総合電機メーカーにとって、自動車機器事業は鬼門だったようだ。日立製作所、三菱電機に続いてパナソニックホールディングス(HD)も見直すことになった。同社は11月17日、自動車部品を手がける子会社「パナソニックオートモーティブシステムズ(PAS)」の株式の一部を米投資ファンド「アポロ・グローバル・マネジメント」のグループ会社に売却することで基本合意したと発表した。これによって、PASはパナソニックHDの完全子会社から持分法適用会社となる。(経済ジャーナリスト・山田清志)
低利益率に喘いでいたオートモーティブ事業
「やはりパナソニックもそうなったか」というのが業界関係者の多くの思いだろう。電機業界では、日立製作所が2023年9月に傘下の自動車部品子会社「日立アステモ」の株式を66.6%から40%に引き下げてホンダと同等にし、子会社から持分法適用会社へと関与を薄めている。また、三菱電機も不振の自動車機器事業を本体から引き離して分社化、現在、売却を視野に検討を進めている。それだけに、「次はどこか。パナソニックではないか」などとの声も上がっていた。
なにしろ、パナソニックのオートモーティブ事業はここ数年低迷を続けているからだ。2022年度の業績を見ても、同事業の売上高が1兆2975億円なのに対し、調整後営業利益が142億円、利益率がたったの1%なのだ。前年の21年度はさらに悪く、売上高1兆671億円に対し、調整後営業利益は23億円、利益率は0.2%だった。23年度上期は売上高が7082億円で、調整後営業利益が143億円と徐々に良くなっているが、利益率は2.0%でともて満足できるレベルではない。
パナソニックHDの楠見雄規社長兼グループCEO
楠見雄規社長兼グループCEOは21年5月のCEO就任後の記者会見で、オートモーティブ事業について次のように話していた。
「規模が大きいが、収益に苦労している事業については、きめ細かく見ると改善の余地はまだある。直近まで私が担当していたオートモーティブ事業が、昨年度にようやく黒字化したのはその証左である。オートモーティブ社で3年間、トヨタ自動車と仕事を一緒にしてきて、日々改善することが現場まで浸透しており、この状況そのものが戦略になっていることが理解できた。パナソニックもそれを見習っていかなくてはならない。それが経営理念の実践につながり、収益の向上につながる」
しかし、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱や半導体不足に伴う自動車生産台数減少なども影響して、思うようにいかなかった。それにしても、パナソニックの自動車機器事業がなぜ低迷することになってしまったのか。それは、津賀一宏前社長時代に行った過剰な投資や受注が影響している。
高成長事業から再挑戦事業へ格下げ
津賀前社長は2012年のトップ就任後、自動車機器事業を「高成長事業」として位置づけ、車載機器だけで売上高2兆円という高い目標を掲げた。カーナビなどの車載用メディア機器からコックピットシステムまで領域を広げ、自動車部品メーカーの世界トップ10入りを目指した。文字通り、身の丈を超えた戦略を取ってしまったのだ。
案の定、現場は混乱。売り上げ目標のプレッシャーに押されて、ひたすら量の拡大することだけを考えるようになった。とりあえず商品を拡大して顧客層を広げようとした。その結果、収益的に儲からない受注まで取ってしまったそうだ。そのうえ、顧客からの要望が増えて、パナソニック側で開発費が膨らむ状況も起こり、欧州では開発資産の減損も出す羽目になってしまった。
2019年には自動車機器事業は「再挑戦事業」に格下げされ、その事業の立て直しを任されたのが現社長の楠見CEOだった。何とか赤字からの脱却を果たしたものの、低収益の体質は変わらず、社内では「事業が売却されるのではないか」という声も出ていた。
というのも、23年5月のグループ戦略説明会で、楠見社長は「23年度から成長フェーズに向けて事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進める」と述べ、競争力のない事業や低収益の事業について売却の可能性を示唆していたからだ。
パナソニックが手がける自動車部品
社名やブランドはそのまま継続の方針
その言葉通り、PASの株式の50~80%をアポロ・グローバル・マネジメントのグループ会社に売却することになったわけだ。自動車業界は現在、自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる技術への対応など大変革期にある。その中で技術力や競争力を高め、長期的な成長を図っていくためには、継続的に多額な研究開発投資が必要となる。
パナソニックHDはPASが単独でその投資資金を用意したり、パナソニックHDが提供することは難しいと考え、投資ファンドの力を借りることにした。なにしろパナソニックHDは車載電池事業を重点投資分野と位置づけ、2030年までに現在の約4倍となる200GWhの生産能力を目指している。そのためには膨大な投資資金が必要なのだ。とてもPASに回している余裕はなかった。
パナソニックHDによると、今後も経営理念を中心として価値観を共有するパナソニックグループの一員としてPASを支援し、互いの企業価値最大化に向けて他のグループ各社とともに連携を図っていくとしている。社名やブランドについてもそのままにする方針だ。
そして、将来の株式上場を視野に、急速な進化を遂げる車載コックピットシステム領域を中心に業界トップクラスの競争力と経営体質を備えたリーディングプロバイダーとして、より一層の成長と発展を目指していくという。他社と連携しながら事業を進めていく、これが総合電機メーカーの自動車機器事業の生き残る道なのかもしれない。