BMW傘下のロールス・ロイスは4月5日、自社の次期新型EV「スペクター」のウィンター・テストを去る3月30日に終了したと発表した。これは同社が、スウェーデン/アリエプローグ(北極圏から55キロメートル地点)にある寒冷地・極寒期を想定した専用施設に於いて、アルミニウム製スペース・フレーム「アーキテクチャー・オブ・ ラグジュアリー」をプラットフォームとして採用したスペクターが気温マイナス40度の環境下で耐えられる事を確認したもの。(坂上 賢治)
アリエプローグの施設では、外気温度がマイナス26度からマイナス40度まで低下する過酷な環境にあり、同テストを潜り抜けた結果、400年間の使用を想定した250万キロメートルの試験走行プログラムのうち25パーセントを消化した事になるという。スペクターは、ファントム・ クーペのボディサイズを継承し、電動ドライブトレインと同社最新鋭のシャシー・エンジニアリングを組み合わせてブランドにとって新時代の到来を告げるものだとしている。
同社が、新型車両のテストを極限下で行う事に理由は、新型車の最初のプロトタイプを製作した場合、常に極限状態での基本テストを行う事がマストであるため、今回も平素と同じく極寒下で車載機能が100パーセント機能する事は欠かせない。
ちなみに、このようなテストの実施は、ロールス・ロイスならではの洗練性をどんな時でも、どんな場面に於いても常に発揮出来なければならないため。その際の課題は騒音・振動・ハーシュネス(NVH)試験に始まり、主要なハードウェア・コンポーネント用の素材の性能基準を確認する事。更にドア周りのラバー材の密度、ブッシュ材の組成、締結部の素材、接着剤の外気温等の特性変化に至る迄、様々なテストを行う。
またこれら変数による影響確認は、車室内の暖房・換気・空調・冷却システムの効率などにも気が配られる。加えてロールス・ロイスならではのウィンター・テスト於けるマスト要素には、同社のエンジニア達が「デ・エスカレーテッド・タイム(徐々に馴染ませる時間)」と呼ぶ独自基準が設けられているからだ。
このテスト実施についてロールス・ロイス・モーター・カーズのエンジニアリング・ディレクターであるミヒヤー・アユービ氏は「スペクターを実際に雪や氷などのトラクションが掛かり難い路面を走行させ、意図的に不安定な状態にする事で、エンジニアは通常なら高速走行で発生するようなダイナミックな状況を低速域で作り出す事が出来ます。
こうしてハンドリング、操縦性、安定性、予測可能試験を行う他、更にロールス・ロイスの走りを特徴付ける〝ワフタビリティ(浮遊感)〟などの分野での寒冷地の車両性能をパラメーター化して微調整を行うことによって様々な状況下で、システムをまとめ上げる事が出来ました。
今回デ・エスカレーテッド・タイムを伴うテストを実施する事によって、我々のエンジニア達はロールス・ロイスの応答特性に関して、他車では真似の出来ない洗練さ醸し出す事が出来、スペクターがロールス・ロイスの名に恥じないふるまい、ドライバーや乗員との対話を行える事が出来るようになります。
そのための50万キロメートル超えのテストを経て、現在試験プロセスの25パーセントを消化した段階にあります。これはロールス・ロイスによる未来に向けた電動化への新たな歩みであり、次なる時代に踏み出す〝ロールス・ロイス3.0〟始まりとなります」と語った。
ちなみに、このロールス・ロイス3.0に至る道程は、2003年の1月に宣言されたブランド・ルネッサンスにまで遡る。グッドウッド生まれの最初のロールス・ロイス「ファントム」のビスポーク・アーキテクチャーが、その原点となる〝ロールス・ロイス0.1〟であり、その後に考案されたオール・アルミニウム製スペースフレームの第2段階アーキテクチャーが〝ロールス・ロイス0.2〟にあたる。
最新鋭EVのスペクターは、新たなコンセプトをデジタル空間を活用して編み出したものであり、歴代ロールス・ロイス上でも最も高度に〝繫がる〟性能を持ち合わせ、これまでのどのロールス・ロイスよりも高度な情報化が実現されていると結んでいる。なおこのウィンター・テスト・フェーズを終えたスペクターは舞台を変え、引き続き新たな環境下でのグローバル・テスト・プログラムに挑戦し続ける事になる。