金沢工業大学は11月9日、電気電子工学科の井田次郎教授研究室が、量子コンピュータ研究の国家プロジェクトに参画すると発表した。プロジェクトでは、量子コンピュータ制御用半導体集積回路「量子・古典インターフェース」に使用されるトランジスタの極低温下での動作原理を解明することを目指す。この研究は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)からの再委託であり、東京大学と金沢工業大学の井田研究室が担当することになる。
井田研究室が参画する研究プロジェクトは「超伝導体・半導体技術を融合した集積量子計算システムの開発」(代表 産総研。研究開発責任者 川畑史郎)で、国立研究開発法人新エネルギー・産業開発機構(NEDO)の大型公募研究「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」の追加公募に採択されている。量子力学の原理を情報処理に利用した次世代コンピューティングとは、「量子アニーリングマシン」や「汎用量子コンピュータ」等の非ノイマン型コンピュータ技術に該当する。
■研究の概要:低温MOSFET技術の研究開発
井田研究室は、プロジェクトの研究開発のうち、量子・古典インターフェース技術(QC-IF)の開発を担当する。
量子コンピュータ(汎用量子コンピュータ及び量子アニーリングマシン)には、マイクロ波で量子ビット制御を行うために多くの配線が使われるが、量子コンピュータを大規模化すると、量子コンピュータが設置された冷凍機への膨大な配線増加とそれによる熱流入、消費電力の爆発的な増大が深刻な課題となってくる。この課題を解決するため、制御システムを小型化・集積化・オンチップ化したMOSFETと呼ばれるトランジスタを利用した低温動作大規模半導体集積回路(量子・古典インターフェース)の技術開発と量子・古典インターフェースの冷凍機内への実装が必須となる。
井田研究室では、半導体集積回路のデバイス・インテグレーション技術、完全空乏型SOI(FD-SOI。トランジスタの構造の一種)技術に多くの知見と経験を持つ。FD-SOIによる極低電力デバイスの新規提案・研究開発などの実績があり、主要国際学会で活発に活動していたことから、今回、東大とともに、産総研から打診があり研究プロジェクトに参加することとなった。
今回の研究プロジェクトにおいて、井田研究室は、量子・古典インターフェースに適したMOSFET技術がどのようなものであるかを明らかにし、低温下での動作物理機構の解明と、物理ベースコンパクトモデルの開発を実施する。2022年度までに、MOSFET技術によって削減可能な制御回路の消費電力について見込みをつける予定。
研究の第1ステップとして、シリコン電子デバイスを4K(ケルビン、約-269℃)程度の極低温で使うための基盤技術の構築に取り組む。井田研究室は研究室が保有する完全空乏型SOI-CMOS素子を使った極低温下での動作実験を開始する。