鹿島建設は6月7日、1車線規制で道路の床版取替が可能な“幅員方向分割(2車線道路の場合1車線規制)取替”を対象とした「幅員方向分割SDRシステム」を開発したと発表した。
供用中の施設が対象となる道路橋の床版取替工事では、交通規制等によるソーシャルロス(社会的な機会損失)を最小限にする必要があるため、交通量の多い路線では床版を、幅員方向に分割して施工を行う「幅員方向分割取替」の適用が強く求められる。
しかし、幅員方向分割取替工事にあたっては、隣接する交通開放側の床版からの交通振動が接合部に与える影響への対策や、交通開放側の車両に対する安全対策、さらに、全断面取替よりもコンパクトな架設機が必要といった課題があったと云う。
鹿島建設では、道路橋床版更新工事に伴う交通規制等によるソーシャルロスを大幅低減を可能にする「スマート床版更新(SDR:Smart Deck Renewal)システム」の開発を進めており、2019年には“全断面(2車線道路の場合2車線規制)取替”を対象とした「全断面SDRシステム」を開発(来年以降、実工事に適用予定)。今回、そのさらなる低減を可能にする“幅員方向分割(2車線道路の場合1車線規制)取替”を対象とした「幅員方向分割SDRシステム」を開発した。
SDRシステムは、床版取替に係る4つの作業、[1]既設床版の撤去、[2]主桁ケレン、[3]高さ調整、[4]新設床版の搬入・架設を、同時に並行して行う「移動式工場」を実現した施工システム。クレーンでの旋回を伴う床版の揚重作業が不要な新型架設機の開発により、施工の高速化と交通規制の最小化、安全性の向上が図れるシステムとして2019年に開発・実用化した全断面対象のシステムを、さらなるソーシャルロスの最小化を目指し、幅員方向に床版を分割して取替可能なシステムとして発展させたもので、標準的な工法と比べ、工期の大幅な短縮ができると云う。
[幅員方向分割SDRシステムの主要技術]
(1)交通振動対応仮設プレート型継手
幅員方向分割取替に於ける交通開放側の床版(以下、一次床版)と規制側床版(以下、二次床版)の接合部(橋軸直角方向接合部)に充填する間詰材については、硬化中に一次床版からの交通振動によりひび割れが生じるなど、品質低下につながる事象が課題に。そこで、交通振動による影響を解消し、間詰材の品質を確保するため、一次床版と二次床版を2枚のプレートとPC鋼棒により仮接合し、両者を一体化することで振動の影響を回避する「交通振動対応仮設プレート型継手」を開発した。
(2)ワンタッチ型SB種(※)防護柵
車線規制下での床版撤去・架設作業に於いては、工事エリアのすぐ横を一般車両が走行するため、作業エリア内の誤進入に対する確実な防護対策が安全上の最も重要な課題に。また、防護柵設置・撤去作業時の安全性、ならびに規制範囲の最小化も求められることから、幅30㎝の占有でSB種の性能を担保し、ワンタッチで設置・撤去可能な「ワンタッチ型SB種防護柵」を開発した。
※SB種:設計速度80km/h以上の重大な被害が発生するおそれのある区間に用いられる車両用防護柵の種別。
(3)車載運搬型床版架設機・撤去機
車線規制下に於いて、床版架設機・撤去機の設置・撤去作業を行う際に最も留意が必要な、供用交通に対する安全性を確保するため、床版架設・撤去機を10tトラックおよび15tトレーラーで運搬し、クレーンを必要とせずに安全かつ高速に組立・撤去できる「車載運搬型床版架設機・撤去機」を開発した。
実物大実証実験
鹿島は、今年4月、「幅員方向分割SDRシステム」のサイクルタイムや、施工安全性の検証を目的とした実物大総合実証実験を実施。その結果、標準的な床版取替工程の施工方法に比べて、作業時間を約1/10に短縮できるなど、同システムの有用性を確認。また、同システムに加えて、工事現場の近傍に設置したプレキャスト工場で床版を製作することで、床版の製作経費や運搬費も削減できるなど、費用の約2割低減が見込めると云う。
今後は、実工事への適用に向け、同システムを積極的に提案。併せて、自動化を始めとした機能向上についても研究開発を進め、交通規制等によるソーシャルロスを最小限にとどめる道路橋床版更新工事の実現に寄与していくとしている。
■(鹿島 2019年12月17日付プレスリリース)安価で、高速施工を可能にする「スマート床版更新(SDR)システム」を開発:https://www.kajima.co.jp/news/press/201912/17c1-j.htm
■(鹿島)動画でみる鹿島の土木技術「リニューアル」:https://www.kajima.co.jp/tech/c_movies/index.html#anc_renewal