日産自動車は9月3日、電動車用(EV)のモーター磁石からレアアース化合物を高純度で効率良く回収するリサイクル技術を、早稲田大学と共同開発し、2020年代中頃の実用化を目指した実証実験を開始したと発表した。
現在、自動車業界では、グローバルな気候変動に対応し、カーボンニュートラル社会を実現するため、車両の電動化が積極的に推進されている。
これら電動車のモーターの多くに使用されるネオジム磁石には、ネオジム、ジスプロシウムなどのレアアースと呼ばれる希少元素が使用されるが、これらレアアースは資源の偏在や需給バランスによる価格変動が懸念される上、採掘・製錬時に生態系への負荷も伴うことから、その使用量削減が課題となっている。
日産は限りある貴重な資源を有効に使用するため、2010年以降、設計段階でモーター用磁石のヘビーレアアース(重希土類)の使用量削減(*1)や、その再生利用にも取り組んでおり、出荷基準を満たさず、クルマに搭載されなかったモーターから磁石を取り出して分解し、磁石サプライヤーに還元してきた。
しかし、現在、モーターの磁石からレアアースを取り出す工程では、手作業による磁石の分解、取り出しが必要であるため、今後さらなるリサイクルを推進するには、プロセスの簡便化とリサイクルコストの低減が課題となっていたと云う。
そこで2017年より、日産は、非鉄金属のリサイクルと製錬に関する研究で高い実績のある早稲田大学創造理工学部の山口勉功研究室(*2)と共同で、同校の大型炉設備(*3)を使用し、電動車用のモーターの磁石からレアアース化合物を回収する研究を開始。2019年度には、高温で融体を取り扱う「乾式製錬法」により、モーターを解体することなく、高純度なレアアース化合物を効率よく回収する技術を確立した。
<リサイクル技術のプロセス>
①加熱溶融を促進する銑鉄 (せんてつ)、鉄の融点を下げる加炭材を加え、1,400℃以上に加熱した炉でモーターを溶融。
②酸化鉄の添加により溶融液中のレアアースを酸化。
③レアアース酸化物を溶かすため、ホウ酸塩系のフラックス(*4)を少量添加。
④「レアアースを含んだ酸化物層」と、より密度が大きい「レアアースを含まない鉄-炭素合金層」を分離。
⑤上層に分離された酸化物層から、レアアース化合物を回収。
このリサイクル技術では、レアアース酸化物を少量、低温で溶融することができ、高い割合で回収できる安価なホウ酸塩系のフラックスを採用。実験では、この方法によりモーターに使用されたレアアースの98%を回収できることを確認した。また、磁力を取り除く作業や、磁石を分解して取り出す作業が不要となるため、プロセスの簡略化が可能、従来と比べて作業時間を約50%削減することができると云う。
日産と早稲田大学は、今後、実用化を目指す実験を続けると同時に、使用済み電動車に搭載されたモーターを回収し、リサイクルするスキームの構築を進めてくとしている。
また、ニッサン・グリーンプログラム2022において、「気候変動」「資源依存」「大気品質」「水資源」4つの重点課題に取り組む日産は、今後もカーボンニュートラルや新規採掘資源依存ゼロを目指し、電動車両の普及と同時に、レアアースの使用量削減とリサイクルを推進。持続可能な社会の発展を目指す一員として、「よりクリーンな社会」、「より安全な社会」、「よりインクルーシブな社会」の実現を目指していくとしている。
*1:2020年度に生産されたノートは、2010年度生産されたリーフと比較して85%のヘビーレアアースの削減を実現。
*2:山口勉功(やまぐちかつのり)教授(創造理工学部 環境資源工学科)は、高温プロセスを用いた新しい金属製錬、金属スクラップの精製、廃棄物処理など社会と産業に直結した研究を行っている。レアメタルとベースメタルがその対象となる。山口研究室では、今回の実証結果を踏まえ、今後も日産と継続して連携・研究を行い、EVやHEVなどの電動車モーターからのレアアースをリサイクルするプロセスを広く普及できるよう研究・開発を進めていく予定。
*3:各務記念材料技術研究所<https://www.waseda.jp/fsci/zaiken/>
*4)フラックス:融解温度を下げる働きをもつ物質。