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2024年6月26日【MaaS】

グラフィット、新四輪型特定原付の実証実験を開始

坂上 賢治

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リーンステア制御の四輪型特定小型原動機付自転車のプロトモデルを発表

 

電動パーソナルモビリティの開発・販売をワンストップで手掛けるglafit ( グラフィット )は6月26日、四輪型特定原付( 四輪型特定小型原動機付自転車 )のプロトタイプを公開し、7月から実証実験を行うことを明らかにした。

 

グラフィットが、新たな車両による実証実施を決めた背景には、これまで免許のいらないパーソナルな移動手段が、ほぼ自転車に限られていたなか、2023年7月から特定小型原動機付自転車の車両区分が新設されたことにあった。

 

この新たな区分により、16歳以上であれば免許不要で乗れる電動キックボード、自転車型着座タイプ、立ち乗り三輪タイプ、四輪車タイプなど、様々なタイプ特定原付が開発されて始めている。

 

一方で近年、取り沙汰されている買い物難民問題( 生活必需品などの買い物が困難な状況に置かれている人 )の背景には、地方の過疎地域などに於ける店舗数の減少だけでなく、公共交通機関の縮小、住民の高齢化など複合的な要素が重なって起きている。

 

つまり、新しい電動モビリティの登場で、パーソナルな移動問題へのアプローチが大きく変わろうとしている。

 

(参考)内閣府 高齢者人口(65歳以上)の推移より抜粋

 

加えて、日本の高齢者人口(65歳以上人口)は令和元年には3,589万人,総人口の28.4%に達し、令和18年には3人に1人が65歳以上になる。

 

今後、高齢化が一層進む中で、高齢運転者の交通事故問題を考えれば、早めに免許返納をしていくことも考えるべきだが、免許返納後の「移動ができなくなるのではないか?」の不安は大きい。

 

課題が取り残されていると感じる高齢者の移動手段へのアプローチ

 

ここで一旦、高齢者が利用できる〝乗りもの〟について翻ってみると、これまでも自転車以外では、時速6km/h以内の速度で移動できる「シニアカー」もあった。

 

しかし、それでは近距離移動に限定されて行けない場所も多く、そうしたなかで新たな特定原付の車両区分であれば、最高時速20km/hのスピードで移動が可能となり、これまでよりも遠くに外出することも可能になる。

 

そんな環境下でグラフィットは、今年3月から5月の期間を設け、特定原付「電動サイクルNFR-01Pro」のクラウドファンディングを〝Makuake〟で実施。

 

この際の購入者からのコメント分析で、自転車型着座タイプのモデルは「自転車一択」だった免許不要のパーソナルモビリティからの脱却として有効であることを確信。しかしその一方で、高齢者自身や家族から、やはり二輪ではまだ不安があるとする意見や相談も多数受けていた。

 

そのためには、返納前から四輪型特定原付などに乗り慣れることで免許返納後の移動への不安を取り除くことが必要との結論に帰着。今回、新たな四輪型の特定原付を新開発し、そのプロトタイプで来たる7月から実証実験を行うことを決めた。

 

今回、グラフィットが、新型の特定原付を開発・実証実験を行うにあたり、参考としたのは、四輪型特定原付を安全に乗るための求められる以下仕様の克服にあった。

 

原動機付自転車のうち、特定原付とする条件は以下の通り

 - 車体の長さ190cm以下、幅60cm以下

 - 原動機として、定格出力が0.60kW以下の電動機を用いること

 - 時速20km/hを超える速度を出すことができないこと

 - 走行中に最高速度の設定を変更することができないこと

 - オートマチック・トランスミッション(AT)機構がとられていること

 - 最高速度表示灯が備えられていること

 

まずグラフィットにとって、新型車開発にあたり最も大きな課題となったのは、規定の車体のサイズで四輪型を作ることへの難しさだ。

 

 

とういうのは一般的に、四輪車であれば、とにかく安定して走行できるように感じるものの、一般公道では必ずしも真っ直ぐに走るだけではない環境下に於いて、車幅600㎜以下と規定される特定原付では、車道と歩道を行き来する際の段差や、スピードを出して旋回する際の遠心力への対処等、ロール安定性の確保が重要な課題となった。

 

75歳の両親と暮らす立場から移動を諦めず、移動する喜びを提供したい

 

そこで同社は、アイシンが開発中の「リーンステア制御」に着目した。この「リーンステア制御」であれば、車速やハンドル角等の情報に基づき、車体の傾斜角をアクチュエータを用いて制御することで、二輪車並の幅の狭い4輪車でも高い自立安定性を実現できる。

 

今後の実証実験では、アイシンの共同開発契約締結を交わしたグラフィット製の四輪型特定原付プロトモデルを利用。7月の和歌山市を皮切りに65歳以上を対象に実証を行う。

 

 

グラフィットでは、このプロトモデルでの試乗・実証を通じ、機能性や操作性の評価や感想の他、所有するのか、シェアリングするのかなど、利用シーン別でのニーズや課題把握などを確認していく。また将来的には自動運転の実装も見据えた製品化施策も目指していくとしている。

 

開催日程(より詳細な実証実験内容は別途発表予定)
7月 7日(日)10:00~17:00 :和歌山城 西の丸広場 (和歌山県和歌山市一番丁3)
7月21日(日)10:00~17:00 :温故創新の森NOVARE(東京都江東区潮見二丁目8番地20号)
7月29日(月)10:00~17:00 :大阪府内で調整中

 

最後にglafit代表取締役社長CEOの鳴海禎造氏は、「パーソナルモビリティの中でも、シニア向けは長らくアップデートされてきませんでした。しかし昨今の高齢者による自動車事故等の報道を受けて、免許返納は毎年進んでおり、やはり免許返納後に於ける個人の移動の自由は制限されてしまうのが現状です。

 

私自身、75歳の両親と暮らしているからこそ見えている、すぐ目の前にある移動課題。 歳をとっても、移動を諦めず、移動する事の喜びや楽しみを提供したいという想いを乗せたプロダクトになった新型の四輪型特定原付を是非、皆様にお乗り頂き、ご意見を頂戴し、開発に活かして参りたいと思っております」と新たな新型車両の実用化を視野した想いを述べた。

 

glafit株式会社
所在地:和歌山県和歌山市出島36-1
代表者:代表取締役CEO 鳴海 禎造
設立年月日:2017年9月1日
公式サイト:https://glafit.com/

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。