NEXT MOBILITY

MENU

2021年6月29日【CASE】

NEDO、移動情報の統合データ基盤「TraISARE」のβ版を開発

NEXT MOBILITY編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
図1 混雑情報ダッシュボード「PeopleFlow」の表示画面例

 

 

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)は6月29日、NEDOが進める「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業」において、MaaS Tech Japanが異なる交通事業者のシステムデータをシームレスに共有・分析できる移動情報統合データ基盤「TraISARE」(トレイザー)のβ版を開発したと伝えた。併せて、ユーザビリティ評価の一環として混雑情報ダッシュボードを2021年4月22日から5月31日まで試験公開し、その有効性を検証した。

 

 

このダッシュボードは、交通データと人流データを組み合わせることによって混雑情報の可視化や分析・予測を可能としたもの。試験公開では駅周辺の混雑予測情報などを提供した結果、利用者が「混雑を避ける・軽減する移動」へと行動を変容させる効果が期待できることが確認された。NEDOでは、今後、ユーザー評価のフィードバックやさまざまなデータホルダーとの共創を拡大させ、ニューノーマル時代における最適な移動に貢献するソリューション基盤の実現を目指すとしている。

 

 

1.概要

 

 

政府は「Society 5.0」の実現に向け、IoTや人工知能(AI)などさまざまなテクノロジーによって新たな付加価値の創出や社会課題の解決を目指す「Connected Industries」政策を推進している。
「 Society 5.0」とは、第5期科学技術基本計画(2016年1月22日閣議決定)において、日本が目指すべき未来社会の姿として提唱された概念。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くものとして、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、社会課題の早期解決と新産業の創出を両立する新たな社会を指す。

 

 

「 Society 5.0」政策が掲げる重点5分野の一つである「自動走行・モビリティサービス」分野では、多様なモビリティを一つのサービスとして統合するMaaS(Mobility as a Service)をはじめとする交通DXを実現することにより、都市における渋滞・混雑や過疎地域での公共交通維持、高齢者の運転免許返納といったさまざまな課題解決につながると期待されている。

 

 

これを踏まえ、NEDOでは業界横断型AIシステムと業界共用データ基盤の連携開発を支援する「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業/業界横断型AIシステムと業界共用データ基盤の連携開発/移動情報統合データ基盤の構築」事業に取り組んでいる。この中でMaaS Tech Japanは、異なる交通事業者のシステムデータをシームレスに共有・分析できる移動情報統合データ基盤「TraISARE」の開発を2019年度に開始しており、今回β版の開発を完了させた。併せて、ユースケースの一つとして交通データと人流データを組み合わせた混雑情報ダッシュボードを2021年4月22日から5月31日まで試験公開し、その有効性が確認された。

 

 

【 助成事業概要】

 事業名:Connected Industries推進のための協調領域データ  共有・AIシステム開発促進事業/業界横断型AIシステムと業界共用データ基盤の連携開発/移動情報統合データ基盤の構築
 助成先:株式会社MaaS Tech Japan
共同研究先:日本マイクロソフト株式会社、株式会社Colorkrew、株式会社ヴァル研究所
 事業期間:2019年度~2021年度

 

 

2.「TraISARE」の概要

 

 

今回、NEDO事業でMaaS Tech Japanが開発した「TraISARE」は、以下のデータと連携でき、これらの情報を蓄積することで現在の運行情報や混雑状況の可視化・分析、将来の予測シミュレーションなどさまざまな解析を可能としている。今後は、鉄道などの運行情報だけでなく、目的地のデータや人流データとも総合的に連携することで、包括的な移動情報の提供を目指すとのことだ。

 

 

◾️鉄道やバス、タクシーなど多様なモビリティのデータ
◾️不動産や飲食、エネルギーなど交通以外の業種のデータ
◾️人流データ

 

 

図2 移動情報統合データ基盤「TraISARE」の概要

 

 

3.混雑情報ダッシュボードの概要

 

 

MaaS Tech Japanは「TraISARE」によるデータ利活用のユースケースの一例として、公共交通オープンデータ協議会※4による鉄道駅・路線データとゼンリンの「混雑統計®️」データ※5を組み合わせた混雑情報ダッシュボード「PeopleFlow」を開発。一般的な混雑情報は定点観測のように特定エリアの人数データなどを元に提供されるが、「PeopleFlow」は人流データを「移動情報」として扱うことで混雑の流入経路を加味した分析を行い、より高精度の混雑予測情報を提供する。このように交通データと人流データを組み合わせる解析は、新たな試みとのことだ。

 

 

同ダッシュボードの有効性を確認するため、2021年4月22日から5月31日まで特設サイトで試験公開したところ、交通事業者や自治体などさまざまなステークホルダーから問合せなどの反響があったという。

 

 

MaaS Tech Japanでは同時に、調査条件に合致した首都圏エリア(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)在住の238名を対象にインターネット調査を行い、238名中の約8割にあたる194人が実際に「PeopleFlow」を利用したことを確認した。このうち時間帯の変更など混雑回避が見込めそうなユーザー群(44.3%)を詳細に分析したところ、「PeopleFlow」の混雑予想により55.8%のユーザーに移動時間を変更しようと考える意識の変容が生じ、そのうち95.8%のユーザーが実際に移動時間を変更したことが確認できたという。

 

 

図3 「PeopleFlow」利用者の調査結果

 

 

4.今後の予定

 

 

MaaS Tech Japanは、今回のユーザー評価を開発にフィードバックし、最適な移動提案が可能なデータ基盤構築を実現するため「TraISARE」の開発を進める。NEDOは、MaaS Tech Japanとともに、さまざまな既存データホルダーとの共創を拡大させ、ニューノーマル時代の移動の再定義に貢献する交通版ソリューション開発に引き続き取り組んでいくとしている。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。