フォルクスワーゲンAGの監査役会は7月22日(CET・中央欧州時)、フォルクスワーゲン・グループ取締役会の新会長としてオリバー・ブルーメ氏(現ポルシェAGのCEO・会長/54歳)を任命した。(坂上 賢治)
ブルーメ氏は、来たる2022年9月1日付けでフォルクスワーゲン・グループの新会長としての地位を現ヘルベルト・ディース会長(63歳)から引き継ぐ。
またブルーメ氏は、フォルクスワーゲン・グループのトップに就任した後も、ポルシェAGのCEO・会長職を継続し、ポルシェ株式のIPO(新規公開株)実施の可能性を探っていく。
なお昨年4月にフランク・ヴィッターの後任としてフォルクスワーゲンのCFO(最高財務責任者)となったアルノ・アントリッツ氏が、グループ取締役会のCOOとしての役割を担う事も併せて発表されている。
独ニーダーザクセン州の都市ブラウンシュヴァイク生まれのブルーメ氏は、1994年にフォルクスワーゲン・グループに入社。
以来、アウディ、セアト、フォルクスワーゲンなどで管理職を歴任後、ポルシェAGの生産・ロジスティクス担当する取締役として活躍。2015からポルシェAGの取締役会会長を務め、2018年からグループ取締役会のメンバーを務めてきた。
こうしたキャリアを踏まえてハンス・ディーター・ペッチ監査役会・議長は、「ブルーメ氏は、グループ内の複数のブランドで活躍。ポルシェAGでは、財務、技術、文化の観点から7年連続で大きな成功を収めています。
そうした実績は監査役会からみて、我々のグループを率い、顧客重視のブランド戦略を更に強化する指針造りに於いて最も相応しい人物です」と評している。
これを受けて新会長となるブルーメ氏は、「ポルシェとフォルクスワーゲングループの両方を率いる光栄に浴し心から感謝致します。私は常に〝人〟を重視してきました。チームスピリット、公平性、情熱は成功には不可欠であり、これはブランドだけでなく、グループ全体にも当てはまります。
特にポルシェに関しては、長期に亘って会社を率いていく中、常に私にチャンスと期待を与えてくれました。今後はIPOの可能性もあります。そうしたなか私達は、ポルシェを技術的、財政的、そして文化的に成功させてきました。そして現在、我々グループは持続可能なモビリティ経済圏のリーダーになり得る存在であると確信しています」と語っている。
一方、2015年からフォルクスワーゲン・グループを率いてきたヘルベルト・ディース氏は、会社側並びに本人相互の合意により取締役会会長を退任すると発表されている。
ちなみにディース氏は昨年2021年に任期が更新されたばかり。2025年10月までCEOを務める予定だったのだが、今回、株主や従業員代表で構成される監査役会に於いて全会一致でトップ交代が決まった模様。
ここに至った発端は、ディース氏が2020年にコスト削減計画の規模や経営スピードの加速化を巡る人員削減策構想を発案・推進を目指した事に伴い、グループ内の労組幹部や管理職らとの間で緊張が高まった事にある。
この結果、VWブランドに関する責務を、新たに役員会に加わったブランドシュテッター氏に譲ったという経緯がある。
しかしディース氏は、その後の2021年9月にも更なる大規模な人員削減の可能性に言及を続けた。これによってグループ全体の5カ年投資計画の策定が難航した流れを踏まえ、今日に至るまで権限を縮小した形でCEOに留まっていた。
そんなディース氏は、独自動車部品大手ボッシュやBMWなどを経て(BMW時代には、BMW Z4+トヨタ・スープラの共同開発にも取り組んだ)、2018年にVWのCEOに就任した。
以来、電気自動車(EV)の開発に力を注ぎ、グループが販売する車種の電動化を推し進めた。例えば退任発表の数日前にあたる7月12日には、米統括会社のフォルクスワーゲングループオブアメリカ(VWGoA)が、電池のリサイクルを手掛けるレッドウッド・マテリアルズと協力。リチウムイオン2次電池リサイクルのサプライチェーン構築を進める計画を発表したばかりだった(従って、今回の退任決定は米国から独本国へ帰国直近の事であった事が判る)。
先の監督委員会のハンス・ディーター・ペッチ議長はディース氏に対して、「フォルクスワーゲン乗用車ブランドの取締役会会長及びグループ取締役会会長としての在任中、ディース氏はグループの変革を進める上で重要な役割を果たしました。
ディース氏は、広範囲な変革プロセスを実行するスピードと一貫性を我々に示してくれただけでなく、監査役会の観点からも多くの革新的な製品のアイデアを考案し、製品ポートフォリオを再設計し、電気自動車への明確な焦点を確立しました。
直近に於いてもバッテリーセルやモビリティサービスで画期的なエコシステムが始まっています」と取締役会全体を代表しての謝辞を述べている。