現場マルチネットワークサービスのイメージ図
パナソニックとパナソニック システムソリューションズ ジャパンは2月17日、2021年4月1日に、新事業「現場マルチネットワークサービス」(注1)の提供を開始し、同時に全体のハブ機能を担うネットワークサービス事業センターを立ち上げることを発表した。
注1 商標出願中。
パナソニックでは、人やモノの動きをデジタルデータとしてとらえ、サイバー空間で分析し、そこから生まれた新たな価値で経営課題を解決する「現場プロセスイノベーション」を主力事業に掲げている。2020年7月にこれを実現するためのコア事業として、「現場センシングソリューション」を発表したが、今回ここに並ぶもう1つのコア事業として、この事業を発表した。
パナソニックは、過去70年間にわたり防災無線や様々な業界向け特化型無線分野において、端末からセンター設備までを結ぶシステムを提供してきた。無線のカバーエリアの現場調査・シミュレーションや免許申請など、無線を導入する過程において必要な工程や作業のノウハウがある。この無線特有の付帯業務を遂行できる知見と全国のサポート体制を活かし、これまでのように業界特化型のネットワークシステムを提供するのみではなく、業界横断的にサービスとして提供することとした。
具体的には、プライベートLTE(注2)やローカル5G(注3)など様々な活用が期待されているセキュアなローカルネットワークと、同社が保有するタブレット端末やネットワークカメラなどのつながるエッジデバイスと、画像センシングなどのソフトウェア(ソリューション)に、防災などの人の命にかかわるようなミッションクリティカルな現場で使われてきた無線インフラを支える知見、体制を組み合わせることで、より多くの業界の顧客に提供するというもの。そして、これらをサービスとして切り出すことにより、今後は様々な役割のパートナーでも利用できるビジネスモデルの構築を目指している。また同社には無いエッジデバイスやテクノロジーをもつパートナーとの共創も視野に入れている。
注2 プライベートLTEは、2.5 GHz帯を利用した免許を必要とする自営等BWAと1.9 GHz帯を利用した免許を必要としないsXGPの2種類がある。これらは、通信事業者が提供しているLTEと同じ品質のネットワークを、自敷地内に基局を設置することで限られた範囲内で使えるシステム。利用者が多く干渉の多いWi-Fiに比べ、免許制のLTEでは干渉なく高セキュリティの通信が実現できる。
注3 ローカル5Gとは、通信事業者ではない企業や自治体が、一部のエリアまたは建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する方法。運用するには無線局の免許を取得する必要があり、2019年に申請受付が開始している。独立したネットワークのため外部環境に左右されず、ネットワークの輻輳などが起きにくく、外部から切り離されたネットワークを希望する事業者にとってもセキュリティ面のメリットがある。
パナソニックのエッジデバイス・ソフトウェアに加え、多くの知見を持つ無線ネットワークシステムをサービスとして提供することにより、経営や社会の課題を根本的に解決する鍵である「現場プロセスの改革」を進め、現場と経営をつなげることで、「現場プロセスイノベーション」を実現する。本事業により2025年に累計1,000億円の販売目標を目指すとしている。
以下は、このサービスの構成要素。
1.無線ネットワーク
(1)ネットワークラインアップ
・プライベートLTE(自営等BWA(注4)/sXGP(注5))
既に実用化済みの自営等BWAに加え、2021年6月にsXGPを発売予定。
注4 LTE技術による2.5 GHz帯の周波数帯の電波を用いた企業が自らの建物や敷地内でスポット的にネットワークを構築し利用可能とした無線通信システム。地域BWAと自営BWAの2種類が存在し、今回紹介内容では主に自営BWAでの利用を示すもの。
注5 プライベートLTE sXGPは、自営PHSの後継機として規格されたLTEベースの通信システムで、免許不要の1.9 Ghz帯の周波数を利用するLTE方式に準拠している。2020年7月に音声サービスが終了した公衆PHSの周波数帯を活用して運用帯域の拡張が行われた。
・ローカル5G(Sub6・SA)
2022年4月発売予定。
なおローカル5Gについては、これまでの無線事業やコンシューマー向け携帯電話事業で培ったノウハウに基づき、ローカル用途に絞ったかたちでの構成としていく予定。認証・セキュリティ管理、セッション管理、ポリシー制御等の機能について、必要な機能、規模に絞った仕様とすることで、コアネットワーク装置と基地局の組み合わせで従来の5分の1以下の価格での提供を予定している。また、キャリア網との連携も可能とする中継用リンク装置5G-GateWayは実用化済み。
・Wi-Fi
IEEE802.11ac(注6)用アクセスポイントは実用化済み。Wi-Fi6は2021年10月発売予定。
注6 11nの10倍以上の高速通信が可能なWi-Fi(無線LAN)規格。2013年にWave1(第一世代)が登場し、2015年にさらに高速なWave2(第二世代)が登場した。
これらのネットワークが個々に機能を発揮するだけではなく、それぞれのネットワーク間を繋ぎデータのやり取りを可能とすることで、現場のニーズに合わせた最適なネットワークの提供を可能にする。
(2)ネットワークのマルチアクセス制御を実現
現状の顧客の現場では、既設のWi-Fi等と連携しつつ、LTE、5Gといった新たなネットワークを構築、導入したいという要望がある。同社は、このような複数のネットワークを統合的に管理・運用するマルチアクセス技術の開発に着手した。
その第一段階として、複数のPLMN-ID(携帯電話の国際的な識別番号)を認証するLTEコアを2021年6月より販売を開始する。共通のLTEコアで自営等BWAとsXGP、それぞれのシステムのSIM(注7)を認証することができるため、これらのネットワークの統合的な管理が可能となる。これにより、例えば屋外などの広域エリア(自営等BWA)から、屋内エリア(sXGP)においてシームレスな移動が可能になる。
第二段階として、このLTEコアの開発のノウハウを活かし、2022年4月発売予定のローカル5Gにおいては、LTE・5Gに加え、SIMを搭載しないネットワーク機器(Wi-Fi等)も統合的に認証することが可能な5Gコアを導入する。5Gコアで様々なネットワークの制御を一元管理することで、複数のネットワークを統合的に運用しつつ、通信方式が異なる端末ごとのQoS(注8)制御も可能となる。またネットワークの管理も一元化できるので、運用・管理コストを低減することも可能となる。
注7 加入者を特定するためのID番号が記録されたICカード。特定の通信事業者が発行したSIM以外を受け付けないように端末側にプログラムを仕込む。
注8 QoS(Quality of Service)はネットワーク上で提供するサービス品質。ネットワークの機器にQoSを実装することで、特定の通信を優先して伝送させたり、帯域幅を確保することができる。
(3)独自の画像伝送技術
パナソニックには、ビデオカメラなど映像機器で長年培った画像圧縮など関連要素技術を多数保有している。この技術に加え、HDコムなどのテレビ会議システムで培った画像伝送技術を活用し、変動が大きい無線回線でも、低遅延、滑らかな画像を伝送する技術を導入する。
5Gのような超大容量帯域にも追従可能な無線回線の帯域推定技術で、画像の圧縮率を無線回線の変動に合わせて調整することで、違和感のない滑らかな映像を実現する。
(4)電波伝搬シミュレーション技術
防災無線や業界向け無線分野に加えて、通信キャリアの伝搬シミュレーションにも対応してきた経緯から、精度の高い電波伝搬シミュレーションの実施が可能。加えて、顧客の環境にて電波伝搬測定、周囲との干渉調査など、システムを導入する際に必要な専門知識の伴う作業支援が可能。
2.ソフトウェア・アプリケーション
現場センシングソリューションのような画像認識やタブレット端末のアプリケーションなど、パナソニックの様々なソフトウェア・アプリケーションを提供し、現場の課題解決をサポートする。例えば、物流現場で荷分け作業の効率を上げたい場合に、カメラを通じて作業者の移動距離をセンシングしたり、仕分けする荷物側にプロジェクターで種別を投影するなど、現場に応じた様々なソリューションを提供している。今後はローカル5Gを活かした多数のカメラセンシングや機器の遠隔操作など、様々な現場の課題解決に資するソフトウェア・アプリケーションの創出を目指す。
3.エッジデバイス
パナソニックでは、数多くのエッジデバイスを自社開発している。将来5Gとの接続機能を搭載していく予定のエッジデバイス(タブレット端末・ウェアラブルカメラなど)や、ゲートウェイ機器をつないで5Gにつながるエッジデバイス(セキュリティカメラなど)に加え、自社に限らず様々なエッジデバイス(AGV・業務用ロボットなど)も通じてデータを取得するなどの顧客のニーズに対応していく。
4.サポート体制
パナソニックには、全国約70拠点に総勢1,100人の運用、保守を行うフィールドサポート体制を擁している。またこのサービスを立ち上げにあたり、提案力強化のためのネットワークコンサルタントの増強と、導入・運用におけるサポートメニューも充実させていく。
また、リモートサポートとして、ネットワークオペレーションセンターも2020年10月に開設し、24時間365日顧客のネットワークを遠隔で監視する体制を構築している。そこでは、SIMカード発行/貸与から、システムアップデート、システム拡張/追加、ヘルプデスク等々の体制を整えている。
【現場マルチネットワークサービス料金について】
・機器費用:ネットワーク構成・基地局数等の詳細については個別見積を行う。
・サポート費用:
(1)導入・構築サポート…個別見積
(2)運用サポート…月額12万円より
【本サービスの提供開始時期】
2021年4月1日
4月1日サービス開始時点の提供可能機器は、プライベートLTE(自営BWA)とWi-Fi。プライベートLTE(sXGP)は21年6月、ローカル5Gは22年4月を発売予定としている。
【サービスロードマップ】
・2021年度は、プライベートLTE、及びWi-Fiでの提供を開始する。
・ローカル5Gは、2022年度発売に向けコンサルティングを開始する。
【今後の展開】
■ローカル5Gラボ(仮称)
2021年1月13日にSAシステムの実験試験局免許を取得済みで、2021年春頃よりローカル5Gを体感できるフィールドとして公開予定。
– 「現場マルチネットワークサービス」のウェブサイト