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2021年8月17日【エネルギー】

川重と大林組、水素発電の技術開発と社会実装調査を開始

NEXT MOBILITY編集部

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川崎重工業と大林組は8月17日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募事業「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」に係わる採択を受け、水素発電の地域実装に向けた技術開発と、社会実装モデルに関する調査の2つの事業を開始すると発表した。

以上2つの事業の内、「水素CGS(※1)の地域モデル確立に向けた技術開発・研究 」では、兵庫県神戸市のポートアイランドの“水素CGS実証プラント”に既に設置されているドライ方式(※2)水素専焼水素ガスタービンの改良、統合型EMS(※3)の再設計・改修および周辺公共施設に水素由来のクリーンな電気と熱を供給することで、より実用的で環境性が高い技術の確立と、地域に実装するためのモデル構築を行う。

 

また、「水素CGSの事業モデル確立に関する調査 」では、関西電力と比較的大規模な施設やビルが集まる市街地などへの水素CGSの導入による脱炭素化に向けた事業モデルの調査・検討を行うことで水素エネルギーの普及促進を目指す。

 

 

それぞれの事業の詳細は、以下の通り。

 

【1】水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/地域モデル構築技術開発/水素CGSの地域モデル確立に向けた技術開発・研究

 

– 実施期間:2年間(2021年度~2022年度)
– 実施内容:

①ドライ方式水素ガスタービンの社会実装を早期に実現するため、天然ガスとの混焼に対応できるドライ方式燃焼器の改良開発を行い、水素CGS実証プラントで検証する(川崎重工)。

 

②大気汚染防止法で定められたNOx(窒素酸化物)規制値(70ppm以下、残存O2濃度16%換算)は既に脱硝装置を用いることなく達成しているが、より厳しい環境規制条例の地域にも対応すべく、NOx低減性能のさらなる向上を図る燃焼技術を開発し、水素CGS実証プラントで検証する(川崎重工)。

 

③ドライ方式燃焼器の改良に合わせて、統合型EMSの最適化パラメータをアップデートし、神戸CGS実証プラントでの運転試験を通して性能検証を行う(大林組)。

 

【2】水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/水素製造・利活用ポテンシャル調査/水素CGSの事業モデル確立に関する調査

 

– 実施期間:2年間(2021年度~2022年度)
– 実施内容:

①神戸市ポートアイランドに設置した水素CGSの実証プラントを対象とした、周辺地域の電気・熱需要のポテンシャル調査を行うとともに、神戸空港島に建設された液化水素基地からの供給を想定した事業モデルの成立性について検討する(川崎重工/大林組/関西電力)。

 

②同モデルを他の地域へ展開する場合の拡張性についても検討し、水素CGSの社会実装を進めるための雛形となる事業モデルをまとめる(川崎重工/大林組/関西電力)。

 

 

なお、川崎重工と大林組は、2019~2020年度にかけて、NEDOの助成事業として「ドライ低NOx水素専焼ガスタービン技術開発・実証事業」に取り組んでおり、川崎重工が新規開発したマイクロミックス燃焼技術を適用したドライ方式水素専焼ガスタービンの運転に世界で初めて成功(※4)。

 

ドライ方式水素専焼ガスタービンにおいて、ウェット方式(※5)比で発電効率を約1ポイント向上させつつ、NOx性能についてもウェット方式同様に大気汚染防止法の規制値(70ppm:O2=16%換算値)をクリアすることを実証した。

 

また、ドライ方式による約450時間の水素専焼運転を行い、耐久性に問題がないことを検証したほか、天然ガスを燃料にして運転したケースと比較して約150トンの二酸化炭素削減効果があることを確認している。

 

一方、大林組では、水素CGSから供給される電気と熱の最適配分に向けた統合型EMSの改修・実証を実施し、地域における水素エネルギーの有効利用に向けた評価を実施。併せて、燃料の液化水素を気化する際の冷熱を有効活用するためのシステム検討を実施した。

 

 

川崎重工と大林組は、これまで培った技術やノウハウ、データを活かし、今回の2事業を着実に実施することで、水素社会および脱炭素社会の実現に貢献していくとしている。

 

 

※1)CGS(Co-generation System;コージェネレーションシステム):電気と熱の両方を同時に供給することができるエネルギーシステム。
※2)ドライ方式:NOx低減用の水噴射を使わない燃焼方式。水噴射を使わない分、発電効率を向上させることができるが、燃焼安定性が課題。
※3)統合型EMS(Energy Management System:エネルギーマネジメントシステム):ビルや工場などで省エネを図るために、ITを活用してエネルギーを最適に制御するシステム。
※4:(川崎重工プレスリリース)世界初、ドライ低 NOx 水素専焼ガスタービンの技術実証試験に成功(2020年7月21日/PDF):https://www.khi.co.jp/pressrelease/news_200721-1.pdf
※5)ウェット方式:NOx低減のために水噴射(あるいは蒸気噴射)を行う方法。燃焼安定性に優れ混焼への対応も容易であるが、水分が燃焼エネルギーの一部を吸収するため効率の向上が難しい。

 

 

■(NEDO)「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」に係る実施体制の決定について:https://www.nedo.go.jp/koubo/HY3_00047.html

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。