GSユアサとNTTコミュニケーションズ(NTT Com)は12月25日、両社がAIによる蓄電池システムの故障予兆検知技術の開発に成功したと発表した。
同技術は、NTT ComがAI技術の一種であるディープラーニングを用いた時系列データ解析技術を提供し、GSユアサがリチウムイオン電池を活用した社内設備の蓄電池データを提供することにより実現したもの。
同技術の開発の概要については以下の通り。
◾開発の背景
リチウムイオン電池は、太陽光・風力発電など再生可能エネルギーの出力変動抑制用途、電力設備や通信設備のバックアップ電源用途、鉄道や船舶、無人搬送車などの移動体用途など、さまざまな形で活用されており、脱炭素社会に向けたEVシフトなどにおいても、今後ますますニーズが高まるものと考えられる。それとあわせ、リチウムイオン電池を安心・安全・安定して使用するための故障予兆検知技術に対するニーズも高まっている。
しかし、偶発的な故障は、事前に想定してデータを取得することが難しく、故障と判定するためのしきい値の設定も、システムの運用条件によって変化する可能性があるため調整が困難であった。加えて、蓄電池システムの大規模化が進むなかでも、経験豊富なオペレーターの目視による診断に頼らざるを得ないという課題も抱えている。
GSユアサとNTT Comは、このような課題を解決するため、2016年からAIを活用した蓄電池の故障予兆検知技術の開発やPoCを進めてきた。今回、同技術の開発に成功したことにより、今後商用環境に実装した際にも、偶発故障の可能性のある蓄電池と正常な蓄電池とを判別し、故障の予兆を数ヵ月前に検知できる可能性が見出された。
これにより、故障が発生する前に故障の可能性がある蓄電池のみを交換することや、省人・効率化した環境で大規模システムの監視が可能になり、安心・安全・安定した社会インフラとしての蓄電池利用が可能になる。
◾️開発技術の概要
蓄電池システムにおける故障の発生は極めて少なく、故障を起こした蓄電池のデータをAIの学習データとして用いることは困難。このような場合、逆に正常なものの特性を学習することで、異常なものを検知する手法もあるが、蓄電池においては、経年劣化や使用条件によって正常な蓄電池の特性が複雑に変化するため、それも容易とはいえない。
そのため、同技術においては、教師なし学習の一種であるAutoencoder※1を用いて異常を検知する手法を確立するとともに、正常時の特性が複雑に変化しても対応できるメンテナンスフリーなAIを開発した。
故障予兆検知技術の開発にあたっては、NTT Comがディープラーニングを用いた時系列データ解析技術を、GSユアサがリチウムイオン電池を活用した社内設備の蓄電池データを提供することで実現。また、現場の技術者が持つ様々な知見を活かすため、コードを書くことなく技術者自らが簡単にAIの設計を行うことができるツール「Node-AI」※2を用いている。
◾️開発技術の評価結果
蓄電池の故障は極めて少ないため、蓄電池システムの実証評価用にGSユアサが社内に設けている電力貯蔵装置(Energy Storage System:ESS)に、既設の正常な蓄電池とは異なる特性データを示す仕掛けを施した蓄電池を設置し、評価を行った。
その結果、正常な蓄電池に対しては、故障予兆を検知することはなかった。一方、仕掛けを施した蓄電池については、従来の定義における故障の基準を満たしていなくても、確実な故障と簡易的に自動判断するための、既存の自動警報発報システムより最大で2ヵ月程度早く検知できた。
また、正常時の特性が変化しても検知できるか検証するため、蓄電池の使用条件を変更した追加評価においても、仕掛けを施した蓄電池を識別できた。
◾️今後の展開
GSユアサでは、様々な用途に利用されている蓄電池システムに対してこの本技術が活用できるかを継続して検証していく。効率よく故障予兆検知を行うシステムが確立できれば、メンテナンス面でかかるコストの削減にも繋げることができる。
また、遠隔監視システムで収集したビッグデータの中から蓄電池の故障データを抽出して学習させ蓄電池の故障を特定する技術も検討していく。
NTT Comでは、今回開発した蓄電池システムの故障予兆検知技術を活用し、GSユアサとの事業創造に取り組む。また、製造業を始めとするカスタマーデータに価値を与えるAI技術の開発を推進し、ICTを活用して社会課題を解決する「Smart World」の実現を目指す。
※1:機械学習におけるアルゴリズムの一つ。入力したデータを圧縮し、同じデータに復元されるように学習する過程でデータの特徴量を抽出できる。
※2:NTT Com独自のAI開発ツールで、GUIにより開発ができるため、開発期間の短縮やプログラミング時のバグ混入のリスクを抑えることが可能。