ソフトウェア・アナリティクスで強みを持つ米New Relicの日本法人ニューレリックは12月18日、自社のオブザーバビリティ・ツール(システム調査により内部状態を把握する基盤環境)の「New Relic」が、トヨタ自動車にて運営しているカーシェアサービス「TOYOTA SHARE」に導入されたと発表した。
両社によると、スマートフォンアプリとSKB(スマートキーボックス)で構成されるエッジ環境の全域を可視化できたことで、顧客のユーザー体験を大きく改善することに役立っているという。
ちなみに2019年10月からサービス提供を開始したTOYOTA SHAREは、一般ユーザーが借りたいクルマを探し、車両を予約、実利用を経て、料金精算までを一気通貫で完結できるスマートフォンアプリであり、かつカーシェアサービスの提供環境を指す。
アプリを介して最短15分の借り受けから、予約では最長1ヶ月先まで受け付ける柔軟さが魅力の同サービスであるが、それにも増して同サービスの最も大きなアピールポイントは、当該スマートフォンアブリを導入済みの利用者の場合、そのスマートフォン自体がシェア対象車両の解錠キーになるところにある。
そんなTOYOTA SHAREは先の2023年2月に、それまで別途提供されていた「チョクノリ!」とサービスを統合させたことを契機に、サービス内容の大幅リニューアルを実施。
以降、利用ステーションや車両台数を拡大するなどして、目下、TOYOTA SHAREで利用可能なステーション数は2023年11月時点で全国1,200カ所を超えた。一方でTOYOTA SHAREは、他社競合でも見られる一般向けの自動車シェアサービスでありながらも、他社サービスとの大きな違いが幾つかある。
そのひとつは物理キーを受け渡しすることなく24時間体制でサービスを提供できるところで、ここは他社では真似ができないアピールポイントでもある。それができる理由は、先の〝デジタルキー技術〟に加えて、スマホアプリからドア開錠と施錠、更にエンジンの始動を制御する車載の「スマートキーボックス(SKB)」に係る技術的優位点にある。
なお、この「スマートキーボックス(SKB)」を利用したシェアリングサービス実証でトヨタに於いて、旧くは2018年に米国ハワイ州に於けるServco社とのシェアリング事業の実績などがある。
そうしたなかでトヨタは、先のサービス内容のリニューアルにあたり、他社サービスとの優位点をより大きく伸ばすべく、システム内容を更に大きく刷新した。加えて利用者のスマートフォンアプリとスマートキーボックス(SKB)の情報のやり取りをより精緻に把握することにも取り組んだ。
その理由は、一般利用者から見て想定外のトラブル発生を事前に徹底的に排除しておくというトヨタらしい自助努力によるシステムの更なる改善と、堅牢さの冗長化に拘ったためだ。そんなトヨタは、そうした技術検証を重ねるなかで、システム状態を刻一刻とリアルタイム観測・把握・検証可能な「New Relic」の自動化プラットフォームに着目した。
さて、そもそもTOYOTA SHAREのサービス品質を支えるエッジ・システムは、(1)スマートフォン用の〝TOYOTA SHAREアプリ〟(2)インターネットを介してスマホアプリと繫がるべくクラウド上に設けられた〝Webアプリケーション(モビリティサービス・プラットフォーム/MSPF)〟そして(3)スマホアプリとBluetoothを介して連携する車載IoTデバイスの〝スマートキーボックス(SKB)〟との三位一体の連携が鍵となる。
概要図
まずTOYOTA SHAREアプリは、MSPFからダウンロードした暗号キーを利用し開錠・施錠、エンジン始動をコントロールする。そして続くモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)は、スマートフォンアプリの要求からユーザー認証を経て暗号キーを発給する。最後に車載IoTデバイスのスマートキーボックス(SKB)は、暗号キーによる認証を経て、開錠・施錠・エンジン始動を制御する役割を担う。
この際、New Relicはスマートフォンアプリを介して〝端末情報〟〝アプリの稼働やエラー状況〟〝アプリの通信時間・通信結果〟などを把握できる技術的背景があるのだが、更に安定したシステムとしてTOYOTA SHAREサービスの安定化を目指すには「スマートフォンと直に情報をやり取りを行うSKB」側のログ収集とリアルタイムでの可視化が欠かせない。
今回トヨタでは、TOYOTA SHAREアプリに組み込むNew RelicエージェントのSDK機能を利用し、SKBの仕様に合わせた軽微な改修を加えることで、アプリ-SKB間の通信・操作ログなどの取得を可能にした。
また、山間部などでインターネット通信が滞ったとしても、通信が回復した時点で収集されたログがNew Relicに送られてリアルタイムで可視化できることもNew Relicを介して実証・確認できた。
結果トヨタでは、同サービス実施に係るログ収集とリアルタイムの可視化を精緻に確認・検証できるようになったことで、カーディーラーからのSKBに関する問い合わせへの対応時間を月あたりおよそ60%削減した。またそれよりも増して大きな成果は、TOYOTA SHAREアプリに対する顧客からの問い合わせ回答時間が25%削減する成果を挙げた点にあるという。
この成果についてトヨタ自動車株式会社 CVカンパニー MaaS事業部 MSPF企画・開発室 システム開発グループ長の水野敦氏は、「New Relicの導入により、エッジ環境で何らかの不調が発生したとき、リアルタイムでその状況を把握できる仕組みが整えられました。
New Relicという実効性の高い手法を用いることで、より効率的にTOYOTA SHAREのサービス品質を高めていくことができます。お客様の視点でさらにTOYOTA SHAREを磨き上げ、お客様をはじめすべての関係者にとってより価値の高いプラットフォームへと進化させていきたいと考えています」と述べた。
また一方でNew Relic提供側のニューレリック小西真一朗 代表取締役社長は、「TOYOTA SHAREのサービス品質向上に、New Relicが貢献できることを大変光栄に思います。
今後は、TOYOTA SHAREのサービス全体を俯瞰的に見つつ、アプリの稼働状況やパフォーマンスの把握やプロアクティブなサービス運用に、New Relicのエンドツーエンドのオブザーバビリティをお役立て頂けるものと確信しています」と話している。