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2022年3月4日【オピニオン】

日野自動車、エンジン性能改ざん不正。対象車両11万5526台

坂上 賢治

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日野自動車・ロゴ

商用車部門で国内販売シェア3割(2021年3月期・国内販売台数5万9676台)を誇る日野自動車は3月4日、ディーゼルエンジンの排出ガス等の評価試験データを、評価試験途中に劣化した排ガス処理装置を交換する(中型車用エンジン)他、測定装置の設定を変更して、実際よりも燃費値を操作するなどで法律の規制値に合う数値になるよう改ざん(大型車向けエンジン)していた事を国土交通省に提出したと発表した。(坂上 賢治)

 

同社は、この評価試験を根拠に、日本国内に於ける自動車の販売許可となる「型式認証」を取得していた。

 

今回の不正発覚に至った経緯は、今から3年4ヶ月前の2018年11月に北米出荷車両の搭載エンジンが、米国当地の法規に適応していない事に日野の社員が気付いた事が発端。以降、同社に於いて社内調査を開始。米国の弁護士を介して米当局に随時報告、米司法省の調査も開始された。日野では、これを契機に関連調査を、日本国内出荷車両の搭載エンジンへ広げた事でエンジン性能の改ざんが浮上した流れ。

 

再試験は2021年4月から開始。試験は中型エンジンで7ヶ月、大型エンジンで9ヶ月を消化。その再試験を経た結果、2021年11月に不正を確認。具体的な不正内容を確かめた上で今発表に至った。

 

日野の小木曽聡社長(社長就任は2021年6月24日付)は3月4日・同日の16時から、都内で開いた緊急の記者会見(前社長の下義生会長も同席)を開き、同壇上で詰め掛けた報道陣を前に「お客様を筆頭に様々な方へご迷惑とご心配をお掛けする事に心より深くお詫びする。今後はコンプライス最優先を明確にしていきたい」と陳謝した。

 

また、外部有識者による〝特別調査委員会〟を立ち上げ、原因解明や開発業務改革等の再発防止策を検討して貰う方針も示した。

 

先の通り国土交通省と経済産業省に対して日野は、〝排出ガス性能〟〝燃費性能〟を行政側が確認するべく、国として定めていた試験で不正行為を行っていた事を報告。これを受けた国土交通省は、日野の不正行為が自動車ユーザーの信頼を損ない、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為で「極めて遺憾」とし、事実関係の詳細な調査と再発防止策を検討し速やかに報告する事を指示。

 

これらの登録済みの車両について、リコールで対応可能なものについては速やかに実施する事。車両の利用ユーザーに対して丁寧な説明や対応に努めることも併せて指示した。

 

今会見で対象となっているエンジンは、同社が自社国内工場で製造している中型車向けエンジン1機種と大型車向けエンジン2機種。日野では、これらのエンジンを搭載している中大型のトラック並びにバス車両の出荷停止(年間生産2万2000台規模・国内販売の35%)を決めた。

 

同現況を踏まえて同社は、既に出荷済となっている車両について最大で約11万5500台(同社の年間国内販売台数の2倍に相当・評価試験データの改ざんエンジンの搭載車である疑い)が数値改ざんの影響を受ける可能性があるとしている。併せて不正の有無について未確認ながらも、燃費性能で問題がある小型車用のエンジン1機種もあり、こちらも調査と対応を進めていく構え。

 

ちなみに今回の不正発覚の発端となった2018年(北米向け車両のエンジンが、米法規に不適応が判明した年)から遡る事2年前の2016年、燃費試験のデータ改ざん問題が発覚した三菱自動車工業による不正に伴い、日野自動車へも国交省からの調査指示があったのだが、その際は〝不正問題はない〟と回答していたが、改めて実施された今調査を元にすると、少なくとも2016年頃から日野に於いても不正行為が行われていた事が判明した。

 

これらの社内に於ける独自の不正調査内容ついて小木曽社長は、「(ここに居たるまでに)不正を見つけられなかったのは会社として大きな問題であると考えている」と話している。

 

同社が不正を行った背景とその原因については、「数値目標の達成の社内圧力や、車両開発スケジュールの厳守で課せられたプレッシャーなどへの対応が取られてこなかった事が原因となった。今後はコンプライアンスの最優先の姿勢の明確化や、従業員ひとりひとりの意識改革への取り組みを進める」と回答した。

 

なお今対象となった3種のエンジン評価不正で、特に中型車向けエンジンの1機種(評価試験途中に浄化装置を交換)については社内調査発覚後の再試験で規制超過の可能性がある事が判ったため、該当する4万3000台はリコール(回収・無償修理)対象となる見込み。

 

残りの2種類は、再試験による正しい数値(今会見に於いては、具体的な改ざんを行った数値に関わる回答を避けた)を国に報告する。

 

加えて小型バス搭載エンジンの1機種では、燃費効率を示す公表数値が実数値よりも高い値になっているが、同日の会見の段階で不正の有無は分かっていないとしている。このため再試験を行い不正の有無を含む詳細が追って報告される見込みだ。

 

日野ではこれまで、認証データを取得する担当がエンジン開発部門に置かれていたが、2021年の4月の組織改革で認証データを取得する部門を分けて品質本部の違うメンバーが実施するように変更した。また再試験も新たな組織体制で行なっている。

 

これら不正対象となったエンジンは、グループ内のトヨタ自動車の小型バス3000台。更に一部で協業体制を敷くいすゞ自動車の大型バス1200台にも搭載されており、日野は親会社となるトヨタへ2021年11月に報告しているとし、対するトヨタ側は、日野が独立した経営体制で事業展開している事を踏まえ「日野が責任を持って速やかに全容解明し、再発防止に万全を期すことが重要だあり、トヨタとしてもそうした取り組みを今後支援していく」との表明を発表している。

 

最後に会見上で日野が挙げたエンジンは、小型から大型までの対象4エンジン。中型エンジンは「A05C(HC-SCR)」、大型エンジン「A09C」と「E13C」(出荷停止・エンジン性能上の数値不正)。小型エンジン「N04C(尿素SCR)」の4機種(Model切り替え対象のため新規出荷なし・燃費性能上の問題で今後、不正の有無を検証していく)。出荷停止エンジンについては、改めて認可を取り直すため出荷再開の目処は立っていない。

 

対象車両としては、2022年2月末まで販売したA05C(HC-SCR)を搭載した中型トラック「レンジャー」4万3044台。A09C並びにE13Cを搭載した大型トラック「プロフィア」と大型観光バス「セレガ」で合計7万425台。N04C(尿素SCR)搭載の小型バス「リエッセII」が2057台の都合11万5526台としている。

 

今後の対応で、「A05C(HC-SCR)」搭載車は、マフラー交換などのリコールを検討すると共に制御変更で対応する可能性も模索、商用車としての稼働時間減少を防ぐ事も模索していく。

 

「A09C」と「E13C」搭載車は、諸元値が変わる。このため諸元上で税制優遇だったものが対象外となって追加納税が求められる場合、日野自動車が負担する。「N04C(尿素SCR)」は正しい諸元値を確認した上で必要な対応を行う。今会見段階では、企業経営上の出荷停止に伴う雇用影響の具体的な回答は行わず、これらに関わる進退問題についての回答も避けた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。