インテルは12月4日、Intel Neuromorphic Research Community(INRC)の拡大および研究の進展に関する最新情報を発表した。
INRCは、2018年の発足以来、急速に組織規模を拡大し、現在100を超えるメンバーが参加している。今回、新たにレノボ、ロジテック、メルセデス・ベンツ、プロフェシーをメンバーとして迎え、ビジネスユースケースにおけるニューロモーフィック・コンピューティングの価値を追求していくと発表した。また、INRCによるニューロモーフィック・リサーチ・テストチップ「Loihi」を活用した研究結果を報告した。
インテルラボ ニューロモーフィック・コンピューティング担当ディレクターのマイク・デイビス(Mike Davies)は 、「ニューロモーフィック・コンピューティングの可能性に触発され、コンピューティングの効率性、スピードおよびインテリジェントな機能を桁違いに向上させるべく、2年という短い期間で世界中の何百人もの研究者からなる活気あるコミュニティを形成しました。そして、今回初めてこの目標実現に向けて定量的な兆しが見えてきました。INRCパートナーの皆様とともに、これらの洞察を基にこの初期技術の広範かつディスラプティブな商用アプリケーションの構築を計画しています」と述べている。
インテルは、ニューロモーフィック・コンピューティングの可能性を広げるためにINRCを設立。学界や産業界、政府など各界でこの分野をリードする研究者たちとの協働を通じて、ニューロモーフィック・コンピューティング開発の課題を克服し、今後数年間の中で研究用プロトタイプから業界をリードする製品へと発展させていくことを目指している。
ニューロモーフィック・コンピューティングの発展に伴い、インテルとINRCは、より効率的で適応性の高いロボット工学の実現、大規模なデータベー上の類似コンテンツの高速検索、意思決定が困難な計画および最適化をエッジデバイスによりリアルタイムで行えるようにすることなど、ニューロモーフィック・テクノロジーの実世界における様々なユースケースの可能性を明らかにしている。
既に参加しているフォーチュン500の各社や政府系機関のメンバーに、レノボ、ロジテック、メルセデス・ベンツ、プロフェシーがINRCに加わったことで、ニューロモーフィック技術は着実に進歩し、産業界への応用に期待できるという。
インテルとINRCのメンバーは、ニューロモーフィック・システムで構築されたアプリケーションの継続的な開発やプロトタイピング、テストを通じ、幅広いワークロードにおけるベンチマークが理にかなって向上していることを示す結果を確認。既存の成果と、Intel Labs Dayで発表された新たなベンチマークを組み合わせることで、ニューロモーフィック・コンピューティングは、商用化へと向かう、生体触発のインテリジェント・ワークロードのビジョンを描くことができるとしている。
■Intel Labs Dayにて発表された主な最新情報
・音声コマンド認識
アクセンチュアが、インテルのLoihiチップで音声コマンドを認識する能力を標準的なグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)と比較してテストを行い、Loihiは同等の精度を達成しただけでなく、最大1,000倍のエネルギー効率化および最大200ミリ秒の応答の高速化を実現したことが判明した。メルセデス・ベンツは、INRCを通じて、自動車に新たな音声対話コマンドを追加するなど、これらの結果が実世界のユースケースにどのように応用できるかを検討している。
・ジェスチャー認識
従来のAIは、ビッグデータの解析や何千もの事例にまたがるパターンを認識することに長けているが、コミュニケーションを取る際に使うジェスチャーなど、人それぞれの微妙な違いを学習することは苦手とする。アクセンチュアおよびINRCのパートナー各社は、Loihiの自己学習機能の活用を通じて個別化されたジェスチャーを素早く学習・認識する技術の発展を具体的に実証し、ニューロモーフィック・カメラからの入力を処理することで、Loihiはわずか数回確認するだけで新しいジェスチャーを学習することができる。
・画像検索
小売業界の研究者が画像ベースの商品検索アプリケーションとしてLoihiの性能を評価したところ、従来の中央処理装置(CPU)やGPUソリューションと比較して、同程度の精度を維持しながらも、3倍以上のエネルギー効率で画像特徴ベクトルを生成できることが判明した。これは、Loihiが100万画像データベース内の特徴ベクトルを、CPUと比較して24倍速く、かつ30倍低いエネルギーで検索できることを示す。
・最適化と検索
インテルとパートナー各社は、従来のCPUと比較して、Loihiが1000倍以上高効率に、かつ100倍以上速く最適化や検索の問題を解決できることを発見した。制約充足などの最適化問題は、ドローンがリアルタイムで複雑なナビゲーションの計画や意思決定を行えるようになるなど、エッジでの潜在的価値を引き出す。また、複雑なデータセンターのワークロードにも同じタイプの問題を適用でき、列車の運行計画やロジスティクスの最適化などのタスクを支援することができる。
・ロボティクス
ラトガーズ大学とデルフト工科大学の研究者は、Loihiで動作するロボットナビゲーションおよびマイクロドローン制御アプリケーションの新たなデモンストレーションを発表した。デルフト工科大学のドローンは、250キロヘルツ以上の周波数で動作する進化した35ニューロン・スパイクネットワークを用いてオプティカルフロー着地を実演。また、ラトガーズ大学は、性能を損なうことなく、Loihiのソリューションが従来のモバイルGPUの実装よりも75倍低電力消費であることを発見した。11月に開催された2020 Conference on Robot Learningで発表された研究では、ラトガーズ大学の研究者は、Loihiがディープ・アクター・ネットワークと同等の高精度で、膨大なOpenAI Gymタスクを学習することに成功し、モバイルGPUソリューションと比較して140倍も低い消費電力で学習できることを明らかにした。
さらに、インテルとパートナー各社は、Intel Labs Dayにおいて2つの最先端のニューロモーフィック・ロボティクスのデモンストレーションを披露している。今後もインテルは、ニューロモーフィック・コンピューティングが大小問わず様々な問題に実世界の価値をもたらす可能性を探っていき、INRCからの学習成果を継続的に取り入れ、近日提供開始予定であるインテルの次世代ニューロモーフィック・リサーチ・チップの開発に反映させていくという。