新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東芝は、従来両立が困難だったセルの大面積化と高効率化を実現する、面積703cm2(世界最大)、エネルギー変換効率11.7%のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールを開発した。
両者は今後、さらなる大面積化を進め、材料塗布・印刷技術の開発や材料改良などにより、結晶シリコン太陽電池並みの高効率を目指し、最終的には発電コスト7円/kWhの実現に向けて研究開発を進めるとしている。
現在、主流となっている結晶シリコン太陽電池は、重量やその形状により、設置場所が限られている。
しかし、フィルム型ペロブスカイト太陽電池(注1)は、フレキシブルで軽量なため、従来設置できなかった耐荷重性の低い建築物への設置や、ZEBやZEH(注2)普及にもつながる壁への設置など、多様な設置形態をもたらし、加えて、安価な材料と塗布・印刷による形成で、低コストに製造できるため、次世代太陽電池として注目されていると云う。
しかしその一方、小面積セル(0.09cm2)ではエネルギー変換効率22.7%(注3)と結晶シリコン太陽電池セルに迫る高効率が実証されているもの、より大きなセル面積では均一な膜形成が困難で、大きく特性が低下する傾向に。
また、フィルム上への成膜も難しいため、15cm×15cmを超えるサイズのモジュールは実現されてこなかったと云う。
このような中、NEDO事業(注4)で東芝は、東芝が保有するメニスカス塗布技術(注5)に新たなプロセス開発などを加え、従来両立の困難であったセルの大面積化と高効率化を実現。世界最大面積(703cm2)のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールを開発し、エネルギー変換効率11.7%(注6)を実現した。
今後、フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、生産性向上によるさらなる低コスト化やモジュールの軽量化や、大面積塗布・印刷技術の開発により、実用化サイズとして想定される900cm2を目指し、さらなる大面積化を進める。
また、ペロブスカイト層の材料改良などにより、結晶シリコン太陽電池並みの高効率実現を目指し、最終的には、2030年の発電コスト7円/kWhの実現を目指す。
なお、同成果は、6月20日からパシフィコ横浜で開催される第13回再生可能エネルギー世界展示会(注7)のNEDOブースで展示される。
[今回の成果]
メニスカス塗布技術でモジュールサイズを拡大
大面積向けの塗布プロセスの開発では、インク組成を工夫することで、基板上でのヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)(MAI)の反応を制御。塗布の際のプロセス制御とペロブスカイト結晶成長条件の適正化を行うことで、大面積での面内膜厚均一性、結晶膜質の均質性を高めることに成功した。
その結果、実用モジュール(900cm2)に近いサイズ(703cm2)でも変換効率11.7%が得られ、実用化に一歩近づいた。
(注1)ペロブスカイト太陽電池:
光吸収層がペロブスカイト結晶で構成されている太陽電池。
(注2)ZEBやZEH:
ZEB(Net Zero Energy Building)は非住宅系の建物、ZEH(Net Zero Energy House)は住宅系の建物が対象で、建物全体でのエネルギー負荷抑制と高効率設備システムなどにより、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入して、年間の1次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物。
(注3)エネルギー変換効率22.7%
KRICT(韓国科学技術研究所)より発表されているペロブスカイト太陽電池小面積セルの世界最高値。
参照:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/pip.2978
(注4)NEDO事業:
事業名:高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/革新的低製造コスト太陽電池の研究開発
事業期間:2015年度~2019年度
(注5)メニスカス塗布技術
メニスカス(界面張力によって隙間の液体の表面がつくる曲面)を利用した塗布技術。
(注6)エネルギー変換効率11.7%
産業技術総合研究所のMPPT法(Maximum Power Point Tracking法:実使用時の変換効率により近い測定法)による測定値。I-V測定による変換効率測定法では、Forward 11.5%、Reverse 11.4%。
(注7)第13回再生可能エネルギー世界展示会
開催日時:2018年6月20日(水)~6月22日(金)10時00分~17時00分
開催場所:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)展示ホールA・B
NEDOブース:小間番号 R-0303
公式サイト:http://www.renewableenergy.jp/2018/