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2025年3月4日【イベント】

ホンダ、2025・F1開幕イベントに係る詳細を発信

坂上 賢治

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本田技研工業(ホンダ)、レース運営子会社のホンダ・レーシング(HRC)、鈴鹿サーキット運営子会社のホンダモビリティランド(HML)は3月4日、FIAフォーミュラ・ワン世界選手権(F1)の2025年シーズン開幕にあたり、F1開幕前説明を発信した。

 

 

より具体的には、HRC代表取締役社長 渡辺 康治氏(わたなべ こうじ)、HRC F1 パワーユニット開発総責任者 角田 哲史氏(かくだ てつし)、HML代表取締役社長 斎藤 毅氏(さいとう つよし)が、その概要を説明した。

 

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HondaとF1の関わり − F1初優勝から60年
1964年、HondaはF1への挑戦を開始した。当時のホンダは、四輪車生産を始めてまだ2年目。無謀とも言えるが、高い目標を掲げ、果敢に挑むというHondaの企業文化を象徴する挑戦となった。

 

 

1964年シーズンは3レースに出場したものの、全てリタイアに終わった。翌1965年、最終戦となるメキシコグランプリは標高2,000mの高地での開催であり、空気が希薄なため、エンジンに厳しいサーキットであったため、同社は高地に於いて性能を発揮する燃料噴射装置を開発・搭載。これが非常に有効に働き、Hondaのマシン「RA272」は、スタートからフィニッシュまで終始トップを走り続け、F1初優勝を果たした。それから60年、2025年は初優勝から歩んできた節目の年にあたる。

 

1965年メキシコグランプリでの初優勝の様子
動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=l0WCzuvMEfg

 

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現代F1の進化と、HRCのオペレーション
1964年の初参戦から60年以上が経過し、時代や環境は大きく変わった。2014年にはF1がハイブリッド技術を導入し、「エンジン」は「パワーユニット(PU)」も変化。ホンダF1第三期の2008年から、ハイブリッドシステム搭載後の2016年の8年間で、最高出力は200馬力以上向上し、一方で最高出力が出る瞬間に必要な燃料は3分の2にまで抑えられるようになっていた。

 

現代のF1は、燃料の持つエネルギーを最大限動力に換えるため、熱効率を極限まで高める、世界一のハードウェアを決める技術開発の舞台になっている。また、デジタル技術の進化も大きな変化があった。

 

 

F1マシンに取り付けた数百個のセンサーからの情報は、瞬時に栃木県にあるHRC Sakuraに送られ、解析され、次のマシンセッティングに反映される。取得するデータの項目は、F1第三期の時代には3,000ほどであったものが、現在は20,000以上にまで増加している。

 

 

これらのデータを解析して、PUに何が起きているのか把握して性能を引き出さなければ、F1の戦いで勝つことはできない。例えば、レース中もリアルタイムでPUのエネルギーマネジメントを変更しながら戦っている。これらの解析・設定に使用するソフトウェアもHRCで開発しており、F1はハードだけでなくソフトも含めた、世界最先端のデジタルの戦いになっている。

 

また、現代F1はレース数も増加。2025年は世界中で24戦が行われる予定であり、その3分の1を欧州が占める。1シーズンを戦うには複雑なオペレーションが要求されるため、2023年に米国のHPDをHRC USに改編したことに続き、2024年には英国・ミルトンキーンズにHRC UKを設立し活動を開始。HRC UKは、新たにAston Martin Formula One Teamとタッグを組む2026年以降も、Honda F1の活動拠点として重要な位置づけとなっている。

 

F1開催サーキットとリアルタイムで結ばれているHRC SakuraのSMR(Sakura Mission Room)

HRC UK

 

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F1挑戦の意義:技術者を育てる
F1は2週間毎、時には毎週レースがあり、限られた時間で目標を設定して1馬力を積み上げ、現場では千分の1秒を争う圧倒的な速さと精度が求められる。こうした環境に身を置くことでしか得られない経験は、技術者を大きく成長させる。

 

F1は最先端であるがゆえに、そこで使われる技術はそのまま製品に適用できるものではない。しかし、F1を経験したエンジニアが、量産車のハイブリッド技術「e:HEV」や、「eVTOL」の開発に携わるなど、Honda全体で新たな価値を生み出す原動力になっている。

 

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2025年 Red Bullとのラストシーズン、そして2026年へ
2018年に始まったF1でのRed Bullグループとのコラボレーションは今年が最終年となる。2019年オーストリアグランプリでのHonda F1第四期初優勝、ブラジルグランプリでの1-2フィニッシュ、2020年イタリアグランプリでのScuderia AlphaTauriの優勝。そして2023年には22戦21勝という、F1史上過去最高の勝率、そのいずれをもRed Bullグループとともに成し遂げた。

 

またHondaの技術が入ったPUが、マックス・フェルスタッペン選手の2021年から4年連続でのドライバーズチャンピオン獲得に貢献してきた。ラストシーズンとなる2025年も、チャンピオン獲得を目指し、最後まで全力で戦っていく。

 

2019年オーストリアグランプリで優勝したフェルスタッペン選手

2021年ドライバーズチャンピオンを獲得したフェルスタッペン選手

 

2026年シーズンは車体もPUも新しいレギュレーションとなる。現在、エンジンとモーターの最高出力の比率はおよそ8対2だが、2026年にはほぼ5対5となり、単位時間に使用できる燃料の量も減少する。また、燃料は100%カーボンニュートラル燃料が義務付けられる。更にこうした技術開発を一定のコスト制限の下で行う規則が適用される。

 

これら3点の新レギュレーションは、F1のサステナブルな未来への志向に基づくものであり、ホンダが目指すカーボンニュートラルの方向性に合致している。新レギュレーションは高いハードルではあるが、2026年シーズンに向けて、引き続き全力で開発に取り組んでいく。

 

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F1活動によるブランド力向上 − F1の成長:北米での人気の高まり
1950年に始まったF1は、世界最高峰の四輪レースとして地位を確立し、今年で75周年を迎える。テクノロジーを競い合う競技・スポーツとしての側面はもちろん、世界有数のエンターテインメントとして広がりをみせている。

 

年間延べ650万人がサーキットで観戦、TV視聴者数は年間で累計15億人を超え、グローバルファンは7億人以上といわれている。その背景には、2016年に米国企業のリバティメディアがF1の興行権を買収したことや、Netflixのドキュメンタリー番組による北米でのF1人気の高まりがあり、2025年は全24戦中5戦が北米で開催される予定だ。

 

また、2023年のF1の総収入は、前年比25%増加の32億USドルに達し、巨大なスポーツビジネスへと成長している。特に若年層ファンの拡大が顕著で、2022年シーズンには、25歳以下の観戦者数が前年に対し21%増加しており、2023年にはF1公式ソーシャルメディアのフォロワー数は7,000万人超となり、2018年の1,850万人から大幅に増加した。

 

加えて北米はホンダにとっても主要市場であり、F1の活動はホンダのブランド力向上に大きな貢献ができると同社でも捉えている。更に世界的な人気の高まりに伴い、BtoBビジネスの側面でも、多様なパートナーが増えており、IT、金融、ファッションなど、様々な業界から注目が集まっている。

 

 

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日本の状況・今後の可能性
こうした海外でのF1の注目度の高まりもあり、F1日本グランプリの海外からの来場者は、2019年では全来場者の9%にあたる1万500人だったものが、2024年は22%にあたる5万人となった。海外からの来場者も含め、2024年の日本グランプリの全来場者数は22万9千人となり、観客動員は着実に増えている。

 

しかし国際的なF1シリーズ全体のグランプリ来場者の平均年齢が37歳であることに対し、日本国内来場者の平均年齢は48歳となっており、日本グランプリの来場者は1980年代後半から1990年代初頭のF1ブームを体験した世代の方が中心となっている。また、グローバルでは様々な業界からF1に関わる企業が増えているが、日本企業が関わる事例は限りなく少ない状況でもある。

 

しかし、このような状況は多くの可能性を含んでいるとも言える。約30年前のF1ブームの時代とは、個人の価値観や社会環境も大きく変わっており、世界最高峰のエンターテインメントに成長したF1は、新たなファンを惹きつけることができるのではないかとホンダでも考えて始めている。また日本企業が経営戦略として、世界的なマーケティングやホスピタリティー、ビジネスマッチングを目的に、F1日本グランプリを活用することも可能だ。

 

ホンダのホームである日本の鈴鹿サーキットが、将来にわたってF1グランプリを継続して開催していくために、同社グループ全体を捉え、現在のレースファン、これからファン、さらには一緒に日本でのF1を盛り上げてくださる企業を巻き込んで、F1の魅力や価値を最大化させ、次世代に繫がる取り組みを加速させていきたいと考えているとホンダでは語っている。

 

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日本のF1ファン拡大・F1ビジネス拡大に向けた取り組み
-F1日本グランプリ:F1とのタッチポイント拡大とビジネスカンファレンスの開催-

 

F1日本グランプリは、鈴鹿サーキットでは1987年に初めて開催された。これまでの累計観客動員は880万人に上り、4月6日に決勝を迎える今年で35回目の開催となる。

 

 

そうした背景を踏まえホンダは、サーキット来場者に留まらず、より多くの方にF1と関わりをもって貰えるよう、BtoCの観点でF1とのタッチポイントを増やす取り組みを進めていく考えだ。

 

2024年11月には、歌舞伎俳優の市川團十郎さんを日本グランプリ公式アンバサダーに迎え、東京・歌舞伎座で、F1ラスベガスグランプリのパブリックビューイングイベントとF1マシン展示を行った。2025年4月のF1日本グランプリでは、市川團十郎さん、市川新之助さん親子に決勝レース時のオープニングセレモニーで歌舞伎舞踊を披露して貰う予定という。

 

またBtoBの観点に於いては、鈴鹿サーキット・F1日本グランプリのカーボンニュートラル実現のために、太陽光オンサイト型PPAによる再生可能エネルギーの導入や、脱使い捨てプラスチックの取り組みなど、サステナビリティー分野で他社との協業も精力的に取り組んでいる。

 

均は、この取り組みを更に加速させるため、HMLはF1日本グランプリ期間中の4月4日(金)に鈴鹿サーキットに於いて、日本国内企業向けに初めて「F1日本グランプリビジネスカンファレンス」を開催する。ビジネス視点での魅力や活用事例を紹介することで、F1日本グランプリをビジネスフィールドとして捉えて貰える働きかけを行っていく。

 

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F1 TOKYO FAN FESTIVALとF1ショーランの開催
BtoCのタッチポイントをさらに増やす取り組みとして、ホンダとHMLは、F1日本グランプリ公式プロモーションイベント「F1 TOKYO FAN FESTIVAL 2025」を、2025年4月2日(水)と4月4日(金)から6日(日)の4日間、東京BAY(お台場・青海)で開催する。

 

F1日本グランプリのパブリックビューイングに加え、F1マシン展示、体験型のF1イベント、音楽ライブ、F1開催国の料理など、レースファンだけに留まらず、レースを観たことのない世代や層も、家族連れも包括して、皆で楽しめるコンテンツを数多く用意する。

 

また4月2日(水)には、国際トップモータースポーツ体験事業実⾏委員会が主催し、ホンダとレッドブル・ジャパンがサポートするF1マシンによるショーラン(デモ走行)イベント「Red Bull Showrun x Powered by Honda」を開催。東京 お台場をOracle Red Bull RacingとホンダのF1マシンが駆け抜ける。

 

 

ホンダは、「F1日本グランプリ来場者に満足いただくことに加え、鈴鹿サーキットに来場いただくことが難しい方、F1に興味を持ち始めたばかりの方にもF1を楽しんでいただける場をHondaグループ一体となって作り上げていきます」と語った。

 

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メモラビリア事業の検討
最後にホンダは、歴史的なレーシングマシンを展示する施設として、栃木県のモビリティリゾートもてぎにあるホンダ・コレクション・ホールと、鈴鹿サーキットにあるHonda RACING Galleryを運営しているが、現在も両施設ではマシンを走行可能な状態で維持する動態保存を行っている。

 

そのために同社では動態保存のための過去のF1マシンについて複数のスペアエンジンや部品を所蔵しており、これらのエンジンや部品のうち、動態保存に影響のないものを販売するメモラビリア事業も検討中している。

 

その一例として、1990年にアイルトン・セナがドライブしたMcLaren Honda MP4/5Bに搭載したV10エンジン「RA100E」に、実際にセナが使用したというHRCの証明書を付けて販売する企画を進めている。

 

詳細は4月初旬、F1日本グランプリに合わせて発表される。F1を心から愛するファンに、自社F1への挑戦の歴史の一部を、所有して貰える価値ある事業にしていきたいと結んだ。

 

McLaren Honda MP4/5B

MP4/5Bに搭載されたV10エンジンRA100E

 

関連記事:ホンダ、お台場でF1東京ファンフェスティバル2025を開催

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。