帝国データバンクは11月13日、現地法人および関係会社・関連会社・現地企業への設立・出資、駐在所・事務所の設置などを通じて、アメリカ合衆国への進出が判明した日本企業について調査行い、その結果を発表した。
11月3日に投開票が行われたアメリカ合衆国(以下「米国」)大統領選挙。数日間の混迷の末に、民主党のジョー・バイデン氏が当選に必要な選挙人の過半数を獲得、米大手メディアが当選確実と報じている。今後はバイデン氏への政権移行が進むものとみられるが、対日・対中貿易などではトランプ米大統領が進めてきた通商政策の急転換はないとみられる。一方、地球温暖化の国際枠組みである「パリ協定」に復帰する手続きへの着手を表明するなど、これまでと180度方針が転換する政策もあり、米国に進出する企業を中心にその動向が注視されている
アメリカ合衆国(米国)に進出する日本企業は、2020年11月時点で6702社判明。4年前(2016年:6814社)から約100社の減少となるなど、全体ではやや減少となった。業種別にみると、最も多いのは「製造業」
都道府県別にみると、最も多いのは「東京都」(3135社)で、進出企業の約半数を占めている。東京都は製造業や卸売業、サービス業などが多くみられる。詳細な進出地では、サンフランシスコやロサンゼルスなどの大都市を抱える「カリフォルニア州」が最多
バイデン氏の下で通商摩擦緩和が期待されるが、トランプ米大統領の下で進められた関税政策や対中強硬姿勢の急転換は難しいとの見方もある。他方、環境保護規制などは今後全米で加速度的に進むとみられ、企業によっては事業縮小や撤退などの動きが本格化する可能性もある。トランプ米大統領とは質こそ異なるものの、幅広い業種で北米戦略の総点検が求められる
最も多い業種は「製造業」も、4年前から2割減 自動車・電機関連産業が集中
業種別
アメリカ合衆国(米国)に進出している日本企業は、2020年11月時点で6702社あることが判明。4年前(2016年:6814社)から約100社の減少となるなど、全体ではやや減少となった。業種別にみると、最も多いのは「製造業」で2456社だった。なかでも「自動車部品製造」(113社)、「自動車駆動・操縦・制動装置製造」(64社)、「金属工作機械製造」(53社)など、自動車産業や電機産業などが多く進出している。
また、米製薬市場が巨大であることを背景に、「医薬品製剤製造」(51社)でも多かった。これらの企業では、米国工場での現地生産・販売のほか、先端技術を有するスタートアップ企業の買収・設立を目的としているケースもある。
次いで多いのは「卸売業」の1488社。「業務用電気機器卸」(209社)が最も多いほか、「精密機器卸」(64社)、「自動車部品卸」(53社)のほか、商社などでも多い。上位2業種で進出全体の約6割を占めるものの、両業種とも4年前から約1割の減少となった。
3番目以降は「サービス業」(1340社)、「金融・保険業」(420社)、「小売業」(390社)、「運輸・通信業」(227社)の順。このうち、金融・保険業と不動産業はともに4年前から2割超、小売業と建設業は同じく1割以上の増加となった。サービス業では、ソフトウェア開発などIT業種のほか、自動運転研究やAI開発など先端技術の開発を手掛ける国内スタートアップ企業の進出や、現地ハイテク企業への出資・提携などの動きも多い。小売業では、米国内での和食人気なども追い風として、ラーメンチェーン店など飲食店の進出も多い。
業種別細分類
最も多いのは「カリフォルニア州」の1700社、ニューヨーク州なども上位
米国 州別進出状況(地図)
詳細な進出地が判明した企業約4200社のうち、進出州が最も多いのはサンフランシスコやロサンゼルスなどの大都市を抱える「カリフォルニア州」(1719社)。カリフォルニア州は米国内で最も人口が多く消費市場として有望なほか、日米間における物流を担う拠点が複数あること、米国ビジネスの主要拠点と位置付ける日本企業も多いことから「ビジネスを始めやすい街」の一つに挙げられる。
次いで多いのは「ニューヨーク州」(657社)で1割超を占める。米国随一のビジネス街を有する同州では、日本企業の駐在オフィスや北米事業の統括拠点、証券会社や銀行など金融機関の拠点も多く進出している。以下、米北部の大都市シカゴを有する「イリノイ州」、年間を通して日本人観光客が多く訪れる「ハワイ州」、米完成車メーカーのフォード・クライスラー・GMのいわゆる“ビッグスリー”が本社を構える「ミシガン州」、日系完成車メーカーの工場がある「テキサス州」が上位を占めた。
州別詳細
トランプ政権下でも冷静だった在米日本企業、バイデン氏の政策で戦略の再点検必要に
トランプ米大統領による対日通商政策やNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しなどで在米日本企業が翻弄されたケースは多い。そのため、市場の縮小などを理由に北米拠点の事業縮小や撤退のほか、円ドル相場の影響もあり国内への生産回帰といった動きも散見されてきた。
しかし、自動車など製造業では依然として工場の新増築などに積極的な資本投下がみられたほか、サービスや小売などでは北米市場の積極的な開拓などの動きも継続。結果的に在米日本企業の総数は大きく減少していない点を見ても、日本企業は米国での事業展開について比較的前向き・冷静に対応してきたともいえる。
今後は、米国による対日・対中通商政策のほか、米国内での政策動向が注視される。仮にバイデン氏が大統領に正式就任する場合には、鉄鋼・アルミニウム関税の導入やTPPの離脱など、トランプ米大統領の下で進められた「アメリカ・ファースト」による通商摩擦の緩和が期待される。しかし、関税政策や米政府による対中強硬姿勢の急転換は難しいとの見方もあり、米国での事業展開や米中間でサプライチェーン網を構築する日本企業では引き続き対応を迫られる。
最も動向が注視されるのは米国内の政策で、特にバイデン氏が重要視する「脱炭素」などの環境政策は、政権交代後は米国全体で加速度的に進むとみられる。風力・太陽光など再生可能エネルギー事業分野では米国への投資機会がこれまで以上に拡大する半面、トランプ大統領が開発を推進してきたシェールオイル・ガスなどのエネルギー政策に対しては、バイデン氏が重視する環境保護の観点から規制が強まるなど、政策方針が180度転換する見込みだ。そのため、電力・ガス会社など資源企業を中心に事業拡大を見込んでシェールガス田の開発などに投資を行ってきた日本企業では、今後は事業縮小や撤退などの動きが本格化する懸念があるほか、米国を主力市場と位置付ける日本の完成車メーカーなども、電動化技術の開発強化を今以上に迫られる可能性が高くなるなど、企業によっては方針の見直しを迫られる。
いずれにしても、トランプ米大統領とは質こそ異なるものの、幅広い業種で北米戦略の総点検が改めて求められるだろう。