物質・材料研究機構(NIMS)は、リチウム空気電池の充電電圧が、放電時に生成される過酸化リチウム(Li2O2)の「結晶性」に強く依存し、過酸化リチウムの結晶性が高いほど充電電圧も高くなることを、初めて明らかにした。
リチウム空気電池の実用化を阻む大きな課題となっている充電電圧の上昇に関する今回の成果は、この課題解決のための重要な指針になると云う。
金属リチウムを負極に、正極に空気中の酸素を用いて、その化学反応によるエネルギーを取り出すリチウム空気電池は、リチウムイオン二次電池の5倍以上と、圧倒的に大きな理論エネルギー密度を有する充放電可能な電池で、ドローンやIoT機器、さらには電気自動車や家庭用蓄電システムなど、様々な機器への応用が期待されている。
しかし、充電電圧(過電圧)の上昇により副反応が誘発されてサイクル寿命が劣化するという大きな課題を抱えており、その原因についても、解明されていなかった。
今回、研究チームは、放電生成物である過酸化リチウム(Li2O2)の結晶性に着目し、結晶構造の乱れが大きい(結晶性が低い)方がより低い電圧で充電(分解)できるということを初めて明らかにした。
従来、過酸化リチウムの生成(放電反応)には、①カーボン電極上での反応と、②電解液を介した反応(不均化反応)の2種類の経路があることが知られているが、今回の研究によって、①によるLi2O2は3.5 V以下で充電(分解)できるのに対し、②の場合は4 V以上の電圧が必要であること、さらには①で生成されたLi2O2の方が、結晶性が低いことが判明。この結果は、充電電圧の上昇が反応経路②による高結晶性のLi2O2に由来しており、その生成を抑えることで充電電圧を下げることが出来ることを示していると云う。
今後、研究チームは、この成果をもとに、低結晶性の過酸化リチウム(Li2O2)を優先的に生成する手段を確立することで、リチウム空気電池のサイクル寿命の大幅増加を図り、NIMS-SoftBank先端技術開発センターにおけるリチウム空気電池の実用化研究の加速につなげていく。
< リチウム空気電池の放電過程 (Li2O2生成) の模式図>
なお研究は、主にJST戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)の一環として、NIMSエネルギー・環境材料研究拠点Arghya DUTTA (オルコ・ドット) ポスドク研究員、NIMS-SoftBank先端技術開発センター久保佳実アドバイザー(ALCA-SPRING次々世代電池チーム 金属-空気電池サブチームリーダー (2020年3月まで)) 、野村晃敬主任研究員、先端材料解析研究拠点伊藤仁彦主幹研究員らの研究チームによって行われた。
また研究成果は、中央ヨーロッパ時間の8月11日に、Advanced Science誌にオンライン掲載される。
[掲載論文について]
– 題目:
Quantitative Delineation of the Low Energy Decomposition Pathway for Lithium Peroxide in Lithium-Oxygen Battery
– 著者:Arghya Dutta, Kimihiko Ito, Akihiro Nomura and Yoshimi Kubo
– 雑誌:Advanced Science
– 掲載日時:中央ヨーロッパ時間2020年8月11日
– DOI:10.1002/advs.202001660<https://doi.org/10.1002/advs.202001660>