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2024年7月11日【MaaS】

ライドシェアの認知度が、霞が関の議論ほど熱くならない現実

中島みなみ

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日本版ライドシェアのスタートで、このサービスを知る人は多くなった。ただ、認知度の向上に比例した利用意欲に至っていないというレポートが作成されている。クルマの保有率との相関関係も指摘され、規制緩和以外の展開の道筋が懸念される。( 中島みなみ / 中島南事務所 )

 

 

調査の半数以上が知っていたのは、2つのモビリティ・サービス

 

通信技術分野の市場調査コンサルティングを主力にする「ММ総研」( 関口和一所長 )が、ライドシェアなど「モビリティ・サービスに関する調査 」結果を発表した。この調査は2023年に次ぐ2回目の調査となる。今回は東京、大阪、愛知の在住者に加えて、京都府、福岡県に地域を拡大して、3万1734人を対象にウェブ形式で聞いた。

 

この調査の結果は、代表的な7つのサービスについて「知っているか?」の認知度が主軸になる。対象者の半数以上が知っていると回答したのは、2つのサービスだった( カッコ内は前年比 )。

 

・カーシェア 59.7%(+1.3%)
・タクシー配車アプリ 57.9%(+4.0%)

 

カーシェア最大手の「タイムズモビリティ」は会員数約272万人、車両数約4万8000台。会員数は今も増え続けている。レンタカー・サービスの一つとしてビジネス展開された後は、プラットフォーマーを介した個人間カーシェアが始まるなど、安定した移動インフラとして拡大している。また、タクシー配車アプリは、利用者が確実に配車を受けられるサービスとして使われて、都市部では無線配車に代わるサービスの主流になりつつある。

 

特にライドシェアの認知度は2023年が11.6%しかなかったが、1年で19.8ポイント上昇した。それでもモビリティ・サービスの中での認知度は低い。(出典=ММ総研)

 

 

ライドシェアの認知度急上昇 ただ、前年比で認知度が減少した新しいサービスも

 

認知度が50%に届かなかった5つのサービスは、前年比で認知度が向上したサービスと、下落したサービスに分かれる。

 

認知度が上がったのは、規制改革が実行されて話題のサービスとなっている。

 

・電動キックボードシェア 32.2%(+7.0%)
・ライドシェア 31.4%(+19.8%)

 

「電動キックボードシェア」は2023年7月に道交法改正で特定小型原付として位置づけられた。「ライドシェア」は2024年4月に国土交通省が規制緩和を実施し、日本版ライドシェアとしてスタートした。

 

しかし、ほかのモビリティ・サービスには目立った動きがなく、認知度が前年より下がった。

 

・シェアサイクル 42.3%(△7.3%)
・シェアパーキング 19.5%(△4.4%)
・MaaSサービス 4.6%(△0.9%)

 

自治体などと提携して事業を展開するシェアサイクル・サービスでは7月10日、業界大手のドコモ・バイクシェアと、ハローサイクリングを提供するソフトバンク子会社のOpen street( オープンストリート )が業務提携を発表。協業による利用相乗効果と維持コスト削減で、シェア奪還を図ろうとしている。

 

一方、認知度が上がっているモビリティ・サービスでも、利用率に焦点を当たると、厳しい結果が出ていて、レポートはこう指摘する。

「タクシー配車アプリ以外のサービスは、利用率が2023年と同様に10%を下回る結果となった。『利用したことはないが、利用してみたい』という利用意向では、タクシー配車アプリ以外は10%を下回った。2023年に引き続き『サービス認知』が利用経験や利用意向に結び付いていないことがわかる」

 

ライドシェア・サービスは供給が足りないのか、利用意向が薄いのか。規制を巡って盛り上がりを見せる霞が関の議論の熱量とは食い違いを見せている。

 

「利用率」はサービス利用者の割合、「利用意向」は利用したことはないが今後、利用したい人の割合。利用者の年代の偏りが少ない「タクシー配車アプリ」は、利用率、利用意向ともに、他のサービスより高い傾向を示している。(出典=ММ総研)

 

ライドシェアについてレポートは、エリア別に利用率を比較した数字を上げて、次のように提言している。

「自家用乗用車の保有率と調査対象のモビリティサービス利用率には相関関係があると言える。地方部のの公共交通網が縮小して中でも人々の移動手段を確保していくためには、事業者自身の努力のみならず、国や自治体が主導し、多様なモビリティサービスを政策レベルで活用した交通の『リ・デザイン』が必要だ」

 

7つのモビリティ・サービスすべてで東京の利用率が高い。(出典=ММ総研)

 

クルマやバイクなどの移動手段の“所有”を離れて、利用者はどんなモビリティ・サービスを選択するのか。その模索が続く。

 

モビリティ・サービスの利用を主導するのは、20代、30代の男性。ただ、タクシー配車アプリだけは、全年齢、男女で利用される傾向がある。(出典=ММ総研)

 

調査概要
調査対象:東京都・愛知県・大阪府・京都府・福岡県に住む15~79 歳の男女4万5037人
調査方法:Webアンケート
調査期間:2024年6月7~11日

 

(2023年調査概要)
調査対象:東京都・大阪府・愛知県に住む15~79歳の男女1万7809人
調査方法:Webアンケート
調査期間:2023年6月9~12日
https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=585

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。