富士通研究所は、オンライン上の取引に関わるサービス事業者や利用者が、取引相手の本人情報の真偽を判断できる、アイデンティティー流通技術「IDentitY eXchange(IDYX)」を開発した。
近年、デジタル化の進展に伴い、顔の見えない相手とオンラインで取引する際に、相手がどのような人物で信用できるのか、判断することが難しくなってきている。
また最近では、経歴や資格などの本人情報を詐称する問題が増えており、信頼できる本人情報の流通が課題になっている。
富士通研究所は、ブロックチェーンを用いた分散型ID(注1)上に、「IDYX」のユーザーが取引を行った際に相手に対してお互いに行う評価と、過去の取引などから個々に構造化されていくユーザー間の関係性を使って、取引相手の本人情報の信用度と詐称リスクを分析する技術を開発。
この技術により、取引前に相手の信用度を、スコアやユーザー間の関係性を表したグラフなどから判断できるようになり、より安全にオンラインサービスが利用できるようになると云う。
[背景]
近年、シェアリングサービスやマッチングサービスなど、企業や個人の信用をもとにした新しいビジネスの形態が増え、サービス事業者や利用者の経歴や資格といった本人情報(アイデンティティー)の正確さが重要になってきている。
そのため、ブロックチェーンを活用し、第三者が保証した自身の本人情報を取引先に正しく開示する分散型IDの検討が進んでいる。
[課題]
分散型IDは、第三者が本人情報の正しさを保証する仕組みではあるが、サービス事業者や利用者が悪意のある第三者と結託することで、経歴や資格の詐称を行うことができ、それを見破ることが難しいまま、広く流通してしまうリスクが存在。
さらに、この仕組みを利用するユーザー規模が膨大化していくと、サービス事業者や利用者、第三者がどのような人物であるかをさらに把握しづらくなるため、不正が行われやすくなる可能性があると云う。
[開発した技術]
富士通研究所では前述の課題解決のため、ブロックチェーン技術を拡張し、分散型IDの仕組み上で、実際に取引を行ったユーザーからの評価やこれまでの取引の実態などから、取引相手の信用性が確認可能な、本人情報を安全に流通させる技術「IDYX」を開発した。
<IDYXの特徴>
1.信用トランザクションデータを生成
IDYXでは、取引によって発生するユーザーごとの評価をトランザクションデータ(一連のデータ)として登録。ブロックチェーン上で、改竄不能な分散台帳に評価を格納していくことで、各ユーザーに対する信用情報の信頼性を向上させる。
2.信用関係を分析
ブロックチェーン上に共有された個々の信用トランザクションのデータから、IDYXユーザー間の関係性が分かるようにグラフ構造に変換。何人のユーザーから信用されているか、どれくらい信用度の高いユーザーから信用されているか、などで重みづけを行い、信用度スコアを付与。
ユーザーが自分の本人情報を保証する第三者との間で不正に評価を上げていた場合でも、グラフ構造の関係性から他のユーザーとの関係性が希薄であることなどが分かり、詐称の可能性の特定ができると云う。
3.必要な本人情報のみを開示
ユーザーは一部の本人情報の開示だけで、それらの真偽を証明することができ、取引を行うことが可能。また取引相手にとっても不必要な個人情報などを取得せずに済み、高信頼な取引が行える。
[効果]
IDYXにより、各ユーザーの信用関係が分析され、取引相手となるユーザーの信用度を事前に把握することが可能に。オンライン上で誰もが安心・安全に取引を行うことができる業種・業界横断のデジタルエコシステムの構築ができると云う。
富士通研究所は今後、IDYXをデジタルビジネスを支えるアイデンティティーの信用基盤サービスとして発展させ、金融をはじめ様々な分野で実証を進め、ブロックチェーン技術を活用したデータ活用のためのクラウドサービス「FUJITSU Intelligent Data Service Virtuora DX データ流通・利活用サービス」の新機能として2019年度中の実装を目指すとしている。
注1)分散型ID:ユーザーが第三者から提供された自身の本人情報(アイデンティティー)を相手に正しく開示することができる仕組み。
[問い合わせ先]
株式会社富士通研究所
スーパーミドルウェア・ユニット、セキュリティ研究所
電話:044-754-2847(直通)
メール:idyx-press@ml.labs.fujitsu.com
■富士通研究所:https://www.fujitsu.com/jp/group/labs/
■(富士通研究所)安心・安全なデータ流通の仕組みで企業や人々が新たな価値を共創できる世界へ(技術者インタビュー):https://www.fujitsu.com/jp/group/labs/about/resources/article/201903-vpx.html