、国際社会の一員としての責任を果たし、その健全な発展に貢献します。」とし、すべてのステークホルダーに満してもらうことを目指し、企業価値の向上を図る。

 

今回、その企業価値向上に向けた総合指標である「TSR(Total Shareholders Return)」や、EBITDAマージン、ネットD/Eレシオ等を統合新会社として長期数値目標として設定した。

 

 

3.短中期シナジー

 

グループの持続的な成長を実現するには、先に述べたようなポートフォリオの厳選、組織の生産性を最大化していくことが重要であるとし、その一環として足元~2023年にかけての短中期では、事業ポートフォリオ再編に伴う事業売却に加え、収益体質の改善や資産のスリム化、組織の完全統合を確実に実行する。

 

(1)事業ポートフォリオ再編
事業ポートフォリオの再編の一環として、複数事業の売却について検討・交渉を進めている。売却額については、EV(事業価値)ベースで2,000億円相当を想定する。

 

(2)収益体質の改善施策・資産のスリム化
①収益体質の改善施策
統合により発現する収益体質面でのシナジーとして、販売関連収益の改善に加え、材料費・物流費の低減、生産性改善、1,500名規模の業務最適化等、主に6つの施策を積み上げて検討。2023年末で総計280億円程度の削減を見込む。

 

なお、現状は定量化段階であり、上記の施策に織り込んでいない新製品開発/クロスセルによる収益拡大や、オペレーション拠点の統廃合等の施策等についても着実に実行し、効果の積み増しを行う。

 

②資産のスリム化
経済環境悪化による影響からの回復に向けた財務健全化の取組みの一環として、資産のスリム化についても既に着手し、2021年までの改善策として 500億円を見込む。中長期的には追加施策も検討している。

 

(3)組織統合
先に述べたコア成長事業、次世代事業、安定収益事業、基盤事業の各事業の戦略的位置づけに基づき、両社の事業を統合・再整理していく。

 

– コア成長事業:エレクトロニクス、モビリティ
– 次世代事業:ライフサイエンス
– 安定収益事業:カーボン、石油化学、デバイスソリューション、エネルギー等
– 基盤事業:機能材料

 

また、本社機能の協働取組みの一環として 2022年春頃に竣工を予定しているグローバル研究開発拠点「融合の舞台」(横浜市神奈川区)では、両社の多様な技術領域を融合し、ESGの観点からの新たな研究開発テーマの創出・推進を実現する。

 

今後のマイルストンとしては、2021年7月に実質統合(指揮命令系統の統一やコーポレート機能の統合)、同年10月の本社統合を経たのち、2023年1月に法人格統合することを目指し、統合に向けたPMIを順調に推進している。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。