科学技術振興機構(JST)は5月14日、東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平教授らの研究グループが、ドライバーの運転行動の定量的な評価手法、および評価に基づく危険回避手法をシステム化することでAI教習システムを製品化したことを発表した。
自動車運転教習所は教習指導員の高齢化や採用難による人材不足により、新規免許取得者や、高齢者講習の予約待ち(平均2~3ヵ月)が問題となっている。JSTは、製品化したシステムを自動車教習所に適用することで、教習指導員の業務負荷軽減のみならず、新規免許取得者や高齢運転者の受け入れ拡大につながるとしている。
なお、このシステムは、加藤真平教授らの研究グループが行う「完全自動運転における危険と異常の予測」の研究の一環として、模範的運転モデル対象として自動車教習所の教習指導員に着目し、その運転行動をルール化した運転モデルを開発。また、自動運転技術を用いてリアルタイムに得られる位置推定や障害物検知の結果を評価指標とすることで、開発した運転モデルを使い、ドライバーの運転行動の定量的な評価および評価に基づく危険予測を可能としたもの。
発表のポイント
・自動車教習所の教習指導員に着目し、その運転行動をルール化した運転モデルを開発した。
・開発したモデルと自動運転技術を用いて危険回避の手法を確立し、AI教習システムとして製品化した。
・AI教習システムを自動車教習所に適用することで、教習指導員の高齢化などさまざまな課題の解決につながると期待される。
加藤真平教授らの研究グループは、科学技術振興機構(JST)CRESTにおいて「完全自動運転における危険と異常の予測」についての研究に取り組んでいる。自動運転に必要となる模範的な運転モデルの構築には、運行設計領域(ODD: Operational Design Domain)を定義すること、かつODDにおけるシステムの振る舞いを定義した無数のユースケースとシナリオに対応することが難題とされてきた。
研究では模範的な運転モデルの対象として自動車教習所の教習指導員に着目し、ODDを自動車教習の範囲に限定し、かつ教習指導員による評価項目のみを評価指標とすることで、特定のユースケースとシナリオに基づいた運転モデルの開発に成功した。
カメラやレーダーを用いた従来の自動運転では、人間の運転モデルを再現できるほどの位置推定精度や障害物検知精度を達成できなかった。この研究では、LiDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれる自動運転に特化した高精度なセンサー(図1)および、LiDARの観測データと PCD高精度地図(図1)を照らし合わせることで位置推定や障害物検知を行う自動運転ソフトウェアであるAutowareを導入し、センチメートル級の位置推定精度や障害物検知精度を達成した。
図 1 LiDAR センサーと自己位置推定
また、車内に設置したカメラで取得した画像から機械学習モデルを用いてドライバーの顔向き推定することを可能とした(図2)。
図 2 機械学習モデルを用いた顔向き推定
これらの結果を評価指標とし、開発した運転モデルを用いて評価することで、右左折前の車両の寄せ方や目視による確認、ショートカット、大回りなどの運転行動を教習指導員と同等の精度で評価するルールベースの評価手法を構築した(図3)。
図 3 運転技能評価の仕組み
この評価手法を自動車教習所における教習業務に適用するにあたっては、走行経路を複数区間に分割し、区間ごとに評価指標とその閾値を設定したうえで、閾値の範囲外の運転行動を異常と判定し、その結果をドライバーにフィードバックする AI教習システムを開発。
また、異常と判定した運転行動の中で、特に危険な運転行動に対しては教習指導員が行うのと同様のブレーキ制御を自動で行うことで危険を回避する機能を実現した。