オーストリア大使館は欧州中央時間の12月1日、自らの大使館商務省のプロモーションサイト上でオーストリア企業が先陣を切って開発した水素駆動のレールミリングトレイン(鉄道車両)を紹介した。
この車両〝MG11 Hydrogen(MG11 H2)〟を開発したリンジンガー社 (LINSINGER Maschinenbau Gesellschaft mbH)は1939年にウイーンで創業。鉄道分野を強みとしている技術企業だ。地域に於ける事業範疇(はんちゅう)は欧州エリアだけに留まらず、ロシア並びにアジア輸出も積極的に行っており、その輸出割合は9割を超えている。
現在同社は、アッター湖やファイブ・フィンガーズ展望台など、風光明媚な山と湖で著名なオーバーエスターライヒ州のシュタイラーミュールに本社拠点を構えており、従業員数は2020年12月現在でおよそ500名。売上高は7000万ユーロ(約88億5500万円/2017年時)という当地に於ける中堅企業である。そんな同社は、昨月17日に水素燃料電池を搭載した鉄道車両を一般に向けて公開した。
そもそも欧州は、スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが気候変動問題を掲げ、自国の国会前でストライキを始めて一躍著名になり、さらには欧州連合議会やダボス会議でスピーチを行ったことで話題を集めるなど、ことさら気候変動問題に熱心な地域だ。
従って移動に航空機を使うのは〝飛び恥〟とされ、1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が航空機や自動車よりずっと少ないとされる鉄道が積極的に利用されている。そんな欧州では、来る2050年の温室効果ガス純排出量ゼロを目指しており、自動車部門ではEVの導入策が主要な産業政策となっている。併せて鉄道部門でもさらなるCO2削減が求められている。
その対策の目玉が、未だ電化が進まない地方路線のディーゼル列車を燃料電池列車に切り替えることだ。水素を化学反応させて電気を作る燃料電池は、その時に排出されるのが水だけであり、気候変動対策の決定打として俄然注目が集まっている。
そんな当地でリンジンガー社が鉄道車両の燃料電池化の一番乗りを果たした。車両としての完成には2年の期間を要したが、同社では「自社80年の歴史上で大きな転換点になった」と語っている。
走行環境への負荷低減は大きく、鉄道路線近隣の住民にとっても大変なメリットとなった。また車両にはアキュムレータ(蓄圧器)を追加搭載することが可能としている。
このアキュムレータは動力を蓄える仕組みで、具体的にはバッテリが電気を蓄えるのと同じくアキュムレータはタンクに液体を蓄えることでタンク内圧力を高め、その液圧の力を動力に置き換えるという仕組みだ。これにより走り出しや上り勾配などで、より大きな駆動力を必要な時に効率的なサポートが行えるという仕組みとなっている。
しかし燃料電池にも課題はある。それは水素作るための電力を必要とすることだ。今のところ電力を作るには、風力や水力、さらには太陽光や洋上から電気を造り出すのがCO2削減効果として最も〝理にかなっている〟のだが、自然由来の電力には技術的な課題がまだまだ多い。
一方で水素は化石燃料からでも製造はできる。この場合、製造工程でのCO2排出が問題になってしまう訳だが、欧州では目下のところ自然由来の電力供給を急ぎつつ、化石燃料からの水素調達の助けを借りて鉄道車両の燃料電池化に取り組んでいる。
ちなみに日本では、トヨタ自動車が燃料電池車(FCV)を市販済み。そんな〝MIRAI〟も先の東京モーターショーで刷新され、いよいよ装いも新たな新型車の市場投入が迫っている。他方、鉄道車両では今年の10月6日にはトヨタが、水素をエネルギー源としたハイブリッド(燃料電池)車両の開発に取り組むと発表している。これは東日本旅客鉄道(JR東日本)と日立製作所が参画する。
対して欧州では、仏製の燃料電池列車の試験運行も数年前という早さで始まっていた。自動車はEV、鉄道は燃料電池という流れが欧州で定着した場合、現状の日本はこれに追従し、さらには抜き去れるのかが気になるところだ。日本の燃料電池鉄道計画には先の通り、英国の鉄道事業で活躍中の日立製作所が参加しているため、英国に於いて燃料電池鉄道を走らせることも可能ではあるが、この流れが加速されることを祈りたい。