指ダミーで裂傷が発生した様子
パナソニックは10月15日、トヨタ自動車と共同で、人と機械が安心・安全に共存・協働していくための指部の安全性評価技術を開発し、合わせて指ダミーを製品化し、販売すると発表した。価格は6万6000円で、シリコン化工品などを手がけるタナック(本社・岐阜県各務原市)が製造・販売する。(経済ジャーナリスト・山田清志)
トヨタがパナソニックに持ちかけて実現
産業界では、少子高齢化に伴う労働力不足などを背景に、ロボットの活用が広がっている。なかでも生産性向上が期待される、人と同じ空間で作業を行う協働ロボットの活用は、グローバルに拡大が見込まれている。その一方、協働ロボットを活用するモノづくりの現場では、安心・安全の担保が最大の課題となっている。
パナソニック プロダクト解析センタの渡邊竜司部長
「これからさらに人とロボットが接触する可能性が高くなり、危害をできるだけ低くする設計が求められる。しかし、低レベルの危害、すなわち『無傷』と『軽微』、『軽微』と『中程度』の危害を区別する評価技術は世の中にほとんどなかった。そこでわれわれは低レベルの危害を評価できる技術開発に取り組んだ」とパナソニックプロダクト解析センター安全・EMCソリューション部の渡邊竜司部長は説明する。
そこで、2016年から共存・協働領域でのロボット分野を対象に、人のケガをしないレベルである痛みを指標とした評価技術、裂傷や内出血などの軽度障害を評価する技術、さらにこれらをバーチャル上で評価できるシミュレーターの開発を始めた。特にニーズの高かった指部に注目し、裂傷を指標とした指ダミーの開発に取り組んだ。頭や足はヘルメットや安全靴などでケガを防げるが、指はケガを負いやすかったのだ。
トヨタ自動車モノづくり開発センター開発試作部の吹田和嗣グループ長
そんななか、トヨタがパナソニック内部で家電機器や住宅設備などの評価に使われていた指ダミーを見て、共同開発を持ちかけた。「自動車部品の特徴として、固いものや尖ったものが多い。ロボットとの挟まれ、ワークや治具との挟まれ、ツールとの挟まれなどが想定されていた。こうしたリスクに対する安全確保とその確認が重要だが、その安全評価手段がなくて今までの困りごとになっていた。そこで、パナソニックと安全性評価と確認方法の開発を進めることになった」とトヨタ自動車モノづくり開発センター開発試作部の吹田和嗣グループ長は話す。
指部以外の部位についても開発か
パナソニックがダミーの構想や豚皮膚での検証実験など指ダミーの技術開発を行い、トヨタが生産現場において開発した指ダミーの実証評価を行った。その評価がうまくいったことから、今回の製造・販売に踏み切ったわけだ。
指ダミーは、人体の骨にあたる芯棒部に、皮膚にあたる軟材料(指ダミー部)を被せた構成で、皮膚に見立てた軟材料は、実際の人体と同程度と推定される裂傷強度を有した独自開発の材料が使われている。軟材料を被せた部分を機械などに挟み込ませ、その際に軟材料が受けるダメージの程度から傷害を可視化し、指部の軽度な傷害の予測とその評価ができるという。
指ダミーの構成
しかも、軟材料を交換することで、繰り返し利用することができる。ちなみにその軟材料は3個で4万9500円だ。「ニーズがあれば、指部以外の部位についても考えていきたい」と渡邊部長は話し、人と機械が安心・安全に共存・協働できる社会の実現に貢献する取り組みをさらに進めていくことを強調していた。