NEXT MOBILITY

MENU

2024年8月13日【MaaS】

電力シェアリングとエネチェンジ、「デコ活」ナッジ実証

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

アジア開発銀行の出身者が設立したエネルギー系スタートアップの〝電力シェアリング〟( 本社:東京都品川区、代表取締役社長:酒井直樹 )は、環境省が旗を振る脱炭素社会を目指す市民運動「デコ活」に係る委託を受け、市民の積極的なCO2排出量ゼロ活動を支える活動を行っている。

 

 

ちなみに、この「デコ活」とは、「脱炭素に繫がる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」という、若干、難しい謳い文句を柔らかく表した愛称を指す。

 

要は二酸化炭素 (CO₂)を減らすことを意味する(脱炭素=Decarbonization)のDEと、環境に優しい (エコロジー=ecology)のECO、更に(生活・活動)を組み合わせた造語。

 

環境省は、2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向けて、国民・消費者のライフスタイル変革を後押しするべく、この「デコ活」を熱心に展開中だ。

 

そんな電力シェアリングは先の2023年、「デコ活」に係るナッジ実証事業の一環として、全国各地に充電拠点を配備するENECHANGE(エネチェンジ)、更にサイバー創研を加えた3社の共同で、ENECHANGEの充電器を利用しているユーザーに向けて、以下の実証実験の参加者募集を行うべく声掛けを行い、EV充電最適化に向けたナッジ社会実証実験(ナッジ<そっと後押しする>×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業)を実施した。

 

 

 

3者が、このような社会実証実験を実施した背景は、2050年のカーボンニュートラル実現を可能とするための、再生可能エネルギー(再エネ)の普及や、デマンドレスポンス(DR/電力の消費量と、発電量のバランスを保つこと)による柔軟な電力需要の調整が重要であるためだ。

 

そのなかでも特に太陽光発電は、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源であるものの、発電量が天候に左右されるという課題があるので、太陽光発電の余剰電力を有効活用するために蓄電池に貯めた電力を有効活用することが大きな鍵となる。

 

そこで、蓄電池に溜めた電力を有効活用するべく政府は、2035年までに乗用車の新車販売に於ける電動車の比率を100%にする目標を掲げ、その達成に向けて、2030年までに、それまでの15万基の倍となる30万口を目指して、EV充電器の設置を増加させることに取り組んでいる。

 

つまり今実証では、ガソリン車よりもCO2排出量が少ないEVの普及にあたり、太陽光発電を含めた自然エネルギーを効率的にモビリティへ活用することが、脱炭素社会の実現のために重要な課題となるという考えに基づく取り組みを行った。

 

 

上記を踏まえた実証実験の実施結果は以下の通り

 

ENECHANGE株式会社等と共同で実施した「デコ活」ナッジ実証実験(EV充電の最適化サブ事業)

 

————————————–

 

(1)上げ下げDRを通じた家庭の電力消費の昼シフトとCO2排出削減の促進

 

・予備実証実施期間
 令和5年11月から12月(1ヶ月間)

 

・実証実験参加世帯及び介入内容
 調査会社のモニタ1,200人を無作為に以下の3つのグループのいずれかに割り当てた。

 

【グループ1】

比較対象としてナッジを提供せず、電力消費量のデータの提供を求めるグループ(対照群)

 

【グループ2】

対照群の内容に加え、スマートフォンのアプリを通じて、過去1年分の電力消費量のデータ等に基づく日々の予測電力消費量(基準値)を示して省エネを依頼すると共に、日々の環境配慮行動(脱炭素アクション)を記録してその実施数やモニタ毎の期間平均炭素強度(CO2排出係数:g-CO2/kWh)に基づいたスコアやランキングを表示するグループ(介入群1)

 

【グループ3】

介入群1の内容に加え、日々の予測電力消費量を下回る電力消費量である場合や環境配慮行動のランキングが上位である場合に金銭価値のある少額のポイントを付与するグループ(介入群2)

 

上記3グループを比較した結果は以下の通りとなった。

 

まず意識面では、「いつもより節電した」や「いつもは夜に使用している電力を昼間に使うようにした」という質問に対して、それぞれ「おおいに当てはまる」や「ある程度当てはまる」と回答した割合が、いずれの介入群に於いても対照群と比較して統計的有意に高いことが実証された(図1・図2)。また介入群での統計的有意差は検出されなかった。

 

図1.「いつもより節電した」への回答

 

次に行動面では、実証実験実施期間中の電力消費量と前年同時期の電力消費量との比較(差の差の検定)により、いずれの介入群でも対照群と比較して、昼間の電力使用量率(一日の電力使用量に占める昼間の電力使用量の割合)が増加する傾向が見られた。但し統計的有意差は検出されなかった。

図2.「いつもは夜に使用している電力を昼間に使うようにした」への回答

 

今後について
令和6年度では、令和5年度の予備的な実証実験の結果を踏まえ、実証実験の参加世帯数や実施期間、介入内容の見直しを行い、エネルギー事業者や複数の地方公共団体等と連携させるなどにより、社会実装時のビジネスモデルを念頭にした更なる実証実験を実施する予定とした。

 

とりわけ介入内容については、どのナッジの要素に効果があるのか、要素間の相乗効果があるのか等の識別ができるようにグループを細分化すると共に、一般的に電力需要の価格弾力性が小さいとも言われる中で、メリハリのある分かりやすい料金メニューをあらかじめ提示して消費者に訴求するため、昼間の特定の時間帯の電力料金を抜本的に低減させること等も想定に入れることを検討する。

 

————————————–

 

(2).街中の充電スポットにおけるEV昼充電の促進

 

・予備実証実施期間:令和5年11月(3週間)

 

・実証実験参加者及び介入内容
EVの充電サービス事業者(ENECHANGE)の顧客を無作為に以下のグループのいずれかに割り当て、実験期間の間に同事業者の充電スポットで1回以上充電をした人を対象に効果を検証した。

 

【グループ・対照群】

比較対象としてナッジを提供せず、充電サービス事業者のスマートフォンのアプリでEVの充電内容を記録するグループ(対照群:180人)

 

 

【グループ・介入群】

対照群の内容に加え、昼充電の意義として再生可能エネルギーの比率の高い時間帯における充電がCO2排出削減に貢献することを伝えるとともに、少額の金銭的インセンティブとして昼充電の実施に応じてクーポン(1回当たり50円相当)を提供するグループ(介入群:179人)

 

参加者毎の期間平均炭素強度の算定について
本事業の実施事業者(株式会社電力シェアリング)が開発した独自特許技術(電力消費の昼シフト等による環境価値を定量的に算定・相対評価した上で消費者に見える化し、同環境価値の取引を可能とする技術)を用いて、参加者毎の期間平均炭素強度(CO2排出係数:g-CO2/kWh)を算定した。

 

当該の実証実験の結果
対照群と介入群の間の比較に於いて、昼充電実施者の割合に関して統計的有意差が検出された。昼充電実施者の割合は、対照群では58%であったのに対し、介入群では90%となり、昼シフト・上げDRの効果としての昼充電実施者の増加率は54%となった(図3)。

 

図3.各グループのEV昼充電実施者の割合

 

また、昼充電率(総充電回数に占める昼充電回数の割合)、昼充電電力量率(総充電電力量に占める昼充電による充電電力量の割合)、参加者毎の期間平均炭素強度に関して、統計的有意差の検出には至らなかったものの介入によりいずれも向上する傾向が見られた。

 

今回の予備実証に於いては、複数のナッジの要素を組み合わせた介入を実施しており、結果からはどの要素に効果があったのか、要素間の相乗効果があったのか等については識別できず、今後の本格実証に於ける課題として残っている。

 

また、実施期間や実験参加者数に関して小規模で実施した予備的な実証実験であったことから、本格実証に於いては、実験期間を延長したり、より多くの参加者に協力いただいたりして実施する予定。

 

今後について
令和6年度に於いては、令和5年度の予備的な実証実験の結果を踏まえて、実証実験の参加人数や実施期間、介入内容の見直し(とりわけ、どのナッジの要素に効果があるのか、要素間の相乗効果があるのか等について)を行う。

 

例えば、EVのユーザー団体(一般社団法人テスラ・オーナーズ・クラブ・ジャパン等)や充電サービスに関わる事業者(ENECHANGE)、昼充電に係る団体(EV昼充電協議会等)、複数の地方公共団体等との連携により、社会実装時のビジネスモデルを念頭に、ナッジ等の行動科学の知見を活用した自発的な行動変容や機器制御を通じて、自宅及び街中それぞれにおける本格的なEV昼充電の実証実験を実施する予定。

 

また、社会実装に当たっては、株式会社電力シェアリングが開発した上述の独自特許技術により、国際的に導入が検討されているHourly Matchingの手法に基づいてEVユーザーや一般消費者、プロシューマ等を含む地域全体脱炭素努力の効果を見える化することで、地域と市民の主導により地域脱炭素を実現するBI-Techモデルを構築し、日本発の先駆的なグリーンイノベーションの好事例とすることを目指す。

 

————————————–

 

関連する報道発表等
環境省ナッジ事業の結果について~再エネの有効利用に向けたEV昼充電の促進~ 
https://www.env.go.jp/press/press_03007.html
(令和6年3月29日付け環境省報道発表)

 

EVの「昼充電」やV2Gのタイムシフトによる環境価値を創出し取引する技術の特許を取得(特許第7246659号)
https://www.d-sharing.jp/blog/5f64ac49ea4
(令和5年4月7日付け株式会社電力シェアリング発表)

 

日本版ナッジ・ユニットBEST のウェブサイト(会議資料、報道発表等)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge.html

 

平成29・30年度年次報告書(日本版ナッジ・ユニットBEST活動報告書)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/report1.pdf

 

報告書「ナッジとEBPM~環境省ナッジ事業を題材とした実践から好循環へ~
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/EBPM.pdf

 

ナッジ等の行動インサイトの活用に関わる倫理チェックリスト ①調査・研究編
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/checklist_study.pdf

 

ナッジ等の行動インサイトの活用に関わる倫理チェックリスト ②社会実装編
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/checklist_deploy.pdf

 

我が国におけるナッジ・ブースト等の行動インサイトの活用の広がりについて
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/hirogari.pdf

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。