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2022年9月13日【ESG】

ホンダ、二輪事業も炭素中立へ。その行方は電動化が「鍵」に

NEXT MOBILITY編集部

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竹内弘平 取締役 代表執行役副社長ホンダ・ロゴ

ホンダは9月13日、二輪事業の取り組みに関して、取締役代表執行役副社長の竹内弘平氏と常務執行役員の野村欣滋の出席の下、会見を行った。

 

会見では、関わる全ての製品と企業活動を通じて、2050年にカーボンニュートラル実現を目指すホンダの、二輪事業の取り組みについて、主に二輪製品のカーボンニュートラル化に向けたアプローチや、電動化への取り組み、電動二輪車の利用をよりスムーズ&スマートにするために必要な施策などが語られた。

 

 

より具体的には、来たる2025年までにグローバル市場に向けて、10車種以上の電動二輪車を投入していく。

 

一方で日本市場に関してはビジネス向けのコミューターモデルを5車種、一般向けのコミューターモデルを2車種。併せてホンダが「FUN EV(ファンモデル)」と呼ぶ中排気量相当の3車種とキッズ向け1車種を投入する構え。

 

野村欣滋 常務執行役員

 

加えて小型・高性能な全固体電池搭載モデルの将来的な登場も予告し、電動二輪車について小型のコミューターモデルから大型のファンモデルに至る電動二輪車のラインナップを完成させる構想を宣言した。

 

 

なお電動化と合わせてICE(内燃機関搭載)車についても、各国並びに対象地域の実情に合わせたエンジンの改良を施す事で、燃費の向上だけでなくカーボンニュートラルフューエルに対応させるなどを継続的に推し進めて、こちらについても四輪車と同じく2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すとしている。

 

登壇した野村欣滋常務執行役員は、ファンモデルのパワーユニットに関して水素エンジンなどの内燃エンジンの可能性について、少なくとも会見の段階では技術上の課題を挙げて否定し、二輪車のカーボンニュートラル化に関しては、自社開発している全固体電池技術を反映させた電動化二輪車のラインナップの完成に拘りを見せた。

 

1.二輪製品のカーボンニュートラル化に向けたアプローチ

 

ホンダでは、小型コミューターから大型FUNモデルまで、様々な二輪車をグローバルに展開。特に新興国では、コミューターモデルを中心に生活に欠かせないライフラインとしての大きな需要があるが、一方で、電動車の普及に向けては、その重量や価格に加え、各国政府のインセンティブや規制、充電インフラ環境に大きく左右されてしまう需要などの課題を抱えている。

 

こうした現状を踏まえ、ホンダはICE(Internal Combustion Engine:インターナル・コンバッション・エンジン)の進化にも継続的に取り組みながら、今後の環境戦略の主軸として二輪車の電動化を加速させることで、2040年代に全ての二輪製品でのカーボンニュートラル実現を目指し、引き続き、二輪車の環境トップランナーとして業界をリードしていく。

 

(1)ICEの継続的な進化への取り組み

 

二輪車ならではの幅広いニーズや使用環境に対応しつつカーボンニュートラルを実現するため、ICEのCO2排出量削減に継続的に取り組んでいる他、ガソリンやエタノールなどを混合したカーボンニュートラル燃料に対応するモデルの開発も進めてきた。

 

具体的には、ブラジルで既にフレックスフューエル(E100/※1)対応モデルを販売している他、二輪車の主要市場の一つであるインドに於いても、2023年以降に先ずフレックスフューエル(E20/※1)対応モデルを、続く2025年にフレックスフューエル(E100)対応モデルの発売を予定している。

 

※1:ガソリンとエタノールの混合燃料。ガソリン100%からエタノール100%までさまざまな混合比率があり、E100はエタノール比率100%、E20はエタノール比率20%を指す。

 

 

2.電動化への取り組み

 

(1)幅広いニーズに応える電動二輪車を投入

 

今後拡大が期待される市場に対し、幅広いニーズに応える電動二輪車を投入していく。2025年までに、コミューターとFUNモデルをあわせて合計10モデル以上投入することで、今後5年以内に年間100万台、2030年には、販売構成比の約15%にあたる年間350万台レベルの電動車販売を目指す。

 

 

<商品展開の詳細>

 

①コミューターEV

 

近年の企業の環境意識の変化による、ビジネス用電動二輪車の需要増を受けて、「Honda e: ビジネスバイク」シリーズを展開。それらは既に、日本郵便やベトナムポスト(※2)で活用されている。タイではさらに、タイランドポスト(※3)との共同実証を開始、今月から「BENLY e:(ベンリィ イー)」の生産・販売開始を予定するなど、ビジネス用電動二輪車の海外展開を加速する。

 

なお、これらモデルには、航続距離や充電時間など、電動車普及の課題解決にもつながる交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」が採用されている。

 

パーソナルユースについては、2024年から2025年の間に2モデルを投入し、アジア、欧州、日本での販売を予定。将来に向けては、市場環境や用途、技術進化も踏まえ、交換式バッテリー以外の選択肢も視野に入れ検討を進めている。

 

②コミューターEM(※4)・EB(※5)

 

現在、電動二輪車の世界市場(約5,000万台)の約9割以上を占めるともいわれるEM・EBに関しては、日常のより手軽な移動手段として普及している最大市場の中国で、ホンダの現地サプライヤーインフラとものづくり体制を活用し、商品を展開。今後は、EM・EBの需要がグローバルに拡大することを見据え、よりコンパクトで求めやすい価格のEM・EBを、今年から2024年の間に、中国に加えアジア、欧州、日本に計5モデル投入する予定。

 

③FUN EV

 

現在開発を進めているFUN EV向けプラットフォームを活用した大型モデルを、2024年から2025年の間に日本、米国、欧州に計3モデル投入予定。また、操る喜びを次世代につなげるキッズ向けモデルも投入するなど、コミューター領域のみならずFUN領域に於いても積極的に電動化を進める。

 

※2:ベトナムの郵便事業会社、Vietnam Post Corporation。
※3:タイの郵便事業会社、Thailand Post Company Limited。
※4:Electric Moped(電動モペット)と呼ばれる、最高速度25km/h~50km/hのカテゴリー。
※5:Electric Bicycle(電動自転車)と呼ばれる、最高速度25km/h以下のカテゴリー。電動アシスト自転車は含まない。

 

 

 

(2)電動二輪車拡大を支える、高効率なものづくりを展開

 

これまでICE搭載車のプラットフォーム展開で培った競争力あるものづくりのノウハウをベースに、電動車の主要3部品(バッテリー、PCU、モーター)と組み合わせた電動二輪車用プラットフォームを開発、展開。顧客のニーズに高効率なものづくりで応えることで、電動車でも変わらず「移動の喜び」を求めやすい価格で提供していく。

 

また、電動車の基幹部品であるバッテリーについては、自社リソースを積極的に活用し、現在開発中の全固体電池の二輪車への導入を目指す。

 

 

 

3.電動二輪車の利用をよりスムーズ&スマートに

 

(1)充電インフラの整備とバッテリーの規格共通化に向けた取り組み

 

電動車の普及には、充電インフラの整備やバッテリー規格の共通化が重要であることから、充電インフラ整備の一環として、バッテリーシェアリングの拡大に取り組んでいる。

 

①バッテリーシェアリングの拡大

 

・二輪の主要市場の一つであるインドネシアに於いて、モバイルパワーパックとその搭載車を活用したバッテリーシェアリングの運営を行う合弁会社を設立し、現在、バリ島でバッテリーシェアリングサービス事業を展開。

 

・インドでは、電動三輪タクシー(リキシャ)向けバッテリーシェアリングサービス事業を今年中に開始する予定。その他アジア各国に於いても、バッテリーシェアリングの取り組みを計画している。

 

・日本では、今年4月にENEOSホールディングスおよび国内の二輪メーカー4社(※6)と、電動二輪車の共通仕様バッテリーのシェアリングサービス提供、そのためのインフラ整備を目的とする「Gachaco(ガチャコ)」を設立。今秋には二輪車向けバッテリーシェアリングサービスを開始する予定。

 

②バッテリーの規格共通化

 

・日本では“JASO TP21003(※7)”をベースに国内の二輪メーカー4社で共通仕様に合意。

 

・欧州ではバッテリーのコンソーシアム(※8)に参加、インドではパートナー企業とともに交換式バッテリーの規格共通化を推進している。

 

※6:ホンダ、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機。
※7:JASO公益社団法人 自動車技術会規格のテクニカルペーパー(TP)の21003「二輪電気自動車用交換式バッテリのガイドライン」。
※8:電動二輪車および小型電動モビリティの普及を目的とした、交換式バッテリーのコンソーシアム「Swappable Batteries Motorcycle Consortium(SBMC)」。

 

 

(2)ソフトウェア領域の強化

 

電動車の付加価値を高めるため、従来のハード売り切り型主体のビジネスから、ハードとソフトウェアを融合した事業への変革を目指している。

 

ソフトウェア開発には、子会社である「Drivemode(ドライブモード)社(※9)」と共同で取り組み、電動二輪車に於けるコネクテッド領域の新価値創造を強化していく。具体的には、航続可能距離を踏まえた最適ルートや、充電スポットの案内、安全運転コーチングやアフターサービスの支援など、移動時間の質を持続的に豊かにするUX(ユーザーエクスペリエンス)を、2024年に発売予定のコミューターEVから順次提供していく。

 

さらに将来的には、二輪事業に留まらず、様々なホンダ製品を連携、領域を超えて繋がる、より大きな価値を創出するコネクテッドプラットフォームの構築に取り組んでいく。

 

※9:「すべての人の運転を、もっとスマートで安全に」を目指し、モビリティのUXを変革するソフトウェアの開発企業。

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。