鹿島は、岐阜工業およびシンテックと共同で、革新的な打設配管システムを開発し、トンネルの覆工コンクリート打設を完全に自動化することに成功した。
システムでは、コンクリートポンプ車の圧送信号と配管の切替えをリンクさせ、打上げ高さを自動で調整しながら、左右均等に全断面をコンクリート吹上げ打設。アジテータ車の入替え時以外の人手が不要で、安定したコンクリート品質を確保しつつも、従来工法と同等のコストを実現したと云う。
■開発の背景
鹿島では、熟練技能労働者の減少や若手の入職者不足など、建設業が抱える様々な課題の解決策の一つとして、安全性と生産性を高め、品質も確保できる自動化技術の開発を進めている。
中でも、山岳トンネル工事における覆工コンクリート打設については、狭隘な作業空間でのコンクリートの打込みやバイブレータを用いた人力による締固めなど、技能労働者の経験と技量に頼る作業が多く、また作業環境も厳しいことから、完全自動化によるメリットが大きいとして、開発を進めてきた。
■完全自動打設システムの構成と特長
システムは、①締固めが不要なトンネル覆工用高流動コンクリートの使用、②残コン(打設時に配管内に残るコンクリート)の減量と回収が容易な新しい打設配管システム、③左右の高速切替が可能な配管切替装置、④ポンプ車と連動し左右の打上げ高さを自動制御する打設制御システム、の4つで構成される。
①トンネル覆工用高流動コンクリート
鹿島では、2011年に「増粘成分一液型の高性能AE減水剤を用いた覆工用中流動コンクリート」、2017年に「締固め作業が不要な自己充填性を有する覆工用高流動コンクリート」を開発し、現場で適用。今回、増粘成分一液型の高性能AE減水剤を改良し、これを用いることで、高流動コンクリートにおいても中流動コンクリートと同等の単位セメント量(350kg/m3)で締固めを不要にした。
②新たな打設配管システム
高流動コンクリートは粘性が高く、自由落下させると空気が混入し、打設後の覆工表面の気泡跡を増長する欠点があり、その克服には、全ての打設口を吹き上げて圧入する方式(吹上方式)に変更する必要が。一方、従来の吹上打設配管システムでは、打設口毎に配管が必要で、切替えの際に残コンが多量に発生するため、打設作業中の残コンの回収と配管清掃などの作業の発生、残コンの廃棄処分による環境負荷とコスト増が課題となっていた。
これら解決のため、鹿島では、各打設口を一筆書きで接続する打設配管システムを開発。打設時に回転式吹上打設口を型枠表面からコンクリート内部へ突出させ、完了時には回転させて蓋を型枠表面と同じ位置で閉めると共に次の打設口への配管ルートを形成、これにより打設中の残コンの回収や配管清掃を不要とした。
さらに、ポンプ車でポンプを逆転・正転させる(例えば右側の配管内の残コンを回収し左側の配管へ送る)ことで、残コンを減らすこともできると云う。
③高速配管切替装置
締固めを行わないコンクリートは原則として連続打設が必要なため、打設口の切替えも含めて左右系統の切替えに数十分を要する従来の配管システムでは、脱型後のコンクリート表面に流動停止の跡が顕著に残るという欠点があった。
しかし、配管の分岐点に高速配管切替装置を設置した同システムでは、左右系統の切替えに3秒、打設口の切替えも含めて15秒と、流動停止時間を短時間に抑えられる。
④打設制御システム
コンクリートの打上げ高さが確認できるセンサーを、型枠表面に設置して打設状況を見える化するとともに、ポンプ車と連動させて配管系統を自動で切り替え、左右の高低差を無くし均等に吹上打設を行う制御システムを開発。
事前に決定した打設口の切替高さや左右の切替えを行うポンプ車のストローク回数など、詳細な打設計画をシステムに入力し、スタートボタンを押すだけで、自動で全断面が計画通りに打設できる。
またシステムには、打設履歴が記録されるため、脱型後の仕上がりと打設計画との因果関係の分析も場所を特定して詳細にできるなど、改善活動もより明確にできると云う。
■試験打設結果
同システムを用いた打設試験を「模擬トンネル」で2020年2月~3月に2回行い、完全自動で計画通りに進んだことから、システムの有効性を確認。現在、表面の仕上がりと入力パラメータの因果関係の詳細分析を行っており、今後その結果を踏まえ、美観も含めた自動打設方法の最適化を図っていく。
■今後の展開
鹿島は、今回の模擬トンネルでの試験打設において完全自動打設を成功させ、良好な結果が得られたことから、制御システムの信頼性の向上と現場適用時に向けた耐久性の向上を図り、2021年度の実現場への導入を目指す。また今後、TAF工法も自動化することで、セントルのセットから打設、養生に至るすべての工程を自動で行う統合システムの構築を目指す。
■(鹿島)トリプルアーチフォーム(TrAF)工法、唐丹第3トンネルに初適用!(2017年8月3日リリース):https://www.kajima.co.jp/news/press/201708/3c1-j.htm
■(鹿島)トンネル覆工用高流動コンクリートを唐丹第3トンネルに初適用(2017年10月2日リリース):https://www.kajima.co.jp/news/press/201710/2c1-j.htm
■(鹿島)動画でみる鹿島の土木技術「山岳トンネル」:https://www.kajima.co.jp/tech/c_movies/index.html#anc_mountain_tunnel