日本版ライドシェアのスタートで、このサービスを知る人は多くなった。ただ、認知度の向上に比例した利用意欲に至っていないというレポートが作成されている。クルマの保有率との相関関係も指摘され、規制緩和以外の展開の道筋が懸念される。( 中島みなみ / 中島南事務所 )
調査の半数以上が知っていたのは、2つのモビリティ・サービス
通信技術分野の市場調査コンサルティングを主力にする「ММ総研」( 関口和一所長 )が、ライドシェアなど「モビリティ・サービスに関する調査 」結果を発表した。この調査は2023年に次ぐ2回目の調査となる。今回は東京、大阪、愛知の在住者に加えて、京都府、福岡県に地域を拡大して、3万1734人を対象にウェブ形式で聞いた。
この調査の結果は、代表的な7つのサービスについて「知っているか?」の認知度が主軸になる。対象者の半数以上が知っていると回答したのは、2つのサービスだった( カッコ内は前年比 )。
・カーシェア 59.7%(+1.3%)
・タクシー配車アプリ 57.9%(+4.0%)
カーシェア最大手の「タイムズモビリティ」は会員数約272万人、車両数約4万8000台。会員数は今も増え続けている。レンタカー・サービスの一つとしてビジネス展開された後は、プラットフォーマーを介した個人間カーシェアが始まるなど、安定した移動インフラとして拡大している。また、タクシー配車アプリは、利用者が確実に配車を受けられるサービスとして使われて、都市部では無線配車に代わるサービスの主流になりつつある。
特にライドシェアの認知度は2023年が11.6%しかなかったが、1年で19.8ポイント上昇した。それでもモビリティ・サービスの中での認知度は低い。(出典=ММ総研)
ライドシェアの認知度急上昇 ただ、前年比で認知度が減少した新しいサービスも
認知度が50%に届かなかった5つのサービスは、前年比で認知度が向上したサービスと、下落したサービスに分かれる。
認知度が上がったのは、規制改革が実行されて話題のサービスとなっている。
・電動キックボードシェア 32.2%(+7.0%)
・ライドシェア 31.4%(+19.8%)
「電動キックボードシェア」は2023年7月に道交法改正で特定小型原付として位置づけられた。「ライドシェア」は2024年4月に国土交通省が規制緩和を実施し、日本版ライドシェアとしてスタートした。
しかし、ほかのモビリティ・サービスには目立った動きがなく、認知度が前年より下がった。
・シェアサイクル 42.3%(△7.3%)
・シェアパーキング 19.5%(△4.4%)
・MaaSサービス 4.6%(△0.9%)
自治体などと提携して事業を展開するシェアサイクル・サービスでは7月10日、業界大手のドコモ・バイクシェアと、ハローサイクリングを提供するソフトバンク子会社のOpen street( オープンストリート )が業務提携を発表。協業による利用相乗効果と維持コスト削減で、シェア奪還を図ろうとしている。
一方、認知度が上がっているモビリティ・サービスでも、利用率に焦点を当たると、厳しい結果が出ていて、レポートはこう指摘する。
「タクシー配車アプリ以外のサービスは、利用率が2023年と同様に10%を下回る結果となった。『利用したことはないが、利用してみたい』という利用意向では、タクシー配車アプリ以外は10%を下回った。2023年に引き続き『サービス認知』が利用経験や利用意向に結び付いていないことがわかる」
ライドシェア・サービスは供給が足りないのか、利用意向が薄いのか。規制を巡って盛り上がりを見せる霞が関の議論の熱量とは食い違いを見せている。
「利用率」はサービス利用者の割合、「利用意向」は利用したことはないが今後、利用したい人の割合。利用者の年代の偏りが少ない「タクシー配車アプリ」は、利用率、利用意向ともに、他のサービスより高い傾向を示している。(出典=ММ総研)
ライドシェアについてレポートは、エリア別に利用率を比較した数字を上げて、次のように提言している。
「自家用乗用車の保有率と調査対象のモビリティサービス利用率には相関関係があると言える。地方部のの公共交通網が縮小して中でも人々の移動手段を確保していくためには、事業者自身の努力のみならず、国や自治体が主導し、多様なモビリティサービスを政策レベルで活用した交通の『リ・デザイン』が必要だ」
7つのモビリティ・サービスすべてで東京の利用率が高い。(出典=ММ総研)
クルマやバイクなどの移動手段の“所有”を離れて、利用者はどんなモビリティ・サービスを選択するのか。その模索が続く。
モビリティ・サービスの利用を主導するのは、20代、30代の男性。ただ、タクシー配車アプリだけは、全年齢、男女で利用される傾向がある。(出典=ММ総研)
調査概要
調査対象:東京都・愛知県・大阪府・京都府・福岡県に住む15~79 歳の男女4万5037人
調査方法:Webアンケート
調査期間:2024年6月7~11日
(2023年調査概要)
調査対象:東京都・大阪府・愛知県に住む15~79歳の男女1万7809人
調査方法:Webアンケート
調査期間:2023年6月9~12日
https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=585