川崎重工業は5月11日、2020年度(20年4~21年3月)連結決算を発表した。それによると、売上高が1兆4884億円(前期比9.3%減)、営業損益が53億円の赤字(前期は620億円の黒字)、当期純損益が193億円の赤字(同186億円の黒字)だった。文字通り新型コロナウイルスの影響をもろに受けた決算で、配当についても無配に転落した。(経済ジャーナリスト・山田清志)
コロナ影響542億円のうち約7割が航空機事業
「従来、収益の牽引役であった航空宇宙システムが大幅な減収減益となった。一方で、モーターサイクル&エンジンにおいては、コロナ影響で当初大幅な減収減益になると見ていたこともあり、抜本的な固定費改善を実施して100億円以上の費用を削減できた。さらに、コロナ禍でのレジャーということで、北米オフロード向け四輪の需要が高まり、大幅な増益となった」と山本克也副社長は2020年度決算を振り返った。
やはり新型コロナウイルスの影響が大きく、前期より悪化した営業利益673億円分のうち542億円がコロナ影響だった。しかも、そのうち約7割がこれまで稼ぎ頭である航空宇宙システムであった。
その航空宇宙システム事業は、売上高が防衛省向けや民間航空機向け分担製造品、民間航空エンジン分担製造品が減少したことにより、前期に比べ1548億円減収の3777億円となった。営業損益は減収などで744億円悪化して316億円の赤字に転落した。
2020年度決算
21年度についても、引き続き厳しい状況が続き、売上高が337億円減収の3400億円、営業損益が236億円改善の80億円の赤字と予想する。市場環境がコロナ以前の状況に回復するには相当な時間を要すると見ており、市場変化を踏まえた技術戦略の見直しや財務基盤の強化を進めていく計画だ。
そのほかのセグメントについては、エネルギー・環境プラント事業が前期に比べ28億円減収の2401億円となった。国内向けゴミ処理施設案件の工事量増加や国内向けガスタービンコンバインドサイクル発電プラントの売り上げ増加があったものの、前期には大口案件であったトルクメニスタン向け化学プラントの売り上げがあり、その分がなくなったことが大きかった。営業利益は減収に加え、新型コロナの影響による操業差損の発生などにより、41億円減益の134億円となった。
2020年度セグメント別
なお、エネルギー・環境プラント事業は21年度から船舶海洋事業と統合して「エネルギーソリューション&マリン」となる。21年度の業績見通しは、売上高が5億円増収の3200億円、営業利益が68億円悪化の35億円を見込む。とにかくコロナ影響で一時的に凍結されていた案件を着実に取り込むなど受注回復に向け営業活動を強化していくそうだ。
船舶海洋と車両は赤字幅が悪化
精密機械・ロボット事業は、売上高が建設機械市場向け油圧機器や半導体向け、車体組立向けロボットの増加により、234億円増収の2408億円。営業利益は増収などにより、18億円増益の140億円だった。
同事業を取り巻く環境は、特に精密機械分野で中国建設機械市場が新型コロナの影響からいち早く回復し、過去最高の油圧ショベル販売台数を記録するなど需要が大きく伸長した。また、ロボット分野では、半導体製造装置メーカーの設備投資の増加により好調に推移し、中長期的にも需要は着実に拡大していくことが見込まれるとのことだ。
2021年度セグメント別
21年度の業績見通しは、売上高が92億円増収の2500億円、営業利益が20億円増の160億円を見込む。同事業の今後の取り組みとしては、建設機械の電動化・自動化に向けた技術開発を推進するとともに、同業他社や異業種などとのオープンイノベーションを進めて競争力強化を図っていく計画だ。
船舶海洋事業は、売上高が防衛省向け潜水艦の工事量増加などにより77億円増収の794億円となったが、営業利益は操業差損の発生により、前期に比べ24億円悪化して30億円の営業損失となり赤字幅が拡大した。船舶海洋事業を取り巻く環境は、引き続き長期的な世界経済の動向が不透明であることから新規商談案件が限られ、依然として厳しい状況にあるそうだ。
車両事業は、売上高が米国向け車両の減少により、33億円減収の1332億円、営業利益が減収に加え、新型コロナの影響などによる海外案件の採算悪化で7億円減少して45億円の営業損失となり、船舶海洋事業と同様に赤字幅が拡大した。21年度の業績見通しについては、売上高が168億円増収の1500億円、営業利益が75億円増の30億円と黒字転換を狙う。
引き続きコロナの影響で、鉄道関連投資計画の見直しや入札の延期・中止などが現実になりつつあるそうだ。ただ、中長期的には、人口集中による大都市の混雑緩和や環境対策のための都市交通整備、アジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に安定した成長が見込めるという。
2021年度業績見通し
PCR検査ロボット次第で増配の可能性も
モーターサイクル&エンジンは、売上高が北米向けオフロード四輪の販売増加はあったものの、東南アジア向け二輪車が減少し、為替が円高に推移したことで、前期に比べ10億円減収の3366億円となった。一方、営業利益は固定費や販促費の削減により、137億円増益の117億円と黒字転換を果たした。
「21年度も二輪車事業の回復や北米向けオフロード四輪需要の継続が見込まれることから、大幅な増収増益を見込んでいる。今年度も引き続き売上高固定費を徹底し、経営体質改善を進めていく。同時に販促費の抑制や製造費用のコストダウン等に取り組み、限界利益率の改善に注力していく。さらに在庫水準を見直すことで、資産効率の改善も追求していく。中期的には脱炭素を睨み、電動ビークルの開発にも注力していく」と山本副社長は話す。
21年度の業績見通しは、売上高が434億円増の3800億円、うち先進国二輪が228億円増の1370億円、新興国二輪が146億円増の820億円、四輪車・PWCが66億円増の1080億円と予想。営業利益は53億円増の170億円を見込む。
また、会社全体の21年度業績見通しは、売上高が1兆5000億円(前期比0.8%増)、営業利益が300億円、当期純利益が170億円と黒字転換を果たす計画だ。山本副社長は「コロナ影響の縮小により、受注・売り上げ、利益の全てで大きく改善できる」と自信を見せる。また、20年度無配に転落した配当について、21年度は30円を予定する。
「これはあくまでもボトムライオンの水準と考えており、現在、未織り込みのPCR検査事業の収益について、見極めがはっきりした段階で見直していきたいと考えている」(山本副社長)と30円以上の配当に期待を持たせた。
なにしろ、同社が開発した自動PCR検査ロボットシステムが現在、さまざまな地方自治体や医療機関から引き合いがきているからだ。同システムは約12.2メートルのコンテナに収納した移動式のもので、コンテナ1台当たりで最大2500検体の検査を1日で行うことができ、結果も約80分で判定するという。しかも、ロボットによる完全自動化作業で、医療従事者の負担軽減にも役立つと期待されているのだ。