NEXT MOBILITY

MENU

2020年7月21日【オピニオン】

コロナ感染も道連れの「Go Toトラベル」、理解に苦しむ”見切り発車”

福田 俊之

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

PHOTO AC © 提供写真

 

– MOBILITY INSIGHT –
本記事は平素、雑誌版に上稿頂いている識者によるNEXT MOBILITYの連載コラムです

 

新型コロナウイルスの感染が再び拡大して不安が広がる中で、政府は観光支援事業「Go To トラベル」のキャンペーンを、補助対象から東京都を除外してまで強引に”見切り発車”する。「命より経済優先」との批判の声も殺到し、その見通しの甘さには理解に苦しむ。
本来、このキャンペーンは、外出自粛の影響で閑古鳥が鳴く観光産業を支援して冷え込んだ地方経済を立て直すための消費喚起を狙った補助事業であり、コロナ感染の収束のメドがついてから実施される段取りだった。だが、感染拡大は一向に収まらないで「第2波」も懸念されて、地域医療が崩壊する恐れもある。そんな厳しい状況下にもかかわらず、青息吐息の旅行・観光業界などからの強い要請で、東京五輪の開催を前提として特別に組まれた7月の4連休に間に合わせるため、急きょ東京を除外するなどの二転三転の方針転換を迫られながらも前倒しで7月22日からの開始となった。(経済ジャーナリスト  福田 俊之)

 

「東京は除外」でも感染は全国的に拡大

 

先が見通せない脅威の新型コロナと共存するには、感染拡大の防止策と経済活動再開のタイミング、そのバランスをどうとるのかが、極めて重要になることは言うまでもない。それには感染拡大の状況の変化に柔軟に対応する必要があり、朝令暮改もやむを得ないだろう。その意味では、当初、全国一律で始める予定だったキャンペーンだが、1日当たりの感染者数が過去最多を記録して、警戒度を最高レベルに引き上げた東京の観光を目的とする旅行と都内の居住者を対象外としたのは当然の対応である。

 

しかし、感染者の増加は東京都ばかりではなく、隣接の首都圏や関西圏の大阪などでも増え続けている。埼玉県では緊急事態宣言解除後、最多を更新。神奈川県でも直近1週間の感染者数が危険水域を超えたため県独自の警戒宣言「神奈川警戒アラート」を発動した。感染防止対策が取られていない場所に行かないことや、事業者にテレワークや時差出勤などを再び求めている。
兵庫県でも不要不急の「外出」と「患者が多数発生している都道府県や人口密集地への移動」の自粛を県民に要請した。国内の感染者数はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者を含めると2万6500人を超えており、死者も1000人以上に達した。

 

食事や入浴時間も制限、万全の防止対策が”おもてなし”

 

東京を除外するだけで感染拡大のリスクが解消されるわけでなく、国が想定した経済効果が得られるかどうかの見通しも曖昧だ。このタイミングでの人の移動が感染拡大につながる恐れがある支援事業の開始にはどうしても無理があるのは明々白々だ。
政府は、この事業に参加するホテルや旅館には、旅行者全員の検温と本人確認、さらに、浴場や食堂などが「3密」にならないように人数や利用時間帯に制限を設けるほか、食事は通常のビュッフェ方式ではなく、従業員が個別で料理を提供し、テーブルの間隔も一定の距離を保つように配置するなどの感染防止対策を義務づけるという。徹底しない事業者や悪質な旅行者は補助対象にしないそうだが、違反者かどうかの確認などについてもどこまでチェック機能が働くのか、疑問視せざるを得ない。

 

そもそも、観光や旅行などのレジャーというものは自由を満喫して解放感を味わうものである。例えば温泉好きならばのんびり湯船に浸かって旅の疲れを癒したり、食事でもご当地の旬の食材を使った料理に舌包みを打ち、連れの仲間と盃を交わし、語り合いながらゆっくり過ごしたいものである。検温はともかく、常にコロナ感染の恐怖に怯えなからの旅行では自由気ままに楽しむこともできないだろう。

 

感染防止の徹底と心のこもったおもてなしで迎える準備を整えて、頑張っている観光地や宿泊施設に横槍を入れるつもりはないが、医療に従事する専門家の中には「重症化しやすい高齢者にも感染が広がっている」との指摘もある。

 

頼みの綱だったインバウンド需要を失った観光業界が、繁忙期のこの夏休みに少しでも稼ぎたい気持ちは痛いほどよく分かる。それでも、特効薬もワクチンも開発途上であり、手の届くところまで普及にはまだまだ時間がかかるだろう。くどいようだが、油断は禁物、感染をこれ以上、広げないためには、個人個人がこまめな手洗いとマスクの着用、それに「3密」を避けて不要不急の外出を控えるほかには効果的な防止策は見当たらないようだ。

 

福田 俊之
1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。