新東名の120km/h試行では、前提条件は2点あった。
・高速道路のいわゆる設計速度が120km/h以上であること
・試行区間の約60%で6車線化(片側3車線)され、速度差がある車両の交錯が少ない
6車線あれば、速度差が開いても左端の第1車線により低速な車両の通行帯を作ることができるので、運転者にとっては使い勝手がいい。
ただ、同じ120km/h引上げを行う東北道は、試行区間すべてが4車線。車線は少ないが、この区間は死傷事故率が飛びぬけて低い(※表3参照)。試行後は注目が集まり、取締りも厳しくなったことから死傷事故率が下がった区間もある。
*交通量が少なく、運転者が他の車両の影響を受けずに速度を決定できる場合の試行1年と、施行前1年の比較。参考:東日本高速全線の2018年中の死傷事故率=3.65(速報値)、同首都高速全線=10.9件(2018年)
最高速度引き上げを指導する警察庁は「120km/h試行でも、まず死傷事故率をみていきたい」(高速道路管理室)と言う。少ない人身事故を増やさないことは必須条件だ。
比較のために一例をあげると2018年の東日本高速全線の死傷事故率は3.65件/億台キロ。首都高速は10.9件/億台キロ。最高速度だけでなく、事故防止には複数の視点が必要だ。
死傷事故率は施行前後で大きな変化を見せていないが、今回の110km/h↓120km/h試行では、引き上げ区間の総延長は約80kmと変わらなかった。
全国の高速道路は約8800kmある。「110km/h引上げのノウハウがある区間で、120km/hに引き上げた状態をみることになった」と、静岡県警交通規制課は慎重だ。引上げを指導する警察庁も「念頭にあるのは、設計速度が120km/hの道路。それ以外の道路は今のところ俎上にありません」と、高速道路100km/hの“常識”は、すぐには変わりそうもない。
しかし、静岡県警と岩手県警が、110km/h試行1か月と6か月で実施したアンケートでは《他の路線・他の区間にも広げていくべき》という賛成が《元の100km/hに戻すべき》という反対を上回った。賛意は新東名で62.8%(638人)、東北道で62.7%(376人)。反対は新東名で17.6%(179人)、東北道で16.5%(99人)だった。
120km/h試行で、この支持率がどう変わるか。こうした動向も最高速度見直しの指標となる。
取締りは、さらに強化
110km/h試行で、静岡県警は高速道路交通警察隊に加えて、交通機動隊のパトカーなどによる路上監視を強化。航空隊のヘリコプターを動員し空陸連携で、車間距離の詰め過ぎや追越車線を走り続ける通行帯違反を重点的に取り締まった。
最高速度の引き上げに伴う新たな事故の防止や、最高速度に慣れない車両へのあおり運転などを防ぐためだ。監視・取締りの強化は岩手県警でも同様に強化されている。両県警は120km/h試行でも、監視や取締りを引き続き強化する方針だ。
高速走行で半世紀以上にわたって続いた最高速度100km/hの壁は、崩れつつある。( 取材・撮影=中島みなみ / 中島南事務所 )