欧州連合(EU)は3月25日、予てよりドイツ政府が提案していた合成燃料( eFuel、詳細は後述 )を使うエンジン車の販売継続( 2035年以降 )を認める事を表明した。( 坂上 賢治 )
結果、世界に先駆けて内燃エンジン車からEVへの転換を示し、一貫して世界を主導して来た欧州連合は、その方針を覆す事になる。
元より欧州連合は、脱炭素( カーボンニュートラル )社会の実現を視野に2021年7月、欧州グリーンディール政策の包括政策パッケージ「FIT for55( 1990年比の全産業で55パーセントの炭素排出を削減 / 域内新車の炭素排出量を2035年に100パーセント削減を目指す )」を発表。
これにより走行中に炭素を排出するハイブリッド車を含む旧来の内燃エンジン車の新車販売を、2035年を期限に禁止するとしていた( 欧州連合は、新自動車排出ガス法に昨年11月段階でようやく合意に達したばかり )。
欧州連合並びにドイツ政府、双方共に今回の合意を高らかに表明
しかし欧州域内最大の自動車生産国であるドイツ政府が今年2月27日になって、内燃エンジン車に環境負荷が低い合成燃料を使う事を条件に、当該燃料を使う内燃エンジン車の新車に限り販売の継続を認めるよう要請。協議が重ねられていた。
この協議の中で、当初フランスやオランダ政府は反対を表明。対してドイツへの部品供給などで強固な繋がりを持つイタリアや東欧諸国はドイツに賛同していた( 2月14日段階行われた事前採決では、賛成340、反対279、棄権が21票 )。
それらを経た3月25日、欧州連合から〝承認〟の回答を受けたドイツ側のフォルカー・ヴィッシング運輸大臣は「2035年以降も、カーボンニュートラル燃料を使う内燃エンジン車に限り、将来の新車販売の道が開かれた」と承認を歓迎。
Der Weg ist frei: Europa bleibt technologieneutral. Fahrzeuge mit Verbrennungsmotor können auch nach 2035 neu zugelassen werden, wenn sie ausschließlich CO2-neutrale Kraftstoffe tanken. 1|2
— Volker Wissing (@Wissing) March 25, 2023
欧州委のティメルマンス上級副委員長もツイッターを介して、合意に達した事を明らかにしている。
We have found an agreement with Germany on the future use of efuels in cars.
We will work now on getting the CO2-standards for cars regulation adopted as soon as possible, and the Commission will follow-up swiftly with the necessary legal steps to implement recital 11.
— Frans Timmermans (@TimmermansEU) March 25, 2023
EV一辺倒が進む欧州で、ドイツ勢は合成燃料の開発を粛々と進めてきた
ちなみにドイツでは、グループ傘下にスポーツカーメーカーを持つフォルクスワーゲンを筆頭に、取り扱いの一部車両に限って内燃エンジンを改良し、走行中の炭素中立を実現するべく、車両本体のみならず周辺の環境整備を精力的に推し進めて来た。
その皮切りは今から10年前の2013年、ルパート・シュタートラー氏( 当時のアウディCEO )が独ザクセン州ドレスデンで、水素と二酸化炭素を電気反応させる〝合成燃料のパイロット精製施設の稼働開始を宣言した事〟に遡るが、より直近では、同じVWグループ傘下のポルシェがシーメンスエナジーと協業。
チリ共和国の事業会社HIF( Highly Innovative Fuels )と、同国内最南端のマガジャネス州で吹く風力エネルギーと水素を利用したグリーンエネルギープロジェクトを推進している
より具体的には、同州プンタアレナスのハルオニ工場に於いて、風力エネルギーを使用して取り出したグリーン水素と、ブラントや大気などから抽出した二酸化炭素で合成燃料( eFuel/イーフェール )を製造する研究と実証で、将来の実用レベルが望める程度にまで漕ぎ着けている。
実際に同燃料を使う内燃エンジンは、走行中に二酸化炭素を排出するが、合成燃料自体が大気等から回収した二酸化炭素を用いて製造されるため、その排出量はプラスマイナス換算で実質ゼロとなる。
これにより現段階に於いて、世界のマーケットで数十億単位の台数のスポーツカーが稼働しているポルシェは、自社ブランドのEV普及に係る巨額のインフラ投資に必要な時間を稼ぐ構えだ。
日本企業を含む世界規模で、動力源の選択肢が広がる可能性も
また欧州域内( 域内の自動車産業界は、同圏・全製造業の12パーセントに相当する約340万人を雇用 )に於ける内燃エンジン車の販売禁止措置については、先のイタリアや東欧諸国の部品・素材メーカーが懸念していたEV製造に伴う構成部品( 受注製造量 )の減少。
内燃エンジンそのものを100年を超えて熟成させ続けて来た欧州独自の技術的優位点が損失する事。更にEV製造の要となる蓄電池材料調達にあたって中国など欧州域外国に依存する事への心配。
充電インフラ施設の拡充で、各国毎の資本体力が異なる事によるエネルギー施設の立ち後れが出る事などへの懸念が出ていた。
なお合成燃料の使用については、一般市販車だけに限らず、フォーミュラワン( F1 )や世界ラリー選手権( WRC )などの自動車レースの舞台でも、化石由来の燃料から合成燃料への移行が急ピッチで進められている。
一方で環境保護団体のグリーンピースなどからは、今回の欧州連合による事案承認に対して、これまで野心的な気候課題への解決を行おうとして来た同連合の決断力と実行力( 合成燃料の製造に伴うエネルギーコスト拡大などを懸念 )に疑問を呈する声も上がっている。