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2024年7月11日【CASE】

MOBI、EVバッテリーの国際パスポート運用が実用段階へ

坂上 賢治

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ブロックチェーン技術を背景に、車載バッテリーに係る世界最大級のサプライチェーン構築を進めるMOBI ( モビ )( Mobility Open Blockchain Initiative/ 業態:NPO、本拠:米カリフォルニア州、代表:Chris Ballinger、Tram Vo )は7月10日、Web3 Global Battery Passport( GBP )、Minimum Viable Product( MVP )の開発環境上に於いて重要なマイルストーンに到達したと宣言した。( 坂上 賢治 )

 

それは史上初めて、オープンスタンダードであるMOBI Battery Birth CertificateとWorld Wide Web Consortium (W3C)、Self-Sovereign Identity(SSI)フレームワークを使用して、9つの組織間でバッテリーIDに係るデータ検証と情報交換の実証に成功したことにある。

 

 

ちなみに、このMOBIは、世界のモビリティ産業に対して精緻なエコシステムを主導するべく2018年5月に設立され、バッテリーの素材調達・生産・廃棄に関わるブロックチェーン( 分散型台帳 )技術の標準化と普及を推進。欧州発の企業連合「GAIA-X( ガイアエックス )」とも連携した。

 

結果、全世界規模で100以上の会員企業・組織を抱え、分科会の運営、国際会議の開催、SNSを介した教育・啓蒙活動を行っており、日本の参加企業には、アンリツ、デンソー、日置電機、ホンダ、マツダ、日産、トレードログなどが所属している。

そんなMOBIによる今発表は、モビリティ製品や部品・素材に関わるバリューチェーンの構築を切望する企業たちに歓迎されるだけでなく、世界規模で車載バッテリーのサプライチェーンの標準規格を切り拓いたという意味で、重要な出発点になるものだ。従って、この成果を基にMOBIは、世界中の団体や企業へ対して、この先駆的な取り組みに参加・協力するよう呼び掛けている。

 

現在、国境を越えたエネルギー貯蔵の〝入れ物〟としてバッテリーが注目されるなか、例えば米国財務省の政策では、バッテリーのライフサイクルの全域を追跡するためにデジタル記録の保持を提唱しており、バッテリーの素材構成( どのような素材が使われているか )、堅牢・安全性( 原材料を含む生産国や蓄電・放電時の安定性に係る情報 )、製造から廃棄に至る履歴について、デジタル証明書を伴う国際的なバッテリーパスポートの必要性が世界規模で取り沙汰されている。

 

そこでMOBIとそのメンバー達は、Web3が国際的な情報の相互運用に役立つと考えた。そもそもブロックチェーンを利用した製品の追跡であれば、中央集権的な仲介者を必要とせずに、国家や企業を越えた情報管理が共有できるからだ。

こうした取り組みについてMOBIのCEO兼共同創設者であるTram Vo氏は、「今日のグローバルなバッテリーのバリューチェーンは、実に複雑で、効率、拡張性、安全性、循環性、規制遵守を世界規模で同時確立させることには困難が伴います。従って、これらを維持・運用させるには、SSIフレームワークを備えた共有システムを構築して、バッテリーのライフサイクル管理を強化する必要があります。

 

従って、世界規模で更なるイノベーションを推し進めるためには、業界間のコラボレーションが必要不可欠です。是非とも世界中の公的機関と民間組織に於かれては、この重要な取り組みにご参加頂きたいと思います」と述べた。

 

また本田技研工業のシニアエンジニア、Christian Koebel氏は、「Web3は、組織間でピアツーピア方式でバッテリーデータを交換する、スケーラブルなアプローチを大きく促進させることが可能な興味深いテクノロジーです」と技術的な確実性と安全性との高度なバランスについての期待を語った。

 

更に日産自動車でシニアマネージャーを務める逗子雄介氏は、「実証段階毎の各ステージ通じて、Web3ベースのデータ管理がどのように信頼性を伴いつつ機能するかが確認されました」とその運用技術の確かさについてコメントした。

 

マツダは、「GBPワーキンググループへの参加を通じて、Web3の技術的知識を習得しただけでなく、信頼性の高い情報の交換を実現するエコシステムのビジョンを理解することができました。この貴重な機会を与えてくれたMOBIに感謝します」と語っている。

 

日置電機で執行役員を務めるKenneth Soh氏は、「初期ステージでの実証では、データ管理を可能にするシステム構築を実施する上で、技術的な理解を深めることに役立ちました。また今後のデータ主導時代に於いては、情報の完全性と安全性が最も重要です。

 

当社は計測機器メーカーとして常にデータの信頼性と精度を重視してきました。そうした意味で、このMOBIの研究活動 から得られた知見は、私たちがサービスを提供する将来の産業界の進歩にとって必要不可欠な技術であると考えています」と話す。

 

アンリツでシニアマネージャーを務める松本久氏は、「Web3での実装と運用が成功したことは、より透明性が高く持続可能なバッテリーエコシステムの構築に向けた大きな一歩です。私たちは、この重要な取り組みに参加・貢献できることを光栄に思います」と話している。

 

最後にトレードログでプロジェクトコーディネーターを務めるAlvin Ishiguro氏は、「当社は、MOBIと熱心な協力者の努力によって推進されている分散型グローバルバッテリーパスポートプロジェクトをサポートすることに誇りを持っています。今後も、エネルギー分野に於けるブロックチェーン技術を通じて、世界のお客様へ大して新しい体験を提供し続けていきたいと思います」と結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。