NEXT MOBILITY

MENU

2022年12月1日【エネルギー】

パナソニックとヤンマーが分散型エネルギー事業で協業

山田清志

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

集合写真は左から、パナソニック空質空調社空質冷熱ソリューションズ事業部の小松原宏ビジネスユニット長、パナソニック空質空調社の道浦正治社長、ヤンマーホールディングスの山本哲也COO、ヤンマーエネルギーシステムの山下宏治社長

 

パナソニックとヤンマーホールディングスは12月1日、共同記者会見を行い、分散型エネルギー事業の開発・販売で協業すると発表した。分散型エネルギーシステムは、発電所から需要地まで電力を供給する代わりに、電気が使用されている場所の近くで発電し、送電ロスなどの廃熱を抑えて電力を供給するシステムだ。
今回の協業では、ヤンマーエネルギーシステム(ヤンマーES)の「マイクロコージェネレーションシステム」で発電する際に発生する廃熱を、パナソニックの業務用空調機「吸収式冷凍機」で空調に活用する。両社は2023年1月から中規模の事業所や工場向けに提案を開始し、10年間で累計1200億円の売り上げを目指す。( 経済ジャーナリスト 山田清志 )

 

互いの強みを活かせ、環境に対する思いが一致

 

「環境負荷を低減する空調システムの一つが吸収式冷凍機だ。水を冷媒として冷房運転を行い、温室効果ガスの排出はゼロ。普及拡大のカギとなるのがコージェネとの連携で、コージェネで発電した廃熱を吸収式冷凍機で無駄なく使うことができたら、エネルギー効率の向上というお客様の価値にも直結していく。そのためにはコージェネメーカーとの協業が不可欠で、検討の結果、最適なパートナーがヤンマーと考えた」とパナソニック空質空調社の道浦正治社長は説明する。

 

パナソニック空質空調社の道浦正治社長

 

一方、ヤンマーホールディングスの山本哲也COOも「コージェネレーションシステムでお客様の価値を向上するには、廃熱を使い切るということが課題だった。今回、パナソニックの強みである吸収式冷凍機との連携はその最適解と確信している。当社の強みであるエネルギーをつくるところから、パナソニックの強みである無駄なく使うところまで、お客様にとって最適なトータルエネルギーソリューションを両社で提案する体制が整うことによって、社会全体のカーボンニュートラル社会が実現に向けて一歩進むことになる」と話す。

 

ヤンマーホールディングスの山本哲也COO

 

今回の協業は両社が事業を通してお客の幸せ、社会の発展に寄与するという経営理念を掲げ、環境に対する思いが一致していたことも大きかった。両社は本社を同じ大阪に構え、管理部門の交流はあるが、事業での協業は今回が初めてだという。

 

パナソニックは、「より良いくらし」と「持続的な地球環境」の両立に向け、長期環境ビジョン「パナソニック グリーン インパクト」を2021年に発表。30年までに自社の事業に伴うCO2排出量を実質ゼロ、また50年に向けては、現時点の全世界の排出総量約330億トンの約1%にあたる3億トン以上の削減貢献インパクトを目指すとした。

 

ヤンマーグループは、2050年までに循環する資源を基にした環境負荷フリー・GHGフリー企業を目指す「ヤンマー グリーン チャレンジ2050」を22年6月に発表した。50年までに、企業活動、サプライチェーン、製品使用時のGHG排出量を実質ゼロ、製品リサイクル率100%、廃棄物削減や環境負荷物質の使用と削減、さらにはお客のGHG排出ネガティブ・資源循環化への貢献を目指す新ビジネスの立ち上げなどに取り組んでいる。

 

エネルギーコストの37%削減が可能

 

パナソニックは吸収式冷凍機を50年にわたり販売し、高効率化・省エネルー化と、コンパクト化を積み重ね、国内シェアトップクラスを誇っている。工場などで出る廃熱を有効利用できるだけでなく、水を冷媒とするためフロンなどの温室効果ガスの漏洩課題がなく、地球温暖化への影響が少ない空調機である。ただ、これまで販売は大規模事業者が中心で、中規模事業者にはあまり浸透していなかった。

 

 

また、ヤンマーESは長年培ってきたエンジン技術を強みとしてマイクロコージェネレーションシステムを25年にわたり販売し、低コスト・省スペース化、遠隔監視ステムによるアフターサービス体制で国内シェアトップクラスを誇る。しかも、中規模事業者への納入実績が豊富で、これまでに1万台の販売実績がある。

 

吸収式冷凍機とマイクロコージェネレーションシステムを連携したうえで、機器の台数制御やスケジュール管理、廃熱の配分などを最適にコントロールすることで、廃熱を最大限有効活用し、より一層の省エネ化が可能だという。例えば、100床程度の病院に導入した場合、CO2排出量を29%、エネルギーコストを37%減らせると試算する。

 

さらに、連携に必要な専用コントローラー(CGSコントローラー)を、両社の機器仕様に最適になるように共同開発する。これによって、従来必要だった導入案件ごとコントローラーの設計が不要になり、導入の手間が削減される。まずはこの12月からコントローラー実証実験をパナソニックの大泉工場(群馬県)を行い、23年4月に受注を開始して7月から出荷する予定だ。

 

 

11月に開催された「脱炭素経営EXPO関西」で今回のシステムを紹介したところ、病院や工場関係者らの関心を呼び、具体的な問い合わせが400件以上もあったそうだ。導入コストについては、それぞれの案件によって違うので、明らかにしなかったが、5~7年で回収できるそうだ。両社では、中規模事業者が導入しやすいように、リースやサブスクリプションなども検討している。まずは国内でビジネスモデルをつくり、その後海外での展開も考えている。

 

 

集合写真は
左からパナソニック空質空調社空質冷熱ソリューションズ事業部の小松原宏ビジネスユニット長、パナソニック空質空調社の道浦正治社長、ヤンマーホールディングスの山本哲也COO、ヤンマーエネルギーシステムの山下宏治社長

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。