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2023年11月17日【トピックス】

パナソニック自動車部品子会社の蹉跌、米ファンドに売却へ

山田清志

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総合電機メーカーにとって、自動車機器事業は鬼門だったようだ。日立製作所、三菱電機に続いてパナソニックホールディングス(HD)も見直すことになった。同社は11月17日、自動車部品を手がける子会社「パナソニックオートモーティブシステムズ(PAS)」の株式の一部を米投資ファンド「アポロ・グローバル・マネジメント」のグループ会社に売却することで基本合意したと発表した。これによって、PASはパナソニックHDの完全子会社から持分法適用会社となる。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

低利益率に喘いでいたオートモーティブ事業

 

「やはりパナソニックもそうなったか」というのが業界関係者の多くの思いだろう。電機業界では、日立製作所が2023年9月に傘下の自動車部品子会社「日立アステモ」の株式を66.6%から40%に引き下げてホンダと同等にし、子会社から持分法適用会社へと関与を薄めている。また、三菱電機も不振の自動車機器事業を本体から引き離して分社化、現在、売却を視野に検討を進めている。それだけに、「次はどこか。パナソニックではないか」などとの声も上がっていた。

 

なにしろ、パナソニックのオートモーティブ事業はここ数年低迷を続けているからだ。2022年度の業績を見ても、同事業の売上高が1兆2975億円なのに対し、調整後営業利益が142億円、利益率がたったの1%なのだ。前年の21年度はさらに悪く、売上高1兆671億円に対し、調整後営業利益は23億円、利益率は0.2%だった。23年度上期は売上高が7082億円で、調整後営業利益が143億円と徐々に良くなっているが、利益率は2.0%でともて満足できるレベルではない。

 

パナソニックHDの楠見雄規社長兼グループCEO

 

楠見雄規社長兼グループCEOは21年5月のCEO就任後の記者会見で、オートモーティブ事業について次のように話していた。

 

「規模が大きいが、収益に苦労している事業については、きめ細かく見ると改善の余地はまだある。直近まで私が担当していたオートモーティブ事業が、昨年度にようやく黒字化したのはその証左である。オートモーティブ社で3年間、トヨタ自動車と仕事を一緒にしてきて、日々改善することが現場まで浸透しており、この状況そのものが戦略になっていることが理解できた。パナソニックもそれを見習っていかなくてはならない。それが経営理念の実践につながり、収益の向上につながる」

 

しかし、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱や半導体不足に伴う自動車生産台数減少なども影響して、思うようにいかなかった。それにしても、パナソニックの自動車機器事業がなぜ低迷することになってしまったのか。それは、津賀一宏前社長時代に行った過剰な投資や受注が影響している。

 

高成長事業から再挑戦事業へ格下げ

 

津賀前社長は2012年のトップ就任後、自動車機器事業を「高成長事業」として位置づけ、車載機器だけで売上高2兆円という高い目標を掲げた。カーナビなどの車載用メディア機器からコックピットシステムまで領域を広げ、自動車部品メーカーの世界トップ10入りを目指した。文字通り、身の丈を超えた戦略を取ってしまったのだ。

 

案の定、現場は混乱。売り上げ目標のプレッシャーに押されて、ひたすら量の拡大することだけを考えるようになった。とりあえず商品を拡大して顧客層を広げようとした。その結果、収益的に儲からない受注まで取ってしまったそうだ。そのうえ、顧客からの要望が増えて、パナソニック側で開発費が膨らむ状況も起こり、欧州では開発資産の減損も出す羽目になってしまった。

 

2019年には自動車機器事業は「再挑戦事業」に格下げされ、その事業の立て直しを任されたのが現社長の楠見CEOだった。何とか赤字からの脱却を果たしたものの、低収益の体質は変わらず、社内では「事業が売却されるのではないか」という声も出ていた。

 

というのも、23年5月のグループ戦略説明会で、楠見社長は「23年度から成長フェーズに向けて事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進める」と述べ、競争力のない事業や低収益の事業について売却の可能性を示唆していたからだ。

 

パナソニックが手がける自動車部品

 

社名やブランドはそのまま継続の方針

 

その言葉通り、PASの株式の50~80%をアポロ・グローバル・マネジメントのグループ会社に売却することになったわけだ。自動車業界は現在、自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる技術への対応など大変革期にある。その中で技術力や競争力を高め、長期的な成長を図っていくためには、継続的に多額な研究開発投資が必要となる。

 

パナソニックHDはPASが単独でその投資資金を用意したり、パナソニックHDが提供することは難しいと考え、投資ファンドの力を借りることにした。なにしろパナソニックHDは車載電池事業を重点投資分野と位置づけ、2030年までに現在の約4倍となる200GWhの生産能力を目指している。そのためには膨大な投資資金が必要なのだ。とてもPASに回している余裕はなかった。

 

パナソニックHDによると、今後も経営理念を中心として価値観を共有するパナソニックグループの一員としてPASを支援し、互いの企業価値最大化に向けて他のグループ各社とともに連携を図っていくとしている。社名やブランドについてもそのままにする方針だ。

 

そして、将来の株式上場を視野に、急速な進化を遂げる車載コックピットシステム領域を中心に業界トップクラスの競争力と経営体質を備えたリーディングプロバイダーとして、より一層の成長と発展を目指していくという。他社と連携しながら事業を進めていく、これが総合電機メーカーの自動車機器事業の生き残る道なのかもしれない。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。