パナソニックホールディングス傘下の事業会社、空質空調社は7月1日、事業戦略説明会を開催し、業務用空調ソリューションによる分散型エネルギー事業に本格参入すると発表した。この事業はコージェネレーションシステムなどの廃熱を有効活用したもので、カーボンニュートラル実現を目指す中小規模事業者や地方自治体に提案していく。
50年以上の歴史を持つ吸収式冷凍機
日本は石油、石炭、天然ガスなど一次エネルギーの約9割を輸入に依存しているが、一次エネルギーの約6割が電気エネルギーなどへの変換時に廃熱として失われると同時に、CO2と排出されているという。そこで、パナソニックはこの廃熱を有効活用した空調ソリューションを展開しようと考えたわけだ。
吸収式冷凍機「ナチュラルチラー」
しかもパナソニックには、そのための最適な製品を持っていた。それは吸収式冷凍機「ナチュラルチラー」で、1971年から販売をしており、国内トップシェアを誇っている。このナチュラルチラーは自然冷媒である水を使用したノンフロン空調システムで、主に天然ガスなどの燃料を熱源として稼働し、水が蒸発する際の気化熱を利用して冷房を行う。そのため、コンプレッサーが不要で、ピークカットによる電力需要平準化に大きく貢献できる機械だ。
さらに、工場廃熱などの蒸気や温水も利用可能で、発電機の廃熱(温水)を利用したコージェネレーションシステムも構築することができるそうだ。しかし、これまでは商品単体として販売するのがほとんどで、コージェネレーションシステムと組み合わせた空調ソリューションとして幅広く提案してこなかった。
「従来までのお客さまは、CO2削減やBCP(事業継続計画)に関心が高い大規模事業者が中心だった。しかし、最近は中小企業の人からカーボンニュートラルを進めたいけど、どうしらいいか分からないといった声を多く聞くようになった。そこで、CO2削減などに関心を持つ中規模の病院、工場、公共施設などに提案していこうと考えた」と空調冷熱ソリューションズ事業部業務用空調ビジネスユニット長の小松原宏氏は話す。
空調冷熱ソリューションズ事業部業務用空調ビジネスユニット長の小松原宏氏
この裏にはエレベーターに乗る小型のナチュラルチラーを開発できたことも大きかった。そうは言っても、導入コストは5000~6000万円ほどかかるので、今後、分割などクルマのように安く購入できるスキームを考えていくそうだ。
エネルギーコストを20%以上削減
小松原氏によると、分散型エネルギー事業の先行事例として導入している同社の大泉工場(群馬県邑楽郡)では、工場全体でCO2排出量を17%削減し、エネルギーコストを23%削減する効果が得られたという。また、130床ほどの中規模病院でも、CO2排出量を14%削減し、エネルギーコストを22%削減できた。
また、パナソニックでは、今回の分散型エネルギー事業の本格参入に当たり、廃熱やエンジニアリングなど外部のプロフェッショナルを集めた「分散型エネルギー事業推進室」を新設。業務用空調機器やクラウドの導入コンサルティングから、運用、アフターフォローまでを、エンジニアリング販売会社であるパナソニック産機システムズと連携して推進していく。現在、メンバーは9人だが、今後増やしていく予定だ。
廃熱利用の仕組み
さらに、22年12月からナチュラルチラー向けIoTサービス「パナソニック ヒーバック クラウド」を開始する。同サービスはナチュラルチラーの運転効率をリアルタイムで分析し、消費エネルギーの低減を実現するものだ。
具体的には、ナチュラルチラー内に搭載のセンサーから各社情報を収集し、運転効率を24時間365日分析、適正な運転効率からの低下を判定。効率が悪化している場合は原因をクラウド上の同サービスで特定し、早期のメンテナンスを行う。
また、部品単位の整備計画の作成を支援し、設備管理者の危機管理業務を効率化する。23年以降に予定しているアップデートでは、運転効率の悪化を検知し、使用状況に合わせて、吸収液の循環量などの機器設定をクラウド上で自動チューニングし、さらなる省エネ化を実現する計画だ。
今後はガス発電機メーカーやガス会社とも連携し、業務用空調事業の収益の柱に育てる方針で、まずは2030年度をメドに市場の50%のシェアである700億円の事業売上高を目指す。