実証した三相同軸型超電導ケーブルを前にNEDO、昭和電線ホールディングス(長谷川隆代社長)、BASFジャパンらによる集合写真
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は12月6日、昭和電線ホールディングス、BASFジャパンと共同会見を行い、三相同軸型超電導ケーブルシステムを使った実証試験で大きな成果を上げたと発表した。従来のCVケーブルに比べて送電ロスを95%以上も削減できることを確認できたという。さらに、CO2排出量の削減効果も確認でき、カーボンニュートラル実現に向けた有効な技術の一つになりそうだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
送電ロスによって年間約480億kWhの電力がムダに
地球温暖化への対策として温室効果ガスの削減が求められる中、電力の有効活用が課題となっている。なにしろ、日本の送電によるロスは5%と言われており、それを電力量に換算すると約480億kWhにのぼる。これは100万kW級の発電所がフル稼働して5年以上かかる電力量に匹敵する。これだけの電力量が1年間でムダにされてきたわけだ。
超電導ケーブル
これを解決する高効率な電力供給技術として超電導技術が注目されてきた。しかし、その超伝導状態を維持するには液体窒素などで冷却し続ける必要があるため、実用化に向けて低コストでの運用技術の確立が求められていた。
このような背景の下、NEDOは日本における省エネルギー型経済社会の構築および産業競争力の強化を目指して「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」を推進しており、超電導技術を活用したプロジェクトを昭和電線ケーブルシステムやBASFジャパンなどと始めた。
まず、2017年度~18年度にかけて一般プランと向けに低コストでコンパクトな三相同軸型超電導ケーブルの開発を行った。「超電導は冷却しなければいけないということで、このプロジェクトを始めた当初はどうやって冷却コストを下げていくかが大きな課題だった。その解が三相同軸型超電導ケーブルで、冷却コストも安く、超電導線材も従来の半分しか使わないという非常に効率のいいものを開発した」と昭和電線ホールディングスの長谷川隆代社長は説明する。
通常のCVケーブルは三相交流の各相を独立して流すために3本必要だったが、三相同軸型とすることでケーブルが1本になるため、コンパクトで柔軟性のある構造を実現できた。さらに、中間接続についても既存の技術を発展させた同軸継続構造を採用し、外径340mmのコンパクトな形状となった。この中間接続技術の確立により、線路の長距離化が可能となった。
開発した超電導ケーブルシステム
2026年までに実用化して30年にはさまざまな分野で導入を
そして、2020年11月~21年9月にかけて実際にBASFジャパンの戸塚工場に三相同軸型超電導ケーブルシステムを敷設し、世界初の実証実験を行った。ただ、プラントの既存設備を利用する必要があったことから、構内の既設ラック(高さ5m)上にケーブルを設置したほか、4カ所でケーブルを90度曲げることになったが、ケーブルの柔軟性により問題なく敷設できたという。
約1年間連続かつ安定的に電力を供給する中で、液体窒素によるケーブル冷却と信頼性・安全性の検証、運用コストの算出を行った。その結果、超伝導状態の維持に必要な冷却がより厳しい盛夏でも冷却システムの信頼性・安全性を実証できたほか、設置および運用コストの低減に成功した。
「液体窒素など冷熱を扱うプラントでは、その冷熱が冷却に利用できることから冷凍機の設置が不要であるため、比較的低コストでの運用が可能となり、高い導入効果が見込める。冷媒を既存で有する30MW以上の大規模電力を使うプラント内に超電導ケーブル1kmを適用した場合、従来ケーブルで発生していた送電ロスを95%以上削減できる。この年間省エネルギー量は原油換算で110kLになる」と昭和電線ホールディングスの森下裕一フェローは説明し、それに該当するプラントは日本に300カ所以上あるそうだ。
省エネ効果の比較
「カーボンニュートラルが叫ばれている昨今、製造プロセスの省エネもさることながら、送配電でエネルギーが浪費されていくところを削減していかないと、全体としてエネルギー効率の最適化は図れない。そういう意味でエネルギーの送配電のロスを大きく低減させる超電導という技術は、サスティナブル社会にとって今後不可欠な技術の一つになっていくのではないかと考えている。今後は幅広い分野での導入が見込まれると思う」とはNEDOの和田恭理事。
昭和電線では、この三相同軸型超電導ケーブルをさらにブラッシュアップし、2026年までに実用化し、30年にはさまざまな分野で普通に使われているようにしていきたいそうだ。