NEDOと日立化成、日立パワーソリューションズ、日本ガイシは、ドイツのニーダーザクセン州ファーレル市で大規模ハイブリッド蓄電池システムを完成させ、11月1日から実証運転を開始する。
同システムは、特性の異なる2種類の蓄電池(リチウムイオン電池とナトリウム硫黄電池、合計容量11.5MW/22.5MWh)で構成。高出力・大容量で充電・放電が可能なシステムとし、電力需給バランスの調整をより経済的に実現、再生可能エネルギーの大量導入が進んだ電力系統の安定化を目指す。
実証運転は、近年、風力発電の導入量が拡大しているニーダーザクセン州で行い、システムの効果を検証。また、同システムを用いた新しい電力取引の事業モデルも検証する。
[概要]
ドイツでは、2050年までに国内電力需要の80%以上を再生可能エネルギーに代替するエネルギー転換政策「Energiewende」を掲げ、風力発電や太陽光発電などの導入を積極的に推進。
それら再生可能エネルギーの利用拡大に伴い、これまで一定の周波数を維持する役割などを担っていた火力発電などの使用が減ったため、火力発電の役割を代替する技術へのニーズが急速に高まっている。
このニーズに対応すべく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、ドイツのニーダーザクセン州経済・労働・交通省、同州内の電力供給を担う管理組織EWE-Verband、および同社子会社のEEW Holdingは「大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業」を実施することとし、2017年3月19日、実証事業開始に向けた基本協定書(MOU)を締結した。
同時にNEDOの委託先として選定された日立化成、日立パワーソリューションズ、日本ガイシの3社と、ドイツ側の協力企業で地域電力会社のEWE AGが協定付属書(ID)を締結。2017年4月から実証事業を開始した。
その後、同州ファーレル市より大規模ハイブリッド蓄電池システムの設置許認可を取得。基礎工事や機器の搬入・設置を経て、今回、システムの完成と試運転が完了し、11月1日から実証運転を開始。実証事業は、2020年2月まで行われる。
なお、実証運転の開始に先立ち、11月1日10時(現地時間)に、ファーレル市のファーレル変電所で運転開始式を開催。式には在ドイツ日本国大使館の八木毅特命全権大使を来賓として迎え、ドイツ連邦交通・デジタルインフラ省Enak Ferlemann政務次官ほか、関係者が多数出席する予定だと云う。
[実証内容]
実証運転では、高出力の充電・放電が可能な日立化成のリチウムイオン電池(容量7.5MW/2.5MWh)と、大容量で長時間の充電・放電が可能な日本ガイシのナトリウム硫黄電池「NAS電池」(容量4MW/20MWh)の2種類の電池、そして日立パワーソリューションズの系統情報制御システム(*1)を用いて構築した大規模ハイブリッド蓄電池システムが、電力安定化に有効であることを検証する。
系統情報制御システムは、両電池の運用管理に加え、EWE AGの電力取引システムと連携して電力需給情報をやりとりし、各機能の効率的な運用を可能にする。
また、同システムを稼働し、従来の火力発電代替機能としての需給調整(Primary Control Reserve(*2)供給、Secondary Control Reserve(*3)供給)、バランシング・グループ(*4)内でのバランシング(*5)、ローカルな電圧安定化に寄与する無効電力供給(*6)の各機能を実現し、EWE AGグループの電力取引システムを通じた電力取引を行う。
さらにeneraプロジェクト(*7)と連携し、ドイツ側の需給リソースと組み合わせたVirtual Power Plant(VPP/*8)を構成することで、その電源も電力取引に活用する。
同システムにより、電力需給バランスの調整をより経済的に実現し、再生可能エネルギーの大量導入が進んだ電力系統の安定化を目指す。
*1)系統情報制御システム:電力系統からの電力の需給バランスの情報を解析し、蓄電池の充電・放電を制御するシステム。
*2)Primary Control Reserve:需給状況の変化に応じ、需給調整のために計画的に確保される電力で、自動応答30秒以内で発動する機能。
*3)Secondary Control Reserve:需給状況の変化に応じ、需給調整のために計画的に確保される電力で、送電事業者の指示により5分以内で発動する機能。
*4)バランシング・グループ:ドイツには発電事業者や電力需要家で構成される電力需給調整を行うグループが複数存在し、グループごとの需給調整責任者は電力の需要と供給が一致するよう調整。このグループをバランシング・グループと云う。
*5)バランシング:事前の電力需給計画に対し、実際の需給バランスとの偏差を低減し、バランシング・グループ内のインバランス電力を低減する機能。インバランス電力とは需要量と供給量の差で、この差にペナルティーが課せられる。
*6)無効電力供給:電力系統の周波数および電圧安定化などの代表的な系統安定化サービスのうち、ローカルな電圧安定化を行う機能。
*7)eneraプロジェクト:EWE AGが代表幹事を務めるニーダーザクセン州におけるドイツ・エネルギー政策に取り組む大規模再生エネルギー導入対策プロジェクト(ドイツ連邦経済エネルギー助成プロジェクト)。
*8)Virtual Power Plant(VPP):各地に分散する発電システム、蓄電システム、省エネシステムなどを、IoTを活用して統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させること。